初詣は大谷観音

 31日、1日の短い旅行も終了。帰りどこかへ寄るかとなるが、美術館はほとんどが休館中だし観光で周るところもあまりよく知らない。大谷の方行ってみるかということにする。日光から大谷は割と近い。

 いつもだと大谷資料館の地下採石場跡に行くことが多い。あそこは巨大な地下回廊のようで見応えがある。もう何度も行っている。多分片手の指は全部折れるくらいは行っている。正月休みだと人も多いだろうと思い、今回はパスかなとも思った。あの地下は夏でもひんやりとしているのだが、冬で大晦日には雪も降るような陽気だと、地上も寒いのにさらに寒そうな地下に降りるというのもちょっと気がひける。

 ということで大谷資料館をパスしてその近くにある大谷観音に行くことにする。まあここも1、2回は行ってると思う。まあそのくらい日光の保養所には何度も行っているということなんだとは思うけど。

 まずはこちらの立派な観音像。

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 大谷観音というとこの巨大な観音像(約27メートル)を思い浮かべることが多いけど、これは正式には大谷平和観音という。大谷石採掘場の壁面に地元有志によって建立されたもの。第二次世界大戦戦没者の霊を鎮魂するために建てられたものなのだとか。

総務省|一般戦災死没者の追悼|大谷平和観音

戦後間もない昭和23年9月より、当時の大谷観光協会と地元の人々の熱心な後援の
もとに、大谷石採石場であった壁面を利用し、南側の岩肌に観音像を刻みました。東京芸術大学教授・飛田朝次郎が彫刻を手がけ、その指導のもと、大谷町の石工・上野波造氏らが制作にあたりました。6年の歳月を費やした結果、昭和29年12月に完成しました。

 これについてはもともと戦争で弟を亡くした石工、上野波造が鎮魂を目的に一人で観音像を彫り始めていたが病で倒れてしまう。それを観光協会が引き継ぎ飛田浅次郎教授に依頼してこの大掛かりな観音像が出来たという話もあるようだ。いずれにしても個人の思いと戦没者への鎮魂の思いがこういう形に結実した。戦後の国民の間にあった厭戦感、平和を希求する思いがこうした形になったということは、戦後を生きる我々は覚えていてもいいかもしれない。

平和観音像物語 高橋秀雄 - 広告する日記

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 平和観音の裏にあるのが大谷寺の大谷磨崖仏、これが大谷観音である。

大谷寺 | 日本最古の石仏「大谷観音」と高さ27メートルの「平和観音」

大谷磨崖仏 - Wikipedia

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 この摩崖仏は本当に見応えがある。本尊ともいうべき千手観音は平安初期の制作とされる。およそ1200年前で弘法大師の作とされるが、シルクロードの摩崖仏との類似性からも当時渡来した仏師によるものと推定されているとか。このほかに釈迦三尊像、薬師三尊像、阿弥陀三尊像の三体があり、それぞれ平安後期、鎌倉期に造られたものとされているとか。

 とりあえず千手観音に家族の健康を祈った。

日光周遊ー行軍(?) (1月1日)

 日光美術館の後、すぐに宿に戻ろうかとも思ったがせっかくなのでそのまま散歩に出る。といっても東照宮はめちゃ込みだろうからと日光駅の方まで行ってみることにした。いちおうメインストリートで土産物屋なども並ぶところだけど、ほとんど歩いたことがない。若い頃、健保の宿に会社の有志でよく泊まりに行った頃には、夜、酒を買いに行ったりしたことはあったけど記憶は曖昧。

 今思うと、宿に戻ることをあまり考えていなかったけど、日光美術館から神橋の交差点、それから日光駅まではほとんどがダラダラと続く緩い坂道を下る。ということは帰りはそのダラダラ坂を上ることになる。まあ一人なら別に問題はないし、日頃7~8キロのウォーキングだか散歩だかはよくやっているから大丈夫だとは思う。でも当然のごとくというか、妻の車椅子を押してである。車椅子ではゆるい坂を上るのは短い距離なら問題ないけど、それがずっと続くとなるとけっこうきつい。途中から帰ることを考えて暗鬱たる気分になる。

 天気は快晴なのだが、風が強くほとんど強風みたいな感じで前夜の雪がときどき風に舞うようで、行き交う観光客もみんな寒そうにしている。その中で通行人の間を縫うようにして車椅子を押して進む。とにかく風が強くて観光どころの騒ぎではない。

 日光美術館から東武日光駅までは後で距離を測ったらだいたい1.5キロくらい。平坦な道ならぜんぜん普通だし、下りだから楽なはずだが寒さと強風でけっこう難儀した気分。駅までの途中のカフェや甘味系のやっている店は、ほとんどが満員。みんな寒くてとにかく店に入るということなんだろうか。どこも満員で車椅子で入るには難儀しそうだったけど、日光駅のロータリーを回ってから甘味の店を見つけて入ることにする。そこはもともとかき氷屋さんなのだが、この時期はお汁粉セットなどがメインみたい。暖かい店内で暖かいお汁粉でほっと一息する。

 店を出てからどうするか、日光駅でタクシーつかまえて帰ることを考えたが、妻がせっかくだからもう少し散歩しようという言葉で歩いて帰ることにする。でもこれ絶対間違っていた。

 来た道を帰るとまた観光客の間を縫っていくことになる。上りでしんどいうえに人が多いとそれもストレスになるかなと思い、日光警察署の前を通って霧降大橋を渡り大谷川沿いの道を行くことにする。確かにこっちの道は車は通るけど人はまったくといっていいほど誰も歩いていない。しかし遮るものがないので山から川を渡るようにして強風が押し寄せてくる。北西からの風で滅茶苦茶強くて寒い。最初川沿いの側の舗道を歩いていたのだが、すぐに山側の方に移動する。でも風は強い。

 時折風が舞うのか落葉が凄いスピードでくるくると踊っている。これってマイルドな竜巻かと思うくらいな勢いである。そしてダラダラと緩い坂道がえんえんと続く。テレビの「バスサンド」でゆるい坂が続くときに、「こういうの膝にくるんだよ」と富澤が嘆くのをよく見るけど、まさにそんな感じだ。車椅子を押していると膝よりも脹脛や太ももが張ってくる。途中で何度か屈伸して伸ばしたけど、足つりそうな感じである。

 途中で、日光を車椅子を押して歩くのは絶対やってはいけないというのを実感した。しかも65過ぎのジイさんである。普通、ちょっと考えればわかりそうなことだけど、こういうのを身体で痛い思いをしないと学習しないアホなので致し方ない。車椅子なので自分よりも前で風を受ける妻もかなりシンドイとは思うけど、歩きを提案したのは妻なのでこれはしょうがないなとあまり同情はしない。押してる自分もシンドイから。

 強風、寒さ、坂道、車椅子を押しての行軍。なんだか心象風景的には八甲田山死の行軍みたいな感じである。まじに遭難するんじゃないかとも思った。途中で数台タクシーが通りかかるのを見た。おそらく東照宮方面から戻ってきたものだけど、おもわず手を上げようか思ったくらいだ。

 道を半分くらい行ったところで右手に日光小学校が見える。校門のすぐ脇のところに二宮の像がある。薪を背負いながら読書する二宮尊徳像である。最近見ないなと思ったりもする。戦争中は金属は国に拠出されたとか、戦後は本を読みながら歩くのは危険とか、様々な理由で勤勉奨励のこの銅像は撤去されたらしい。今なら本の代わりにスマホをみたいなことになるのか。社畜な良い子はノートパソコンが入ったリュックを背負いながらスマホで検索を続けました。メデタシ、メデタシ。

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 それからしばらく上るとほぼ体力的に限界近くなった。道路が神橋から来る道に突き当たる手前に土産物屋がある。そこに入って妻をそこに残して一人で宿まで車を取りに行くことにした。距離にしたら200~300メートルだけどここからの坂が一番キツイのでとても無理との判断。実際、一人でもけっこう坂道シンドかったのでこれは車椅子を押して上るのは絶対無理だったと思う。車のキーを持って出たいたので、駐車場からすぐに車を出して土産物屋に戻る。車に乗ってからは1分もかかってないかも。

 それから漬物とかちょっとした土産を買い妻を拾って宿に戻った。

 日光では車椅子を押しての観光は多分もうやらない。少なくとも宿から駅へ向かうのは無理。 

小杉放菴記念日光美術館 (1月1日)

 大晦日から日光に来ている。元旦は東照宮周辺は初詣客で混雑しているので、車で出かけるのは難しい。保養所の部屋でのんびり過ごすつもりだったのだが、妻が例によってどこかへ出かけたいという。車で出るのは難しい、となると車椅子でご近所周遊ということになるのだが、大晦日からの雪が数センチ積もっている。思案の挙句に車椅子で行けるところまで行くかということになる。

 宿から道に出るまでは雪だったが、その後はほとんど雪はない。歩道の雪も除雪されているのか溶けたのか端の方に残っているだけ。なので車椅子でも問題なく下っていくことができる。道路はもうびっしりと渋滞している。みんな東照宮の駐車場を目指しているような感じである。

 予めHPで調べていたのだが、小杉放菴日光美術館は大晦日や休館だが三が日だけは開館している。という訳で今年の美術館初詣はまさしく正月元旦に小杉放菴から始めることになった。

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 最初に常設展示で小杉放菴の洋画が展示してある。これはいつものとおり。東大安田講堂の壁画の習作ともいうべき『泉』も展示されている。

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『泉』 (小杉放菴) 

 横山大観に誘われて日本美術院の洋画部門創設に参加した小杉放菴の洋画時代の最大の仕事とされる東京大学安田講堂の大壁画。放菴はシャヴァンヌのソルボンヌ大学壁画を念頭にこの作品を手掛けたとされているが、シャヴァンヌ的テイストと同時に東洋的な風味も活かされている。個人的にはさらにルノワール的な感じも受けたりもするし、土田麦僊の『湯女』『大原女』との類似性みたいなことを思ったりもする。多分キーになるのは装飾性ということかもしれない。

 東大安田講堂には一度だけ行ったことがある。子ども入っていたインカレサークルの演奏を聴くためだ。舞台を囲むアーチ型を壁画を見てすぐにネット検索して小杉放菴の作と知ったときはちょっとした驚きだったことを覚えている。

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 そのため初めてこの日光美術館を訪れた時にあの壁画の習作があると知った時には、これも一種感動だった。なのである意味、日光美術館には『泉』を観に来るというような部分もある。ちなみ今回で三回目の訪問である。

 なお、東大安田講堂と放菴の壁画制作についてはこの小論が詳しい。林洋子氏は多分美術史家の方で藤田嗣治の研究家の方じゃないかと思う。

東京大学安田講堂内壁画について―小杉未醒藤島武二の試み」

林洋子著 東京大学史紀要 2009年

https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400005583.pdf

東京大学・安田講堂内壁画について : 小杉未醒と藤島武二の試み | IRDB

 

 展覧会の方はというと小杉放菴日本画作品をもとに日本画の魅力を解説する企画展となっている。

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展覧会・催し物|小杉放菴記念日光美術館

 パンフレットには詳細に企画意図が書かれているのでその一部を引用する。

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はじめに

 昨今、全国各地の美術館では、「日本画の巨匠」などと銘打った展覧会が開かれ、多くの人々で賑わっている。そもそも、「日本画」とは、明治時代(洋画・油彩画)に対する概念として生まれたことばであり、明治時代以降に制作された、和紙や絹を支持体に、墨や岩絵の具を用いた絵画の総称を指す。やまと絵や浮世絵など、江戸時代以前の日本で描かれた絵画を「日本画」と呼ばないのは、この定義づけによるためだ。

 洋画におけるキャンバスや板にあたるものを日本画では支持体という。これはニワカの自分には初めて耳にする言葉である。それは主に紙に描いた紙本と絹布に描いた絹本の二種類になる。もっとも日本画でも板や石を支持体にするものもあるようだ。

 小杉放菴日本画はほとんどが紙本である。これは放菴が洋画から日本画に転向するきっかけともなったことだが、大正末期に越前の紙匠・初代岩野平三郎によって麻紙(まし)が復活したことによる。

 もともと支持体としての画用紙は平安時代以降「楮紙」だったが、室町時代以降は中国からの輸入に頼るようになり、国産品はほとんどなくなっていた。しかし明治期前後、中国は清朝末期の不安定な政情により画用紙の質が著しく低下したのだという。岩の平三郎は、画家たちが中国輸入の画用紙の品質低下に不満を抱いていることを知り、横山大観や富田溪仙の意見を聞きながら改良を重ねることで麻紙を復活させたのだという。

 小杉放菴は麻紙の薄さや麻の繊維によってにじみやすい特質を自らの画風に取り入れるようにして写実性に富んだ花鳥画を成功させ、墨のにじみを巧にコントロールさせるまでになったという。

 また「色」の部分では岩絵の具や墨について、岩絵の具の原石や膠などを実際に展示して作品との相関を示している他、表装では「軸装」(掛け軸)、「屏風」、「額装」などについて解説されている。

 という訳で今回の展覧会は、ニワカの自分には日本画をより理解するうえでの入門編的な感じで興味深く観ることができた。

 それにしても小杉放菴の画力の確かさには改めて感じ入るところがある。小杉放菴は、初期には小山正太郎の不同舎に入門し洋画を基礎から学んだという。この不同舎で学ぶ若い画家には、おみやげ絵という外国人向けに日本の観光地や風俗を描いた絵をさかんに描いて生活の糧にしていた者が多いという。小杉放菴も日光出身ということもあり、東照宮などの水彩画を多数描いている。不同舎でおみやげ絵を描いた画家では例えば満谷国四郎などもいる。彼のそうしたある種の絵葉書的な作品を昨年京都の近代美術館で観た記憶がある。

 小杉放菴は写実的なおみやげ絵からスタートして、シャヴァンヌの影響から装飾的な洋画を多数描いている。さらに日本画に移ってからは南画、写実、渋い水墨画風、さらにデフォルメをきかしたものなど様々な画風の作品を描いている。けっこうオールマイティな画家だったようだ。

 さらに趣味の部分では、歌人として歌集を上梓している。またスポーツでもテニスや野球を好きだったようで、特にテニスでは大会にも出場しているという。とにかく多彩な人だったようだ。

小杉放庵 - Wikipedia

小杉放庵 :: 東文研アーカイブデータベース

 

 ひとつ残念だったのが、空いている館内でずっとおしゃべりしている三人組がいたこと。一人は若めの女性でこの人が延々と絵の感想などを話し続けている。それやや年配の女性が相槌をうってる。その横で時々話に加わる男性がいる。感想とかをちょっとだけ小声で話すのは、自分も妻と一緒にいるとよくするけど、短時間だけにしている。だから多少の会話は別に気にもしないけど、今回はちょっと酷すぎる感じだった。とにかく女性がずっと話をしている。

 そこで三人のすぐそばに行って絵を観ていると、ちょっとだけ声は潜まったがおしゃべりはその後もずっと続いていた。そしてよく見ると相槌をうっている年配の女性は、スタッフのストラップをつけている。関係者なのかとちょっと興醒めした。ひょっとすると何かの取材の類なのかもしれない。元旦で観覧客も少ないからということなのかもしれない。でも、一応数人とはいえ一般の鑑賞者がいるというのに・・・・・・。

 これが今回、唯一の残念なところでした。

2021年美術館回顧

1.  1月11日 国立近代美術館

美術館初詣は東京国立近代美術館 - トムジィの日常雑記

2.  1月21日 八王子市夢美術館

八王子市夢美術館再訪 - トムジィの日常雑記

3.  2月11日 横浜美術館-トライアローグ

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4.  2月11日 そごう美術館-院展

院展に行く - トムジィの日常雑記

5.  2月25日 東京富士美術館-絵画のドレス~ドレスの絵画

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6.  3月4日  山種美術館川合玉堂

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7.  3月7日  玉堂美術館-紅白梅

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8.  3月7日  青梅市立美術館-宮本十久一展

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9.  3月14日  群馬県立近代美術館

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10.  3月24日 東京国立近代美術館-美術館の春まつり

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11.  3月25日 東京国立近代美術館-妖しい絵展

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12.  4月1日   ポーラ美術館-CONNECTIONS 海を越える憧れ、日本とフランスの150年

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13.    4月2日  池田20世紀美術館

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14.    4月19日 埼玉県立近代美術館

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15.    4月25日 アーティゾン美術館-STEPS AHEAD

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16.    5月5日 山梨県立美術館-テオ・ヤンセン

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17. 5月14日 高崎市タワー美術館-日本画の風雅-名都美術館名品展

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19.    6月3日 東京国立近代美術館MOMATコレクション 特別編 ニッポンの名作130年

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20. 6月6日 高崎市タワー美術館-日本画の風雅-名都美術館名品展

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22. 6月11日 神宮美術館・微古館

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23. 6月11日 三重県立美術館

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24.    6月16日 東京国立近代美術館MOMATコレクション 特別編 ニッポンの名作130年

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25.    6月17日 茨城県近代美術館-日本画の150年

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26.    6月20日 八王子市夢美術館-北斎

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27.    6月23日 龍子記念館

龍子記念館に行って来た - トムジィの日常雑記

28. 6月24日 サトエ記念21世紀美術館

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29.    7月2日    府中市美術館-映えるNIPPON 江戸~昭和名所を描く

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30. 7月7日  太田記念美術館『江戸の天気』

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31.   7月8日  府中市美術館

府中市美術館再訪 - トムジィの日常雑記

32.   7月11日  町田市立国際版画美術館『浮世絵風景画』

町田市立国際版画美術館『浮世絵風景画』 - トムジィの日常雑記

33.   7月14日  MOA美術館『没後80年 竹内栖鳳ー躍動する生命ー』

MOA美術館『没後80年 竹内栖鳳ー躍動する生命ー - トムジィの日常雑記

34.   7月16日  上原美術館

上原美術館『陰翳礼賛』 - トムジィの日常雑記

上原美術館仏教館と達磨大師堂 - トムジィの日常雑記

35.   7月17日  三の丸尚蔵館

三の丸尚蔵館と東御苑 - トムジィの日常雑記

36.   7月22日  東京富士美術館

東京富士美術館へ行く - トムジィの日常雑記

37.   7月26日  水野美術館

水野美術館に行って来た - トムジィの日常雑記

38.   7月30日  東京国立近代美術館

東京国立近代美術館~MOMATコレクション - トムジィの日常雑記

39.   8月4日    龍子記念館

龍子記念館、『草の実』を観る - トムジィの日常雑記

40.   8月4日    大田区立郷土博物館

大田区立郷土博物館~「川瀬巴水-版画で旅する日本の風景-」 - トムジィの日常雑記

41.   8月9日    埼玉県立近代美術館「ボイス+パレルモ

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42.   8月19日  玉堂美術館

玉堂美術館へ行く - トムジィの日常雑記

43.   8月21日        SOMPO美術館

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44.   9月3日   川越市立美術館

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45.   9月6日           サトエ記念21世紀美術館

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46.   9月11日    京都市京セラ美術館

「上村松園」展 - トムジィの日常雑記

47.   9月11日   京都国立近代美術館-発見された日本の風景

京都国立近代美術館 - トムジィの日常雑記

48.   9月12日   豊田市美術館モンドリアン

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49.   9月19日   府中市美術館

府中市美術館「動物の絵 日本とヨーロッパ」展に行く - トムジィの日常雑記

50.   9月21日   青梅市立美術館

青梅市立美術館~「創立100周年記念青梅信用金庫所蔵美術展」 - トムジィの日常雑記

51.   9月21日   玉堂美術館

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52.   9月22日   東京国立近代美術館

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53.   9月23日   群馬県立近代美術館

群馬県立近代美術館「江戸と上毛を彩る画人たち」 - トムジィの日常雑記

群馬県立近代美術館常設展 - トムジィの日常雑記

54.   9月26日          玉県立近代美術館「美男におわす」展

埼玉県立近代美術館「美男におわす」展 - トムジィの日常雑記

55.   9月29日           山崎美術館-橋本雅邦

山崎美術館~橋本雅邦 - トムジィの日常雑記

56.   10月7日            大塚国際美術館

大塚国際美術館① (10月7日) - トムジィの日常雑記

大塚国際美術館② (10月7日) - トムジィの日常雑記

大塚国際美術館③ (10月7日) - トムジィの日常雑記

57.   10月8日    姫路市立美術館

姫路市立美術館 (10月8日) - トムジィの日常雑記

58.   10月9日    岐阜県美術館-「ミレーから印象派への流れ」

岐阜県美術館~「ミレーから印象派への流れ」 (10月9日) - トムジィの日常雑記

59.   10月14日    東京都美術館ゴッホ展 響きあう魂 ヘレーネとヴィンセント」

「ゴッホ展」に行って来た - トムジィの日常雑記

60.   10月20日         三菱一号館美術館イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜」

「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜」展(10月20日) - トムジィの日常雑記

61.   10月21日    高崎市タワー美術館

高崎市タワー美術館「日本画ベストコレクション」展 10月21日 - トムジィの日常雑記

62.   11月5日   朝霞市立博物館

丸沼芸術の森コレクション展 - トムジィの日常雑記

63.   11月6日   山梨県立美術館

シダネルとマルタン展 (11月6日) - トムジィの日常雑記

山梨県立美術館 - トムジィの日常雑記

64.   11月17日         丸紅ギャラリー

丸紅ギャラリーへ行く - トムジィの日常雑記

65.   11月17日          東京国立近代美術館

東京国立近代美術館(MOMAT)再訪 - トムジィの日常雑記

66.   11月18日    湯河原町立美術館

町立湯河原美術館 (11月18日) - トムジィの日常雑記

67.   11月20日    上原美術館鏑木清方 築地川の世界

上原美術館 (11月20日) - トムジィの日常雑記

68.   12月2日            埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館-大タイガー立石展 (12月2日) - トムジィの日常雑記

MOMASコレクション (12月2日) - トムジィの日常雑記

69.   12月9日         世田谷美術館

グランマ・モーゼス展 (12月9日) - トムジィの日常雑記

70.   12月10日    山種美術館

奥村土牛展を観る (12月10日) - トムジィの日常雑記

71.   12月12日    高崎市タワー美術館

高崎市タワー美術館「彩・色を楽しむ」 (12月12日) - トムジィの日常雑記

72.   12月16日    東京国立近代美術館

東京国立近代美術館 (12月16日) - トムジィの日常雑記

73.   12月23日    神奈川県立近代美術館葉山館

神奈川県立近代美術館-葉山館 - トムジィの日常雑記

74.   12月28日         三菱一号館美術館

美術館詣での締めはやっぱり印象派で (12月28日) - トムジィの日常雑記

75.   12月31日    日光東照宮美術館

日光東照宮美術館 - トムジィの日常雑記

日光東照宮美術館

 大晦日と元日を日光で過ごすことになった。健保の保養所に抽選で当たったからだ。

 とにかく家事を回避したいとそれだけで、特に観光するつもりもない。寒い時期の日光に来ても特に行くところもないかなとも思う。元旦は東照宮二荒山神社への初詣客でかなり混雑するはずだ。多分、ずっと宿にいると思う。

 そうはいっても妻はどこかに行きたいと言うに決まっている。なので東照宮に1日早い参拝でもと思ったが、翌日の準備とかでかなり早くに営業(もとい参詣)が終わるみたい。

 日光美術館で小杉放庵でも観るかとも思ったが、大晦日は休館で元旦と二日は開館とかいう。これも初詣客のからみか。

 なので今まで一度も行ったことのない日光東照宮美術館が開館していたので行ってみた。

https://www.toshogu.jp/shisetsu/bijutsu.html

 ここは昭和初期に建築された東照宮の旧社務所を美術館にしたものだとか。靴を脱いで段差のある階段を登り、大きな畳敷きの広間などにある障壁画lを観るというもの。2階に上がったり降りたりを繰り返す。まあ戦前の建築だから仕方ないとはいえとにかくバリアーだらけである。

 ホームページには日本画100点が展示されているというが、今回は障壁画がほとんどで掛け軸の類は一切なかった。多分、正月に向けて東照宮の参詣lの準備もあり、あまり展示のほうに注力できないのかもしれない。

 ただし多くの障壁画も保存状態が良くない。一部には破れなども散見される。修復とかあまりしていないのか、そもそもきちんと学芸員を置いているのか、ちと疑問になったりする。なんかこう、かって栄華を誇った権力者の居宅が没落してしまいましたみたいな感じである。

 ホームページ上では美しい作品も実際は暗い居室になんというか、雑に置いてあるような感じだ。

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『端鳥』(中村岳陵)

 『気球揚がる』などモダンな画風のあの中村岳陵である。この美術館には中村岳陵、荒井寛方、竪山南風の作品が多数あった。襖絵、襖の下部を飾る扇絵などなど。この『端鳥』もこれほど鮮やかではなかったが、美しさは伝わる。

 

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『朝陽之図』(横山大観

 この美術館の目玉的作品のようだが、部屋全体が暗くてよくわからない。部屋の照明をつけないのは作品保護のためなんだろうか。それにしても大観の名画が台無しな感じである。照明を絞るなどしても、きちんと作品を見せるようにしてくれてもいいのにと思った。

 まあいろいろ残念な部分もあるし、とくに畳や板張りの廊下を歩いていると足がえらく冷たい。冬場はこの美術館は鬼門かもしれない。しかし障壁画がそのまま生活の一部として置かれている、襖はそのまま襖として使われている、そういう展示はこれはひょっとすると作品の本来の姿なのかもしれないなどと思ったりもした。そういう意味では一度は行ってみる価値ある美術館かもしれない。

 

 その後は一応東照宮の周辺をちょっとばかり散策。抑えのショットを1、2枚。

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美術館詣での締めはやっぱり印象派で (12月28日)

 多分、今年74回目の美術館詣で。最後の締めはどこにしようかと思った。いつもだとだいたい上野の西洋美術館か竹橋の近代美術館になるのだけど、近代美術館は二週間前に行っている。そうなると選択肢がなくなる。西洋美術館の長期休館はけっこう痛手というか、西美ロスみたいな感覚がある。

 質量ともに素晴らしいコレクションがあるアーティゾンは早々と27日から休館に入っている。行くところないなあと思っていたら、そういえば三菱一号館美術館イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜」展はやっている。あれは始まってすぐに行っているけど出品作品が充実していた。ということで急遽、東京駅まで行くことにする。

 年末なのでけっこう混んでいると想像していたが、案の定けっこうな入場者が。すでに入館待ちの行列が出来ていて「入館まで30分待ち」とのこと。風もなくさして寒くもない陽気だったのでそのまま列に並ぶことにした。

 入館待ちは館内で出来るだけ密にならないよう入場制限をかけているということらしいが、入ってみるとけっこうな人である。順繰りに並びながら観ていくと、例のキャプション読みの人や、音声ガイドのある絵のところで停滞するので、やや後ろから観たり、少し先に進んでから戻ったりした。さすがに二度目だと次の間はどんな作品かわかるので、けっこう余裕こいている。

 まず最初のコロー、ドービーニー、ヨンキントは軽めに眺めて終了。コローは4点、ドービニーは3点だったか。いずれも美しい絵。バルビゾン系とその次にはなんとなくクールベブーダンをはさんで印象派に行く。ブーダンは5点出品されているけどいずれも素敵な絵。

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『潮、海辺の日没』(ブーダン)     『岸辺のボート』 (ブーダン

 夕景を描いたブーダンの絵って多分、初めて観たかもしれない。青や灰色を基調とした寒色系が多いブーダンの赤味を帯びた絵というのも趣がある。

 

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『サモワの運河、曳舟』(シニャック

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『地中海、ル・ラヴァンドゥー』(テオ・ファン・レイセルベルヘ)

 シニャックはいつものシニャック。レイセルベルヘはベルギーの点描派の人。この人のことは確か東京都美術館の新印象派展で知ったような気がする。娘がアンドレ・ジイドと恋愛関係になったとかなんどか。

 この絵はやや紫がかった青が美しい。それにしても点描派の作品は近くで観てもマチエールを確認するくらいで、作品の美しさを確認するのが難しいと思う。点描が大きいシニャックとかエドモン・クロスとかは出来るだけ離れて観た方が作品の全体像やその造形美を味わうことが出来るような気がする。以前、西洋美術館で試したけど、シニャックは7~10メートル離れるとベストポジションだったような。三菱一号館は構造的に距離を置いて観ることが難しいのがちと残念だったりする。

 そしてセザンヌ

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『陽光を浴びたエスタックの朝の眺め』(セザンヌ

 至近で観るとセザンヌはかなり薄塗りの人だったことがわかる。さらにこの作品では下書きの鉛筆の跡も確認できる。さすがにそれは狙ったものではないのだろうけど、革新的な技法を模索するさなかの作品ということなんだろうか。

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『湾曲した道にある樹』(セザンヌ

 遠景と近景、樹木や斜面の草など、それぞれの面で筆触を変えるなど、様々な試みを行っているのかなとか適当に思っている。セザンヌ以前にこうした技法的工夫はないのだろうから、やっぱり近代絵画の父というのは適正な評価なんだろうか。

 

 そしてゴッホのマチエール。

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『麦畑とポピー』(ゴッホ

 至近で観るとこんな感じか。

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 凹凸を含めたマチエールはなかなか図録とかでは確認できないけど、画像を撮るとけっこう確認できる。ゴッホの厚塗りはモンティセリの影響と聞いたことがあるが、確かに厚い。しかしある種のパッションから強烈な色彩を厚く塗り描くというのではなく、ゴッホはけっこう色彩を研究したうえで補色の関係や効果を狙って筆を置いているようにも思ったりもする。構図は前に多分書いたとおもうけど、明らかに浮世絵のそれ。

 

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『ジャンヌの肖像』(ピサロ

 ピサロ肖像画というのはひょっとするとこの絵が初めてかもしれない。ピサロの全作品の中でも肖像画は5%程度ということらしい。その肖像画も注文を受けたものではなく、家族や友人など親密な関係性のある人物を描いているという。このモデルはピサロの娘ジャンヌ・マルグリット・エヴァで、彼女が12歳のときのものだとか。1893年の作品らしいが、ピサロが点描派の影響を脱していない頃のもの。この作品もやや遠目から観ると、少女の若々しい美しさが際立つような気がする。

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『テュイルリー宮廷園、午後の陽光』(ピサロ

 この絵については以前にも書いたような気がする。1900年制作でピサロは70歳、晩年の作品だ。ある種、都市景観画のような俯瞰の構図、ここでは印象派的な筆触分割もなければ、点描表現もない。すっと筆を滑らすような筆致で、美しいがどこか凡庸な風景画といってしまえばそうかもしれない。光に移ろう風景を描くために様々な技法を研究した印象派のリーダーが晩年にこういう絵を描いていたのかと思うと、なんとなく感動すら覚えてくる。

 

 イスラエル博物館のコレクションは多くのユダヤ篤志家の寄贈、遺贈によって成り立っているという。図録の最初に館長であるイド・ブルームはこう記している。

 当館の印象派とポスト印象派の所蔵品には、特筆すべき歴史があります。1965年開館の翌年、初代エドモンド・ドゥ・ロスチャイルド男爵の遺志を受け継いだヤド・ハナディヴ(ロスチャイルド基金)から、セザンヌの古典主義的な風景画、ゴーガンのタヒチで描いた絵画、収穫を描いたファン・ゴッホの素晴らしい風景画といった作品が寄贈されました。

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プロヴァンスの収穫』(ゴッホ

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『ウパ ウパ(炎の踊り)』(ゴーガン)

 これらの絵のキャプションには確かにこうある。

Gift of Yad Hanadiv,Jerusalem,from the collection of Miriam Alexandrine de Rothschild daughter of the first Baron Edomond de Rothschild

 直訳すれば「初代エドモンド・ドゥ・ロスチャイルド男爵の娘ミリアム・アレクサンドリン・ロスチャイルドのコレクションからヤド・ハナティヴの寄贈」ということになるのだろうか。ようはロスチャイルド家のコレクションということか。

 さらに目についたのがこういうキャプションである。

The Sam Spiegel collection, bequeathed to American Friend of the Israel  Museum.

 

Gift of  The Jerusalem Foundation from the Sam Spiegel Collection.

 このキャプションがある作品は前述したヴーダンやセザンヌ作品、ドガ、ボナールなど多数ある。サム・スピーゲル、どこか聞き覚えのある名前だ。

サム・スピーゲル - Wikipedia

Sam Spiegel - Wikipedia

 サム・スピーゲルは、エリア・カザンの『波止場』やジョン・ヒューストンアフリカの女王』やデヴィッド・リーン監督作品のほとんどを制作した有名なプロデューサーだ。成功したユダヤ人実業家でもあり、イスラエル建国運動を支援したシオニスト(?)でもあるようだ。そして彼は膨大な名画コレクターでもあったという。

 しかしあの『アラビアのロレンス』の制作者が、熱心なイスラエルの支持者であり、博物館にコレクションを寄贈しているというのもちょっと違和感というか、面白い因縁のようにも思えたりもする。

 名画のコレクションは莫大な相続税がかかるようなので、様々な基金を通じて寄贈、遺贈することで節税にもあり、イスラエル博物館はコレクションを増やすことができた。そのようにしてユダヤ人の富豪たちは、自らの名画コレクションを寄贈、遺贈し、それがイスラエル博物館の所蔵品を豊なものにしたということだ。American Friend of the Israel  Museumはアメリカにあるイスラエル博物館を支援する非営利団体のようで、こうした団体は世界各国にあり、芸術品の寄贈、遺贈についての税務的便宜も図れるようになっているらしい。

 美しい作品の影にもいろいろな背景がある。ひょっとすると遺贈された人の中には厳しい戦争を生き残った、あのホロコーストの生存者さえいるかもしれない。まあこれは勝手な想像でしかないけど。

智光山こども動物園 (12月26日)

 日曜日、妻がまたどこぞへ行きたいという。暮れも押し迫っているし、出来ればあまり遠出もしたくない。比較的近い美術館とかも公立系はけっこう休館に入ったところもある。出来るだけ近場でと思い、特に目的もなく日高から狭山の方に向かって車を走らせていて、なんとなく見覚えのある景色が見えてきた。智光山公園である。

 ここには小さな動物園があり、子どもが小さかった頃、妻が病気になる前に何度か来たことがある。当時、ふじみ野に住んでいて、近場の動物園というと高坂の子ども自然動物園かここ智光山かということでよく来た。狭山から日高あたりだと曼殊沙華で有名な巾着田にも行った。あそこは暖かい時期だと、子どもに水遊びさせるのにちょうど良かった。

智光山公園 こども動物園 | 智光山公園 | 公益財団法人埼玉県公園緑地協会

 懐かしい動物園だ。そしてとても小さな動物園だ。就学前の子どもだとちょうど良い広さ、規模だと思うけど、多分小学高学年になると物足りない、そういうところだ。ここに来ると、子どもは喜んで走り回っていた。ふれあい広場ではモルモットやうさぎを抱いて、大人しそうにしていた。今でもそのときの光景が目に浮かぶ。そしてもう20年が経過している。

 子どもが小学校に入り、妻が病気になってからしばらくは動物園とか足が遠のいた。妻がリハビリを頑張ったせいか、多少の歩行と車椅子で、どこにでも出かけられるようになると、それまでの出不精が一転してお出かけ大好きになった。動物園、テーマパーク、いろいろなところに行くことになった。でも、共稼ぎで子育てをしている頃は、お互い忙しかったせいもあり、土日に近場のところへ行く、そういう慎ましいというか、大人しい家族だったなと思う。

 暮れも押し迫った動物園は日曜日だというのに驚くほど人が少ない。もっとも3時過ぎで、閉園まで1時間と少しみたいな時間だったことももちろんあるにはある。小さな子どもを連れた家族が数組、中学生の男女6人のグループが一組。女の子が二人、男の子が4人。それぞれに意中の子とかいるんだろうなと微笑ましく思ったりした。そんな中に車椅子に乗った妻と自分、まあ普通に老夫婦である。寂れた小さな動物園の淋しい景色としてはけっこうあっているかもしれないなとか思った。

 動物園というと、自分にとっては横浜野毛山の動物園が一番思い入れがある。あの動物園も街中にあったが、規模はまあ狭山のこの動物園よりはだいぶん大きい。あそこは子どもの頃は父親によく連れていってもらった。思春期の頃は時々一人でいったりもした。高校受験に失敗したときも確かあそこで一日ぼーっとしていた。一人で来ている中学生の子ども、周囲にはどんな風に映ったんだろうね。まあこじらせた子どもということだったのか。

 動物園は自分の中ではある種逃避できるような場所。親になってからは子どもを遊ばせる、あるいは家族団欒の象徴みたいな場所だったか。

 今は、妻と二人でなんとなくゆったりと時間を過ごす場所、そういう感じだろうか。

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 なぜか柚子湯のカピバラ

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人懐っこいロバ

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かわうそ
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たぬき