東京富士美術館「絵画のドレスードレスの絵画」

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絵画のドレス|ドレスの絵画 | 展覧会詳細 | 東京富士美術館

 久々、東京富士美術館に行ってきた。企画展は2月13日から始まった「絵画のドレス-ドレスの絵画」。ファッションをテーマにした公立美術館神戸ファッション美術館とのコラボにより18~20世紀のリアルなドレスや服飾調度品と西洋絵画に描かれたドレスで着飾った夫人たちを並列展示することで、そのファッション性を臨場感もって体験できるという企画である。

 とはいうもののリアルなドレスをまとったマネキンたちはというと、素敵、キレイという風な感想は実はない。服飾的には美しいものなのかもしれないが、どことなく貧相というか時代性が感じられてしまう。

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 それに対して並列してある絵画はどうか。

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 圧倒的に美しい。これは要するに絵画に描かれている人物、ドレスは美の理想像であるということなのかもしれない。実際、このドレスを身にまとったモデルたちの装い、そのドレスはマネキンが着たようなものだったということか。ひらたくいえば実物よりもはるかに美しいというアレである。

 ドレスの色合い、襞、レースなど絵の中にあるものは画家によって再構成された美の神髄ということだ。まあリアルには、裾や襟足などには汚れもあるだろう、衣服であるのだから糸の解れやヤレもある。しかし絵の中にそれはけっして描かれない。ロココであれ、新古典主義であれ、ロマン主義であれ、それは現実の再現でも写実でもなく、理想形として描かれているということ。

 リアルなドレスとドレスをまとった女性たちを描いた絵画を並列させることによって、絵画の写実性とその美というものが、実は画家の目を通した理想形としての美であるという割とありふれた美術上の常識を改めて確認することができたというところか。

 この企画展の中でも、最近展示がお休みとなっていたこの美術館の目玉的作品でもある、マネの『散歩』を久々に観ることができた。

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エドゥアール・マネ『散歩』

 マネは近代絵画の父と称されるが、この絵の表現には後の印象派、新印象派の画家たちに大きな影響を与えている。マネの特徴ともいうべき黒の表現は、マネが好んだベラスケスの技法の換用とその展開だ。黒色の濃淡によってドレスの細部を表現し、女性の表情、帽子の花飾り、手袋を強調する。さらに背景の草木の表現もまた大胆な省略を試みている。これらを印象派の画家がヒントにして筆触分割の技法を進めていったこと、さらいいえばセザンヌの省略表現の萌芽を感じさせる。

 またベルト・モリゾの美しいパステル画も久々に観ることができた。

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ベルト・モリゾ『バラ色の服の少女』

 印象派の女流画家として、モリゾはメアリー・カサットと比較されることが多い。画力という点では、ドガ譲りのデッサン力からカサットを上とする識者が多いが、光彩による一瞬の情景を表現する印象派の技法という点では、モリゾはもっともそれを理解し、キャンバスに表出させていたのではという気がする。まあ個人的趣味の部分が大だが、自分はモリゾのほうが好きだし、このパステル画はモリゾの作品の中でも割と好きな部類である。

 また常設展示室でも、これも久しぶりとなる作品を多数観ることができた。

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ジョルジュ・ド・ラ・トゥール『煙草を吸う男』

 明暗のコントラストが特徴のラ・トゥール。室内の夜の情景を描いた作品が多く「夜の画家」といわれている。ラ・トゥールは作品点数が少なく、20世紀になって再評価された画家のため、その希少性からも価値を高めている。この『煙草を吸う男』も東京富士美術館の収蔵品の中でも目玉的作品の一つである。自分はこの作品を山梨県立美術館で始めて観た。そのときのインパクトが強く記憶に残っており、この作品を東京富士美術館で再見したときには、ちょっとした感動を覚えたことを記憶している。

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ユベール・ロベール『スフィンクス橋の眺め』

 実際の風景に古代の遺跡は空想的造形物を取り混ぜる独特の作風により、廃墟のロベールと称された画家。ロマン主義的な風景画を得意とし、後にルーブル美術館の初代館長になったという。

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ジャン=バティスト・ビルマン『岩の多い海岸の難破船』

 17世紀後半から18世紀初頭にかけて活躍した画家。時代的にまた初期の作風からロココ風の画家と分類されるようだが、この作品はどこからどうみてもロマン主義的な感じに受け止められる。さすがにフリードリッヒの風景画のようなクールな雰囲気はないが、どうだろうか、ロシア・ロマン主義の画家、海景画を得意としたアイヴァゾフスキーと似た雰囲気を感じさせられる。

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フランソワ・ブーシェ『ヴィーナスの勝利』

 ロココの寵児ブーシェの大作である。安定した構図、個々の人物の表現など、軽薄とも揶揄されるこの画家の並々ならぬ画力を感じさせる作品。

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モネ『海辺の船』

 1881年の作でモネが印象派的表現を開花させた時期の作品。どことなく師でもあったヴーダンの影響を感じさせる。シスレーピサロの風景画よりもやはりどこか心に残るような感じがする。モネの画力はやはり頭一つ抜け出ていたようにも思う。この後、じょじょに光をとりいれた風景画からより抽象度が高い作品へと移行していくような気もしている。

 東京富士美術館は、やはり常設展のこの空間が居心地も良く展示作品と共に最良の場という感じがする。

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