府中市美術館再訪

 前週に引き続き府中市美術館に行って来た。

 良い環境と美しい美術館、けっこう気に入ったみたい。ちょっと調べてみると、美術館のある府中の森公園は、かっての陸軍燃料廠、戦後米軍に接収され府中基地として使われていたところ。1975年に返還され、基地跡地の再利用計画のもとすすめられきて、2000年に公園の開園と同時に美術館も建設されたということらしい。

府中基地跡地の土地利用について 東京都府中市ホームページ

この公園について|府中の森公園|公園へ行こう!

施設概要・沿革 東京都府中市ホームページ

 企画展『映えるNIPPON 江戸~昭和名所を描く』もけっこう気にいった。特に広重、小林清親川瀬巴水の作品をまとめて観ることができたのは、浮世絵版画に風景表現の変遷みたいなことが感じられた。この企画展は7月11日で終わってしまうのでもう一度観ておきたいというのが再訪の理由。出来れば前期展示(5/22~6/13)の時にも来てみたかったかなと思う。

 企画展で浮世絵版画以外で気になった作品をいくつか。

f:id:tomzt:20200914182600j:plain

『江の島図』(高橋由一) 神奈川県立近代美術館所蔵

 江ノ島は引き潮の時のみ砂州となって陸続きになるが、関東大震災以後ほぼ陸続きとなったとか大昔、学校で習ったような記憶があるのだがどうだったか。この作品は、1876年~1877年頃の作品とか。当時は引き潮引き潮時には、こんな風に行商や江島神社への参拝などで人が行き来していたんだろうか。明治期の景勝地の姿がこのようにして記録されているという点でも価値ある作品だと思う。遠近法と写実表現、この作品と同時期の写真が並列されていて、その近似性について説明されていたのだが、ひょっとしたら由一は写真見て描いたんじゃないかと適当に想像してみる。

f:id:tomzt:20210710002307p:plain

『墨水桜花輝耀の景』(高橋由一) 府中市美術館蔵

 図録によると高橋由一は10代で狩野派に学んだのち、西洋絵画の技法に関心を示し、横浜でチャールズ・ワーグマンに入門して油彩画を習得したという。この作品は浮世絵の画題を油彩で描いたある種の習作的なものだと思う。広重の『名所江戸百景』などにある近景モチーフを極端に強調する「近像型構図」を油彩技法で描いた作品。こういう和洋折衷的な作品は日本における洋画の黎明期にはよくあるもので、秋田蘭画司馬江漢の作品などにも見られるものだ。単なる習作というよりも新たな技法の中で苦闘する先人たちの足跡を思ったりもする。

 

f:id:tomzt:20210710001847p:plain

『小笠原父島から南島・母島を望む』(三栖右嗣) 小杉放菴記念日光美術館蔵

 1977年の作品である。三栖右嗣は川越のヤオコー美術館でまとめて観ているので印象深く記憶している。とにかく美しい絵と構図に特徴がある。この絵も近像型構図の典型である。現代絵画でも特徴的な風景画の技法は生きていると、多分そういうことでこの絵が選ばれたのかもしれない。しかしこの絵を持っているのが日光美術館だというのもちょっとだけ意外である。

 

 企画展とは別に常設展のほうでは「1960年代の美術表現」「絵のなかであそぶ」、さらに牛島憲之の作品を中心にして「風景をえがく」という3つのテーマで多くの興味深い作品が展示してあった。 

f:id:tomzt:20210709113757j:plain

『登呂井富士』(立石大河亜)

 あのタイガー立石である。観ているだけで楽しくなってくる作品だ。自分のような古い人間にとってタイガー立石はナンセンス漫画の人という印象があるのだけど、とっくのとおに漫画家からアーティストに転身していたうえ、1998年にガンで亡くなっていることを知った。けっこうあちこちで回顧展が開かれているようなので、まとまってこの人の作品を観てみたいとそんなことを思う。とにかくこの作品は大好きだ。

タイガー立石 - Wikipedia

 

f:id:tomzt:20090127204856j:plain

『morrow』(神谷徹)

 初めて観る、知る画家だ。1969年生まれだから50代の現役バリバリな人のようだ。技法とかどういう傾向の方なのかもまったくわからないけれど、どこか琴線に触れる美しい絵だ。自分的にはイケムラレイコや丸山直文と同じような雰囲気かなと思ったりしている。けっこう気になる画家だ。

 しかし現代美術に関してはもうまったく門外漢というか、知識もなにもない。絵の鑑賞についてはここ数年観始めた俄かで、日々勉強中だけど、現代美術までスパン広げられるかどうか。もっと若ければいっぱい素敵な作品を観て、いろいろ知識も増やしていけるのにと、そんな焦燥にかられる。まあこればっかりはいたし方ないか。

f:id:tomzt:20210710001840j:plain

『光景』(遠藤彰子)

 俯瞰から魚眼レンズで観たような面白い構図。この人の作品、多分何度か観ていて、その都度面白いなと思うのだが、はてどこで観たのか。多分、一つは東京国立近代美術館だと思うのだが、それ以外でも観ているはず。この独特な構図と、どことなくメキシコの壁画を想起させるような雰囲気、嫌いじゃない。