車で1時間弱、ご近所美術館サトエ記念21世紀美術館に行って来た。
6月にも行っているが、開館20周年記念のコレクション展の最終日ということもあり、もう一度観ておきたいと思った。特にこの美術館は田中保のコレクションが充実しており、今回の企画展でも10数点展示されていることも理由の一つ。
いつものとおり、圏央道から東北道に入ってすぐの加須インターで降りて埼玉平成大学を目指す。いつも閑散としている道が大学近辺で車でえらく混雑している。大学前を右に曲がるとすぐに美術館の駐車場があるのだが、その前も車が数珠つなぎになっている。車の他にも、大学正門前には中学生くらいの子が多数いる。よく見ると北信テスト会場の張り紙が。あ~、あの模擬試験か。
埼玉以外の人にはわからないと思うが、北信テストは埼玉の進学を目指す中学三年生は必ず受ける模擬試験である。なんなら私立高校は北信テストの成績で内定をもらえるというユニークな模試である。しかし民間のやっている模擬試験結果が進学の可否を決めるというのもなんなんではあるが、埼玉県民はそれを普通に受け入れている。うちの子どもも夏休みの塾合宿で頑張ったおかげで夏休み明けの北信テストに奇跡的にいい成績をとり、それでまあ中の上の高校の内定とりつけた。なので北信という文字を目にするとその頃の記憶が蘇ってくるという恐ろしい模擬試験である。
まあよいと、永遠の中二病の子どものあまり思い出したくもない受験時代のことを払拭させて美術館のことである。雨模様のどんよりとした天気だったが、美術館に着いたときは雨がやんでいた。
まずは入ってすぐの吹き抜けのホール。丸太を組んだ柱と梁がいい感じの雰囲気をだしているて、ロダン、ルノワール、萩原守衛らの美しい彫刻が多数展示してある。
そしてまずはこの美術館のウリの一つでもヴラマンクの間で6~7点展示してある。
この美術館で著名な海外作品はヴラマンク、モイーズ・キスリング、エミール・ベルナール、ジャン=ポール・ローランスなどが有名。特にヴラマンク、キスリングは多数コレクションされている。そしてヴラマンクの影響を受けた里見勝蔵、さらにヴラマンクやユトリロに影響を受けた荻須高徳らの作品も多数コレクションされている。フォーヴィズムやエコール・ド・パリ系が多いのは創設者の趣味だろうか。
そのヴラマンクの部屋の奥の間には浮田克躬の作品が多数展示されている。
やや俯瞰から西洋の都市を構築的に捉えた作品と紹介されている。絵具を塗り重ねた重厚なマチエールというが、何となく俯瞰からの遠景を描いた佐伯祐三みたいな趣を感じる。
そして次の間では荻須高徳や里見勝蔵が。さらにその奥の部屋では田中保の作品が15点展示されている。
田中保は、10代で旧制中学を卒業後、単身アメリカに渡り独学で絵画の修行を重ね一定の成功を得る。そして1920年、34歳の時にパリに移住して成功を得る。ほぼ同時期に藤田嗣治がパリの寵児として活躍していた。その後、戦争の動乱期に藤田は帰国したが、田中保はそのままパリにとどまり1941年ドイツ軍占領下のパリで病没している。
藤田と田中、エコール・ド・パリ派として1920年代にパリで活躍した日本人画家、この二人に交流があったのかどうか。ググった限りではあまり資料等がでてこないが、実際はどうだったのだろう。極東の地の若い画家二人が、フランスの地で活躍をしているのだから、何ら交流がないということはあり得ないと思うのだが。
藤田は帰国後戦争画を描き、それがもとで戦後、戦争協力者のように扱われ糾弾される。そのことに嫌気がさし、日本を離れフランスに戻り帰化する。一方、田中保は18歳で日本を離れ、アメリカ、フランスと渡り歩きそのまま一度も日本の土を踏むことなくパリで没する。田中は完全に異邦人として生きた画家人生だったようだ。
試しに田中保のことを書いた本はないかと調べても、どうも自費出版的な小説が1点あるだけで(『知られざる裸婦の巨匠 田中保』)、伝記のようなものも見当たらない。日本画家の作品がほとんどない西洋美術館には田中保の作品が1点だけ収蔵されている。
https://core.ac.uk/download/pdf/53105885.pdf
美術館建設を夢見て西洋作品の蒐集に務めた松方幸次郎が唯一買い入れた日本作品ん。まあ実際に入手を勧めたのはブラグインなのだろうが、田中保は西洋の名画の一つだったということだ。
もともと埼玉県出身の画家ということもあり、田中保の作品は埼玉近代美術館とこのサトエ記念21世紀美術館が多く収蔵している。おそらくサトエ記念美術館には20点近くがあるはずなのだが、その中から今回は15点が出展されている。「裸婦のタナカ」の神髄のいったんを垣間見れるような感じで堪能できる。今回の企画展はこの日が最後で終了となってしまうが、次はいつお目見えできるのだろう。
絵葉書からスキャンした画像だが、田中保の裸婦像はエロティシズムと美学の境界線上を揺れ動くような視点が感じられる。
縦長の画面はちょっとピエール・ボナールを想起させ親密な雰囲気。女性のベッドでの仕草を覗き視るようなちょっとしたエロティシズムを感じさせる作品。
流れるような構図と赤いガウン(上掛け)と白い肌の対比。壁や長椅子の装飾性。美しい絵画だと思う。
サトエ記念21世紀美術館は彫刻作品が多数点在する庭園もまた美しい。この庭を歩くだけでも心和らぐような面持ちになる。
風をテーマにした加藤豊の作品。
躍動的な感じがする。ふだん彫刻にはあまり食指が動かないのだが、加藤豊の作品、特に『風』には美しさを感じる。
竹橋、近代美術館の『原の城』の船越保武だ。『原の城』の印象が強いので、この人の作品は正面からの正像という印象が強い。よくみると方掛けの薄い布に覆われている。この表現は同じ近代美術館の新海竹太郎『ゆあみ』を連想させる。