「風景画のはじまり コローから印象派へ」展へ行く

 昨日は所用でお茶の水まで行く。コロナのことを考えると都内に行くのを逡巡する部分あるけど、毎日お仕事で出勤されてる皆さんのことを思えばね。

 用事終了は3時半頃、すぐに帰宅しようかと思ったのだけど、せっかくディープ埼玉から出て来たのでと思い直す。近場の美術館でなにかないかとググってみると、SOMPO美術館でフランス風景画の企画展をやっていることを思い出した。何日か前にTwitterでフォローしている方が行って来たとツィートされていて、コローとブーダンの絵がまとまって観れるということらしかった。早速、HPをみてみると開館は18時まで、お茶の水からは中央線で1本だし、16時には行けると見当をつけ行ってみることにした。

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 ランス美術館が現在長期休館中ということで、所蔵品が貸し出されてこういう大掛かりな企画展が持ち回りで開催されているらしい。

名古屋市美術館 2021年4月10日~6月6日

SOMPO 美術館  2021年6月25日~9月12日

宮城県美術館  2021年9月18日~11月7日

静岡市美術館  2021年11月20日~2022年1月23日

茨城県近代美術館 2022年2月9日~3月27日

  この流れで行くと、場合によっては静岡か茨城でもう一度観ることも可能かなとか思ったりもする。まあ気にいったらということになるのだが、基本的に売りがコローとブーダンなので自分的には気にいらない訳がないだろうと自分突っ込みしてみたりもする。

 展示は以下のような章立てで進む。

1.コローと19世紀風景画の先駆者たち

2.バルビゾン派

3.画家=版画家の誕生

4.ウジェーヌ・ブーダン

5.印象主義の展開 

  前述したようにコローとブーダンが売りの企画展である。コローは16点、ブーダンが7点出品されている。たしかにこれだけまとまって観るというのはなかなかないことかもしれない。記憶的にいうと多分コローでまとまった展示は初めてのこと。ブーダンは以前三菱一号館の「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」で7~8点観た記憶がある。

  コローの風景画というと銀灰色のもやっとした表現という印象がつよい。そんな中でこの作品はちょっと系統が異なるというか、みずみずしい印象を与える。キャリア初期のものかとキャプションを見ると制作年がないので特定されていないのかもしれない。

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『春、柳の木々』(カミーユ・コロー)

 そして目玉というべき作品2点、この二つだけが撮影可となっていた。

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『湖畔の木々の下ふたりの姉妹』(カミーユ・コロー)

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『イタリアのダンス』(カミーユ・コロー)

 イタリア旅行の記憶をもとに描いた作品といわれている。縦長のキャンバスに木々に囲まれた小径で踊る人々というのはコローが好んだ画題のようだ。上野の西洋美術館に常設されている『ナポリの浜の思い出』もほぼ同じような作品だったと記憶している。

 その他では同じ縦長の画面でちょっと心に残ったのはこの作品。

 

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『小川、ボーヴェの近郊』(カミーユ・コロー)

 いい具合に緩やかに蛇行する小川と水面に移る木々、左側の木々は斜めに傾き、右側はほぼ垂直にそそり立つ。なにか絶妙な構図、雰囲気である。自然の中に点景として人物を配置する、コローのそうした盤面構成はどことなく川合玉堂のそれを想起する。自然の中に包まれ、そこで生をなす人々への優しい眼差し的なそれである。

 木々の表現、ややもやっとしたそれは同じ日本画ということでいえば、竹内栖鳳のそれを思い出すかもしれない。まあこれについては竹内栖鳳が渡欧したときに、コローの絵に大きな影響を受け、帰国後それを積極的に取り入れたということのようだけど。

 

 バルビゾン派ではテオドール・ルソー、ドービニー、ジャック、ディアズ、トロワイヨンなどのお馴染みの作品が展示されている。ただしバルビゾン派を代表する画家ジャン=フランソワ・ミレーの作品だけが見当たらない。ミレー抜きのバルビゾンというのもちょっと面白いなとは思った。

 

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『沼』(テオドール・ルソー)

 後景の木々、前景の沼とそのほとりに座る羊飼いの女性。絶妙な構図の妙を思わせる。羊飼いの女性のスカートの赤が妙に印象に残る素晴らしい作品だ。

 

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『ヨンヌの思い出、サン=プリヴェからブレノーへの道』(アンリ=ジョゼフ・アルビニー)

 アルビニーは19世紀後半に活躍した有名な風景画家でコローの友人だったという。アナトール・フランスアルビニーを「田園風景と樹のミケランジェロ」と呼んだという。ミケランジェロは言い過ぎかとも思ったりもするが、遠近法による素晴らしい構図だ。絵の半分に及ぶ青空と低い雲が言い知れぬアクセントとなっていて、心に残る作品だ。今回の企画展で気に入った作品の一つだ。

 

 そしてブーダンである。

 海景画の名手。カミーユ・コローはブーダンを「空の王者」と呼んだという話は有名で、ブーダンの絵のキャプションにはよく用いられる。その典型ともいうべき作品はこれだろうか。

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『ベルク、出航』(ウジェーヌ・ブーダン

 

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『ベルク、船の帰還』(ウジェーヌ・ブーダン

 こういう絵を観ると、ブーダンが画題、表現の多くを17世紀オランダの海景画から影響を受けているのだと思ったりもする。美しい、ブーダンらしからぬ抒情性に溢れた絵だ。

 

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『上げ潮(サン=ヴァレリの入り江)』(ウジェーヌ・ブーダン

 これはちょっとブーダンのタッチというよりもほとんど印象派のそれに近いような気がする。広い空、浜辺と海の対比と遠近。ブーダンぽくないなと思いつつも画面に引き込まれる。そういう魅力に溢れている。今回の企画展ではこの絵と上記の『ベルク 船の帰還』の2点がベストだ。

 

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カーディフの停泊地』(シスレー

 そして印象派の作品、ピサロ、モネ、ルノワール等の作品の中からはこの1点、安定のシスレーである。風景画で印象派を代表するという点ではシスレーは群を抜いていると思う。中央の木をクローズアップさせたこの絵は浮世絵の構図に多大な影響を受けているのだろうとは思う。色合い、雰囲気、パーフェクトな風景画だと思う。

 今回の企画展で一つだけお持ち帰りできるというなら、まちがいなくシスレーだ。