2021.11.16 - 2022.1.16 大・タイガー立石展 世界を描きつくせ! - 埼玉県立近代美術館
埼玉県立近代美術館(以下MOMAS)で開催されている大タイガー立石展に行って来た。この回顧展は千葉市美術館(4/10日~7/4日)を皮切りに青森県立美術館(7/20~9/5)、高松市美術館(9/18~11/3)と巡回を続けてきて、今回、MOMASとうらわ美術館の共催で2021年11/16~2022年1/16まで開催される。主にMOMASでタイガー立石の画業全般を、うらわ美術館ではマンガや絵本にスポットをあてた企画となっている。
タイガー立石のことはほとんど知らない。自分の中では漫画家、イラストレーター、絵本作家という認識しかない。60年代、前衛芸術作家としてデビューし後に漫画家としてナンセンスもので一定の人気があったことなどは知っている。70年代にはイタリアに活動の場を移したことなどはほとんど知らなかった。
自分がタイガー立石を知ったのは、おそらく70年代の初頭だったか、愛読していた『話の特集』で何度かそのナンセンス漫画やイラストを見た記憶がある。その10年くらい後、書店で働き始めた頃に思索社から彼の本が新刊として入荷したことで知った。相変わらずやってるんだなくらいの認識だった。ちょうどその頃、立石はイタリアから日本に戻って来たあたりだったのではないか。
90年代、出版社に勤めていた頃、児童書も出していたので書店の児童書コーナーにもよく顔を出すようになっていた。そして絵本の中に彼の名前を見つけ、絵本作家やっているんだと思った。しかし漫画も絵本も彼の多彩な創作活動の一つに過ぎなかったということだ。
とはいえ彼の絵画作品はほとんど見ていない。今年、府中市美術館で彼の『登呂井富士』を観て、立石大河亞作というキャプションにタイガー立石はこんな絵を描いていたのかと驚いたものだ。そして今回の回顧展で彼の作品を目の当りにして、その奔放なイマジネーション、ナンセンス、ポップな感覚に改めて見入ってしまった。彼の画業の中でナンセンス漫画や絵本は本当に、ほんの一部でしかなかったと。
漫画の手法を用いたコマ割り絵画という新たな表現法だという。コマという分割表現によって時空の変化を一枚の絵の中に表現するのだとか。これはイタリア在住時代の70年代に生み出したという。
大作である。明治、大正、昭和という時代を、パロディ、引用、様々なコラージュを用いて描いたものだ。歴史を知る者、また昭和という時代を生きてきた者にとっては、同時代的にクスリと笑ってしまうようなネタが数多ちりばめられていて楽しい。まさか古賀春江『海』のグロリア・スワンソンが美空ひばりになるとは。
さらに著名画家や名画の立体彫刻というパロディ作品を面白かった。
このディエゴ・リベラの像の裏側にはきちんとフリーダ・カーロも小さくいたりする。
タイガー立石は1998年肺癌のため56歳で死去している。もう23年も前のことだ。生きていればポップアートの巨匠となっていたかもしれない。とはいえ一つの場所に定住することを拒否し続け、アカデミズムの対極に位置していた人でもある。21世紀の今、彼がいたらどんな存在になっていたか。彼の作品群を見ているとそんなことを思わざるを得ない。つい先日、日比野克彦が東京藝大の学長に就任することが決まったというニュースなどを目にしたが、改めてそんなことを思ったりもする。