前夜、子どもが久々帰宅。今日は午後から新しく入った吹奏楽団の初練習に行くというので都内まで送っていく。なんかこういうの高校時代よくやっていたな、なんなら大学生の頃も何度か都内まで送って行った記憶がよぎる。幾つになっても親バカしてる。
その後、どうするかとなり、そのまま帰るのもなんだということで、都内でどこか美術館巡りでもするかとも思ったが、上野のゴッホ展は日時指定だし、アーティゾンや山種美術館とかは駐車場を探すのがしんどい。ということで埼玉へ戻るついでとばかりに、北浦和の埼玉県立近代美術館に行くことにする。ここは新しい企画展が23日に始まったばかりだ。
2021.9.23 - 11.3 美男におわす - 埼玉県立近代美術館
美男におわす 夏木立かな (与謝野晶子)
増殖する美男の園へようこそ。「美男におわす」は、日本のの視覚文化のなかの美少年、美青年のイメージをたどる展覧会です。これまで人々は数多くの男性像に理想を投影し、心をときめかせてきました。
しかし、それらは主に女性像からなる「美人画」とは異なり、「美男画」といった呼び名を与えられることはありませんでした。
ライフスタイルや嗜好が多様化し、ひとりひとりが異なる「美男」のイメージを持つようになった現在、果たして「美男画」との出逢いはどのようなものになるでしょうか。浮世絵、日本画、雑誌の表紙や挿絵、現代作家の作品、マンガなど、時代やジャンルをまたいだ様々な男性像をめぐるなかで、男性を美しいものとして表現すること/見ることに光をあてます。
パンフレットより
美人画ならぬ「美男画」、美男子の世界を美術シーンから探る。なんともキャッチーな企画だ。これはもう美男子好き、マンガオタ、はたまたBL愛好家といった女子たちから垂涎のごとく期待される企画展ではないか(本当か)。あるいはお好きな男性の方々からも、いやBLGTの多様化する世の中ですから。
ということで、実はあんまり食指が動く企画ではない。正直いうとジイさんなんで「美男子」も「美少女」もあまり興味がない。ないのだけれど、「美男子」というテーマをどういう切り口でどういう作品を集めたのかというところには若干興味を惹く部分もあったりもするので行った。まあそういうことだ。
テーマは4章立てで出品点数は約120点、前期9月23日~10月10日、後期10月12日~11月3日までとなっている。埼玉での会期終了後は島根県立石見美術館で11月27日~2022年1月24日まで開催予定という。もとよりこの企画は2014年に石見美術館で開かれた「美少女の美術史」という企画展の続編として石見美術館の学芸員が企画されたもので、埼玉県立近代美術館(MOMAS)はそれに便乗する形で共同企画開催となったものだという。
1章 伝説の美少年
2章 愛しい男
3章 魅せる男
4章 戦う男
この章立ての中で古典作品では谷文晁、鈴木晴信、歌川豊国、歌川国芳、月岡芳年など。近代日本画では安田靫彦、松岡映丘なども出展されている。さらには挿絵画家の高畠華宵、現代作家では山口晃、入江明日香、川合徳寛、唐仁原希、山本タカト、木村了子などなど。またマンガからも魔夜峰央、竹宮恵子なども。
正直、谷文晁や安田靫彦と一緒にパタリロの原画やジルベールを見ることになるとは。そうした点だけでもこの企画面白いといえるし、けっこう楽しめる。個人的にはやはり安田靫彦の作品に興味がいく。
俵屋宗達以来『風神雷神図』といえば鬼とパターン化されているのだが、安田は普通の擬人化された姿で描いている。これを美男とするかどうかは置いておくが、この風神雷神のポーズは、自分にはどことなく川端龍子の『火生』のヤマトタケルを想起させる。安田靫彦というと緊張感ある心理描写と細部にわたる装飾性、様式美みたいなことをいわれるが、こういう絵も描くのかと、ちょっと面白くも感じる。
この絵は遠山記念館所蔵という。遠山記念館には1度しか行っていないけど、なんだか日本家屋と庭園、さらに中近東の工芸品というイメージが強かった。日本画もこの安田靫彦の作品の他にも鈴木其一、英一蝶、喜多川歌麿なども持っているらしいので、そのうちまた行ってみようかと思う。
安田靫彦作品はこの作品を含めて3点出展されているがその中にこの作品も。
挙兵した時の源頼朝の図なのだが、重要文化財『黄瀬川陣』の頼朝と同じ顔をしている。まあ違っていたらそれはそれで問題かもしれないけど。
安田靫彦とほぼ同年代の松岡映丘が描く義経も展示されているが、これを美男とするのはちょっと無理があるかもしれない。
現代の画家(作家)の作品はどれも面白くあり、妖しくもありでけっこう楽しめた。
六曲一双の屏風絵風だが日本画ではなく銅版画をベースにしたミクストメディア作品で、銅板で刷った薄い和紙を切り抜いてコラージュし、ドローイングを施す独自技法を用いているのだとか。しかし至近で見てもコラージュとは思えない。子細に見てみると人物や動物の肉体は風化、蝕まれて形骸化していたりと、意図がどこにあるのかは凡人の自分にはわからないが、作者の意匠のクオリティの高さだけはなんとなく理解できる。超絶技巧的な細密描写ながら不思議な作品である。
これはちょっと笑えたけど、笑っていいのかどうか。木村了子は「イケメン描いて十五年」という触れ込みの現代画家・壁画家のようだ。しかし左隻をよく見ると「大きなかぶ」してるんだが。
この木村了子という人、イケメン仏画とかも手掛けていてなんでも新潟県燕市のお寺の本堂壁画も手掛けているのだとか。怖いもの見たさで行ってみたい誘惑にかられる。
その他で唐仁原希(とうじんばらのぞみ)という画家の作品もインパクトが強かった。
この人はまだ30代と若い画家のようだ。最近では今上映中の『マスカレード・ナイト』のエンドロールに絵が採用されているのだとか。
この方のプロフィールはこのnoteでのインタビューに詳しくのっている。
人生は、自分自身を味わい尽くすことに意味があるー唐仁原 希(画家)|ニソクノワラジ@カラムーチョ伊地知|note
まあ今回の「美男におわす」は肩の力を抜いて見れる脱力系企画展かもしれない。自分のような「美男」とか「美女」とか、イラストやマンガ類もさほどそそられないジイさんには気楽にといってしまうと語弊があるかもしれないけど、ちょっと脱力して観ることができた。まあこういう企画展も面白いし、いいかもしれない。後期展示では菊池契月やなんと川合玉堂のイケメンも出るらしい。機会があったらまた行くかもしれない。