三重県立美術館

 11日、伊勢神宮外宮を後にしてそのまま下道で津の三重県立美術館に行ってみることにした。時間的にはだいたい1時間。午前中の神宮美術館・徴古館と合わせると1日で3館はしごすることになる。少々しんどいしその後のロングドライブでの帰路のことを考えると、ちょっと無理目かと思いつつもこういう機会がないと、なかなか地方の美術館に来ることは難しいし。

三重県立美術館 トップページ

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 そもそも津に立ち寄るの多分初めてのこと。国道23号中勢バイパスを北上、松坂を抜けてしばらくすると津市に入る。地方の都市は大昔出版社で書店営業をしている時にけっこうあちこち行っている。三重県というと四日市の白揚、津の別所書店なんかが有名だけど、あいにく東海は名古屋まで来てもそこから周辺に回ることは一度もなかった。

 美術館は環境的に整備された環境にあるけど、高台に位置しているので階段を登るようになっている。身障者向けの駐車場は階段のすぐ脇にあり、そこからスロープを登っていく。ただし正面入り口はさらに階段を登るため、車椅子組はレストラン脇の通用口から入り、エレベーターで階上の受付に向かう。

 昼過ぎに伊勢神宮外宮を出てから昼食をとらずに車を走らせて着いたのは3時ちょうどくらい。さすがに少しお腹が空いたこともあり、レストランに入ることにしたが、すでにランチメニューは終了。ケーキとコーヒーで軽く腹ごしらえ。まずは色気より食い気である。

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 そしてまず開催中の企画展「美術にアクセス!多感覚鑑賞のすすめ」に。この企画展は作品鑑賞と共に、障害のある人向けの教材やプログラムをヒントにしながら、触覚や聴覚を活用した鑑賞や想像力を喚起する美術鑑賞を提案するという試みらしい。

三重県立美術館 美術にアクセス! 多感覚鑑賞のすすめ 2021年度企画展

 時間があればゆっくりと企画意図に沿った形での鑑賞を楽しみたかったところなのだが、5時の閉館まで1時間半くらいしかないということで、とりあえず展示作品を観ることに集中する。まず最初に目に入ってきたのこの作品。

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アレクサンドリアの聖カタリナ』(ムリーリョ)

 バロック期スペイン絵画の巨匠の一人である。地方の美術館でいきなりムリーリョの作品に出合えるとは驚きである。思わず監視員の方に「真筆ですよね」と聞いてしまったくらい。監視員の女性は少し誇らしげに「当館所蔵の代表作の一つです」と。さらに「多分、一番高い作品だと思います」と判りやすく教えてくれた。まあそうなんでしょうね。それ以外に企画展の方で展示してある著名作品では佐伯祐三などがあった。

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『サンタンヌ教会』(佐伯祐三

 

 さらに常設展の方に移ると、おなじみのルノワールやモネの作品も。キャプションを見ると岡田文化財団寄贈というものが多くみられる。そうか、三重県といえばイオンのおひざ元である。地方の美術館にはこういう有力企業との関係性もあるんだなと感じた。

事業内容|岡田文化財団

  常設展示は第2期のということで以下のような充実した展示作品となっている。

三重県立美術館 美術館のコレクション 作品リスト 2021年度常設展示第2期

 

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『青い服を着た若い女』(ルノワール

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『ラ・ロシュブロンの村ー夕暮れの印象』(モネ)

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『裸婦』(安井曾太郎

 先日、東京国立近代美術館安井曾太郎梅原龍三郎を同じ部屋で複数展示してあった。その作品解説の中でルノワールへの傾倒から色彩感覚に優れた独自な作品を生み出していった梅原に対して、セザンヌの影響から形態に重きを置いた追求を目指したみたいなことが書かれていた。この絵を見ると安井のセザンヌからの影響の後が手にとるようにわかる。ベッドのシールや裸婦の姿、色遣いはまさにセザンヌそのものである。とはいえベッドカバー等の紋様やその色遣いは、セザンヌのそれよりも装飾性が高く、安井の工夫の跡も見られるように感じた。

 

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『日本服を着たる白耳義の少女』(児島虎次郎)

 児島虎次郎といえば大原孫三郎の協力者として、大原美術館の元となる名画の収集を行いながら印象派風の絵を残した人である。この人の作品を大原美術館以外で観るのはほとんど初めてかもしれない(いや多分どこかで観ているのだろうが)。なにか大原美術館以外で観るとなんとなく意外な感じがする。絵自体は印象派風でカラフルな東洋趣味に溢れる佳作という感じだ。

 三重県立美術館は思いのほか居心地の良い、そして充実したコレクションがある美術館だ。地方の美術館をそれほど多く行っている訳ではないが、自分的には水戸の茨城県近代美術館、岐阜県立美術館などと遜色ない素晴らしい美術館だと感じた。機会があればまた訪れたいとは思う。ただ、三重はふらっと行くにはちょっとばかり遠いのではあるけれど。