山崎美術館~橋本雅邦

 蔵造の町並みというと、まずはこの美術館を訪れる。

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 ここには去年の暮、兄のことを役所に相談に行った時に、昼休みの時間帯で少しだけ時間があったので訪れている。

山崎美術館と橋本雅邦 - トムジィの日常雑記

 病気で歩行が困難になった兄の今後の生活について、ダメ元で役所に相談に行った。こちらが期待したようなものは何も得られず、幾つか資料を渡されただけで途方に暮れるような状況だった。しかもそれから一週間足らずで兄は急逝してしまったのだけれど。

 山崎美術館は亀屋という老舗の和菓子屋さんが運営している。もともと橋本雅邦の父親が狩野派の絵師で川越藩主松平周防守のお抱えだった。その縁もあり川越の人士が橋本雅邦を郷土の誇りとして、画宝会という会を組織して雅邦を支援することになった。多分、ファンクラブのようなもので雅邦に絵を描いてもらい、それを会のメンバーが買い上げて雅邦を支援していたのだろう。

 画法会の中心メンバーが亀屋の四代目当主の山崎豊で、彼は雅邦から譲り受けた(買い上げた)作品を大切に保管し、その一切を子々孫々に伝えることを遺言とされた。これを六代目当主山崎嘉七が1972年に美術館として公開展示することとした。

しかし、我々子孫としてはこれを収蔵するよりも、社会公益のため、広く鑑賞を仰ぎ、もって多少とも美学向上の資料に供するに如かずと考え、本年丁度蒐集に努力した豊翁誕生百五十年に該当するのを機会に、これに菊池容斎、勝田焦琴、川合玉堂、野口小蘋等の作品及び古くから伝わる器物を加えて、記念としてここに「山崎美術館」を発足し、その公開展示を行う次第であります。

図録『雅邦』 2P

 前回も書いたように観光地によくある小さな美術館である。規模と展示作品からすると入場料500円は若干微妙ではある。雅邦の作品以外には和菓子の木枠や型、あとはなぜかノリタケやデミタスカップなども陳列している。そうしたものよりも、当初の志のように橋本雅邦作品をもっと展示して欲しいとか、出来れば新たな収蔵品というか蒐集もされてはとか思わないでもないが、まあ本業が第一。多分、美術館の運営自体はかなり厳しいだろうから、あまり多くを望んでも致し方ないかと思ったりもする。

 亀屋の蔵を改造した美術館内には休息するスペースがあり、そこではちょっとした和菓子(最中)とお茶が提供されている。観光地でちょっと絵を観て和菓子とお茶で休息、それで500円はけっこうコストパフォーマンス高いかと、まあそんなところか。美術館は古民家を改造したような感じで、絵を観るには靴を脱いで上がるようになっている。まあけっこう雰囲気もあるしと、そういう所だ。

 橋本雅邦の絵は掛け軸が中心。前回観たときにはメインの場所に四曲一双の屏風絵があったが、今回はすべて掛け軸ものだった。目玉的なのは以下の二点だろうか。

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『昇竜図』(橋本雅邦)

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『蓬莱山図』(橋本雅邦)

 いずれも近代日本画の父ともいうべき雅邦の画力の見事さを感じ入る作品だ。しかし、もともと狩野派絵師の流れにあるとはいえ、日本院に参加し、指導的立場となる以前は海軍兵学寮で製図掛りを務めて生活をしていた人でもある。この絵はどういう流れに属するものなのか。

 最近、美術史の本などをかじっているためか、自分の中で絵の見方が混乱しつつもある。流れからすれば狩野派、絵の雰囲気はどことなく写生派的な雰囲気もある。とはいえ『蓬莱山図』は一種の理想郷を描いた趣もあるので、これで詩文の一つもあれば南画的な系譜も。まあ一言でいえば、良い絵だとそういうことですね。

 山崎美術館の今後の展示替えスケジュールは以下のようになっている。

「秋季名品展」 前期9月3日(金)~11月17日(水)

  橋本雅邦『昇竜図』『蓬莱山図』他

「秋季名品展」 後期11月20日(土)~12月26日(日)

  橋本雅邦作品をはじめ川越ゆかりの画家の作品を展示

「新春展」 1月3日(月)~2月1日(火)

  橋本雅邦『松に鶴に波図』金屏風を中心に新春にちなんだ作品

『早春展』 2月4日(金)~3月29日(火)

  橋本雅邦の作品をはじめ、野口小蘋の軸装『雛の図』、山崎家に伝わる雛人形