水野美術館に行って来た

 昨日、前から行きたいと思っていた長野市内にある水野美術館に行って来た。日帰りで行くにはちょっと遠い距離ではあるが、車買ったばかりだし、初の遠乗りということで強行した。

 長野は妻の実家があるところなので割と土地勘はある。多分、盆暮れ正月とか法事とかいろんなことで訪れているので少なくとも50回くらいは行ってる。ここ2年くらいコロナの関係で実家にも顔を出していない。今回も諸々考えて実家にはいかなかった。

 自分はもう2回目のワクチン接種終わっているし、妻も2回目の接種が8月上旬に予定しているので、お盆にちょっと顔を出そうかとも思っている。

 そういう長野なんだが、水野美術館についてはまったく知らなかった。割と最近twitter日本画専門の美術館があるということを知った。開設は2002年だそうだが、妻も当然のごとくそういう美術館があることを知らなかった。もっとも妻も高校卒業以来ずっとこっちで生活しているから知らないのも当然かもしれない。

水野美術館

 株式会社ホクトの創業者、水野正幸氏((1940-2009)が蒐集した日本画をもとに開設とある。ホクトは総合企業グループで一部上場会社。スーパーでみかける袋詰め、パックに入ったブナシメジとかマイタケ、あのへんを扱っている会社。もともとは包装資材やきのこ栽培用のPPビンを製造していたという。昭和39年設立というから昭和生まれの自分らからすれば、割と新しい会社のような印象がある。HPの年表を見るとちょっと感動というか、きのこ恐るべしみたいな印象をもつ。

ホクトの歴史 | ホクト株式会社

 水野氏のコレクションは主に平成になってから蒐集されたという。『水野美術館名品集』という図録の最初に山下裕二氏が水野美術館コレクションについて解説を書いているが、それによると水野氏の蒐集は比較的最近のもののようだ。

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『水野美術館名品集』

 水野美術館の収蔵品は、基本的に近代日本画の王道ともいうべき日本美術院系の作品が核となっている。中でも、橋本雅邦、横山大観菱田春草、下村観山、木村武山など、院展の中核を占めた画家の作品は、質、量ともに充実している。このコレクションは、平成になってから本格的に蒐集されたものだというが、よくも短期間にこれほどのコレクションを築けたものだと感心する。1990年代初頭のバブル崩壊以後、それまで「資産」として蓄積されてきた日本画のコレクションが大量に流通するようになった。水野氏は、その機会を逃すことなく、コレクションに邁進した。そしてこの美術館が設立されたのである。

「水野美術館コレクションについて-大観、春草、そして西郷孤月」  『水野美術館名品集』P4 

  ちなみに山下裕二氏は最近だと『コレクター福富太郎の眼-昭和のキャバレー王が愛した絵画」展を監修した人だったということを思い出した。あの企画展は9月に新潟、11月には大阪と巡回する予定だとか。

コレクター福富太郎の眼 | 新潟県立万代島美術館

コレクター福富太郎の眼 | あべのハルカス美術館

 しかしバブル崩壊で市場に流出した名品を短期に蒐集したというのは、水野氏美術蒐集家としても絶好のタイミングだったのだろうけど、商売人としても「機を見るに敏」な商売人だったんだろうなと適当に思っている。そうだからこそ、きのこという多分、食材としていえばちょっと隙間なところから、長野という地で上場企業までを作り上げたことなんだろう。相当な経営センスをもつ人だったのだろうと思う。まあそのお陰で近代日本画の名作をこうやって享受できる訳なんで、素直に有難いと思っている。

 なかなか美術館の話に行きつかないのはいつもの悪い癖だ。関越道から上信越道をひたすら走ること2時間半。4連休の最終日ということもあり道路はえらく空いている。長野東インターで降りてからは多分20分くらい。冬季オリンピックのアイスホッケーの会場だった通称ビッグハットの斜め向かいくらいに位置する。ナビの通りに来たのだが割とスムーズにこれた。

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 ちょうど企画展『眺める日本画~玉堂のみた建物・元栄が描く風景』(6/12~7/25)の最終日で、川合玉堂とその弟子児玉希望、孫弟子の奥田元栄の3人の作品がまとまって展示されていた。

 展示室は2階、3階にあり、まずはエレベーターで3階に上がってから順に降りてくるようになっている。そういうところは国立近代美術館の同じような導線になっている。まず3階エレベーターを降りて展示室の自動扉があくと畳敷きの細長い展示スペースに六曲一双の大作がドドーンと展示してある。これが展示室1にあたるようだ。

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『春秋山水』(川合玉堂

 玉堂の金屏風の絵というのは初めてだったかな、青梅の玉堂美術館で観たことあったか。やや照明を絞った渋めの展示でインパクトが強い。ぶっちゃけこれ1点でも満足できると思える。

 そして第2室には川合玉堂9点、児玉希望3点、奥田元栄5点。この室にはソファーが置いてあり、ゆっくり、のんびり観ることができる。運転の疲れか少し寝入ってしまったが、玉堂の日本の原風景みたいな絵の世界に入り込むような夢は見なかった。

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『渓村春雨』(川合玉堂

 山間の民家と水車、筧という玉堂の得意とする画題だ。遠景をぼかして奥行きを出す空気遠近法とはこれみたいな感じだがする。

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『渓村斜陽』(川合玉堂

 これはちょっと玉堂にしてはあまりない構図のような気がする。どことなく浮世絵のような、明らかに「近像型構図」を意識しているようなそんな気がして面白味を感じた。今回の玉堂作品ではなんとなく一番印象に残った作品。

 2室は一番奥の突き当りまで行くと隣のコーナーに戻ってくるような作りになっている。ちなみ突き当りには奥田元栄の大作『秋渓淙々』があった。そのコーナーにはこの美術館の多数収蔵している横山大観の作品、山本丘人橋本関雪などがあり、また池田輝方、池田蕉園の作品を並べて展示するなどしてあった。

 その中で一番気に入ったのは長野県出身でもある菊池契月の作品。この人のモダンな作風は以前から割と気に入っている。

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『歌舞図』(菊池契月)

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後宮』(菊池契月)

 これはちょっとモダン過ぎるというか、イラストっぽい雰囲気。なにか最近、子どもから読まされたコミックで中国の後宮を舞台にした薬師の話があったような気がするが、ああいうコミックの描き手はこういう作品とかもひょっとして参考にしているのではと、適当に思ったりもした。

 2階の3室はまず鏑木清方伊東深水が1点ずつ展示してあり、その後は加山又造、杉山寧、平山郁夫等、現代の大家の作品が多数展示してあった。杉山寧って凄い人なんだなと、なぜか当たり前のことを再認識させられた。

 展示室の雰囲気はこんな感じだったか。

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 入り口をでたとこには美しい庭園があり1階のロビーからガラス超しに眺めて、ひととき過ごすのもいい感じである。

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 とにかく落ち着いた雰囲気でゆったりと日本画の名品に触れることができる、なかなか得難い美術館だと思った。4連休の最後ということもありでずいぶんと人が少なく、ほとんど空間を独占するような状態だったけど、これって大丈夫なのってちょっと心配になる気分もあった。企画展の最終日なので駆込みとか含めて、もう少し人いてもいいかなとか適当に思った。

 長野市内というと、ここもまだ行ったことがない長野県立美術館・東山魁夷館もあるが、水野美術館も訪れるのが楽しみなところだ。長野に帰省する際、またふらっと思いつき行ってみるなど、機会は増えそうだ。問題は往復400キロ弱のロングドライブに年齢的についていけるかどうかだな。
 ちなみに最初にも書いたこの美術館のコレクション図録『水野美術館名品集』なんだが、製本がかがり綴じになっていてとても見やすい。何度も書いていると思うけど、図録の製本は多少金かかってもかがり綴じにして欲しいとつとに思う。

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