八王子市夢美術館再訪

 墓地の後、八王子市夢美術館に行くことにする。ここは昨年暮れに訪れている。

八王子市夢美術館~近代西洋絵画名作展 - トムジィの日常雑記

 笠間日動美術館のコレクションによる「近代西洋絵画名作展」が24日までの開催ということで、なんとかもう一度観たいとは思っていた。今回もモネ、ルノワールセザンヌ、ルドンらの作品を堪能。前回も気に入ったマルケの『ボートのある風景』の前にあ

るベンチでしばし見惚れていた。

 また前回もとりあげたがボナールの『室内の裸婦』について。

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『室内の裸婦』(ピエール・ボナール

 図録には、おそらく長谷川智恵子氏による以下のような解説がある。

 裸婦はボナールの主要なテーマのひとつであったが、裸体の美しさそのものよりも、たとえば化粧室での裸婦のしぐさや姿勢、裸婦と壁面や調度品などが織りなすハーモニーに関心を注いだ。

  ボナールが色彩の魔術師と言われていることは有名であり、そのカラフルな色遣いに着目して裸婦を評するのはもっとも至極だと思う。ただなんとなくだけど、この絵を含めボナールの描く裸婦にはなんとなく覗き見趣味みたいな、ちょっとした邪な雰囲気もあるような気がする。

 ボナールが長く一緒に暮らし後に正式な妻となったマルト・ボナールの裸婦像、入浴する姿を何度も繰り返し描いたことは有名だ。マルトは神経症で一日に何度も入浴したという。それは一説には神経症の治療の一環という話もあるそうだ。

 入浴する愛人の姿を執拗にキャンバスに描いたところに色彩の魔術師たるボナールの別の面があるような気がしてくるのは自分が凡人、俗人の類だろうからか。

 ボナールは26歳の時にマルト・ド・メリニーと出会い一緒に暮らし始める。この時、マルトは2歳下の24歳だったが、ボナールには16歳と告げた。ボナールが彼女の本当の歳を知ったのは、彼女と結婚した58歳の時、実に32年後のことだった。ボナールとマルトはその間仲睦まじく共に生活をしたかというと、実はそうでもないらしい。

 ボナールはマルト以外にもモデルとなった女性と諸々ややこしい関係になったらしく、結婚についてもマルトの友人のルネ・シャンティをモデルに使っただけでなく、関係をもったという。そのことがマルトに知られたため、急遽結婚することになったという話もあるという。そして結婚の翌月にルネ・シャンティは自殺したという。

 ボナールの裸婦には美しき被写体としての客観性とは異なる視線があるような気がする。そんなことを思うようになったのは、数年前に六本木の国立新美術館で開かれたボナールの回顧展で、ボナールがコダックカメラによるスナップショットを多くの残していることを知ったからだ。その写真には室内、室外でのヌードとなったマルトの写真が多くあったが、どれもプライベートな親密さが漂っている。図録の解説によると多くの場合、撮影中はボナール自身も服を脱いで構図を模索していたという。

 そこには芸術家として表現の追求だけでなく、どことなく変態じみた部分もあるのではないかと。だいたいにおいて何を好き好んで、同居する愛人のヌードを入浴図をひたすら撮る、描くのだろうか。そのモチベーションたるものは。

 ボナールの裸婦像にはどうしてもそういう負とはいわないが、変質的な要素も加味して観ていく部分もあるかと思ったりもする。だからといって彼の作品の価値が減じることはないし、その表現、色彩感覚は印象派でもなく、フォーヴィズムでもない、ボナールのオリジナリティとして賞賛されるべきものだと思ってはいる。