6月1日から開館再開となった東京国立近代美術館(MOMAT)へ行って来た。
ここは現在休館中の上野西洋美術館とともに、自分の美術館巡りのベースになるようなところ。昨日の東京ステーションギャラリーに続いて連荘で都内にやってきた。
企画展の「妖しい絵展」は5月16日に終了。コロナの影響で休館となっていたが1日から再開となり常設展だけなんだが、ここの所蔵品は名画揃いだけに別に企画展などいらないという感じである。しかも今回の常設展「MOMATコレクション 特別編 ニッポンの名作130年」は美術館としてもかなり力を入れた展示になっている。もう持ってる名画を惜しみなく出すみたいな感じである。
まず4階1室ハイライトは土田麦僊の『湯女』からである。
いきなり重要文化財にして土田麦僊の代表作だ。ちなみにこの作品は7月18日までの展示で、後期展示は安田靫彦の『黄瀬川の陣』が7月20日から展示となる。
しかしこの艶めかしさ。洛中洛外図などにある金雲のように松の樹がすやり霞風に描かれていて、さらに藤の花が散見している。それによりどこか覗き視るような幻惑的な雰囲気を醸し出している。そして放漫な女性はどことなくルノワールのような趣。
続いて速水御舟の『京の家 奈良の家』である。
さらに小林古径の『唐蜀黍』。、
左隻は風になびいて傾いでいる唐蜀黍、右隻は直立している唐蜀黍で、静と動を表現している点で琳派の始祖俵屋宗達への傾倒を感じさせるみたいなことが解説されていた。
そして1室ハイライトの裏側にはこれも重要文化財である横山大観の『生々流転』が展示されている。ただしこの40メートルを超える長大な画巻はこの展示室では一気に展示できないため、前期後期に分けて展示されることになっている。3年前にMOMATで横山大観の大規模な回顧展が行われた時には、1階の企画室の長い回廊のような展示室でまとめて展示してあったのを覚えている。
4階3室には萬鉄五郎の作品が3点まとめて展示してある。有名な『裸体美人』はゴッホの影響を受けた近代絵画ということで重要文化財に指定されている。萬鉄五郎はさらにマティスらのフォーヴィズムやピカソのキュビズムの影響を受けた作品を次々に描いており、それらを並列展示することで萬の西洋絵画の新しい潮流を取り入れ消化しようという試みの跡をたどることが出来るようになっている。
こうやってみると萬鉄五郎はフォーヴィズムの影響、特にマティスのそれに親和性を感じていたのではないかとそんな気もしてくる。ただしこれらの作品からは激しい色調はあるが、マティスの装飾美は微塵も感じられない。
同じフロアには萩原守衛の彫刻作品が展示してある。一つは『文覚』、そして『女』である。
この展示の仕方がふるっている。萩原は中村屋の創業者相馬夫妻の支援を受けていたが、相馬夫人黒光に恋心を抱いていたという。そしてこの『女』には黒光の面影が宿っている。文覚についてはこんな風に解説されている。
文覚(1139-1203)平安時代末期の僧で、武士だった昔、美人で人妻の袈裟御膳に懸想し、その果てに殺してしまったという前歴があります。萩原はこの話を新宿中村屋の女主人、相馬黒光から聞き、黒光に道ならぬ恋心を抱いていた自身の心境に重ねてこの作品を制作したと言われます
萩原守衛の恋は成就ずることなく、『女』を制作した直後に30歳の若さで急逝したという。そういう有名な悲恋のエピソードを念頭に置いたうえでこの2点の陳列はこれなのである。
文覚(=萩原守衛)が女(黒光)を憧憬を込めて見つめる、そういう意図を感じさせる展示のように自分は思いました。学芸員の先生もちょっと小粋なことをすると。
3階ではいつも戦争画を展示する6室に梅原龍三郎と安井曾太郎の作品をまとめて展示していた。1930年以降の日本における洋画をリードした二大巨匠の作品をまとめて展示するという試みも、なんだかもう全部見せるぞみたいな感じでちょっとワクワクした。
まあ自分的には梅原よりも安井曾太郎の方がなんとなくしっくりくる。
さらに10室では東山魁夷、横山大観、竹内栖鳳の作品を3~5点まとめて展示してある。まさにニッポンの名作130年と名うつに相応しい展示だと感じ入った。
子どもの周りに仏陀、老子、孔子だけでなくキリストまでを登場させ、迷児を導いているのか、かえって困惑させているのか、横山大観のサービス精神と意地の悪さみたいなものを感じさせて、ちょっと面白いと思った。
最後に2階現代美術の部屋では新収蔵品が展示してあり、それぞれに面白みを感じた。