崔如琢美術館 (4月19日)

 

崔如琢美術館|現代中国水墨画家 崔如琢(さいじょたく)の作品収蔵

 伊東から伊豆高原のあたりを国道135号で走っていると、左手にけっこう壮大な建物が見える。崔如琢美術館という大きな看板もあり、以前から気になっていた。しかし崔如琢ってなんだ。

 美術館のホームページにはこうある。

崔如琢氏は、中国で最も著名で、人気、実力ともに最高峰の現代中国水墨画家の一人です。

 その他のサイトをいくつか見てみると。

 1944年~。

北京市西城区出身の画家。

北京芸術学院付属高等学校に入学。
中央美術学院付属高等学校に転校。優れた絵の才能を発揮し、中国画の科目代表となる。高校卒業後、北京市内の小学校で美術教師を務める。その間に書道、絵画などを学ぶ。
人民大会堂に巨大画を納める。美術界から注目を浴びるようになり、中央工芸美術学院で教師を務める。アメリカに移住。ニューヨーク・リンカーン芸術センターにて公演を行う。
国際美術展覧会「ビンナーレ」に参加し、中国の画家として唯一入選する。
台湾歴史博物館にて個展を開催。これは中国画界では初のことで、当時の台湾副総統・謝東閔氏によりテープカットされる。
世界華人書画家/収蔵家連合会名誉会長に就任。中国にて崔如琢書画コレクション切手が発行される。
また花鳥画山水画として初の国産ワイン標章となる。
中国全土で「崔如琢書画個展」を開催。この個展により崔如琢の魅力を一層全国に広めることとなる。

<本郷美術骨董館>

https://www.hongou.jp/artist/saizyotaku/

 

崔如琢(Cui Ruzhou)  (1944年~)

Cui Ruzhou is a contemporary Chinese ink painter. Employing traditional imagery and techniques, Cui’s compositions of Chinese mountain landscapes are rendered through the method of historical Literati painting. He applies several thin layers of ink wash to paper, which is then further defined by darker lines to create complex, meditative works. Born in 1944 in Beijing, China, Cui studied under Li Kuchan, a prolific painter and calligrapher, and taught at the Academy of Arts and Design in Beijing before moving to the United States in 1981. Upon his return to China in 1996, his works began to be politically celebrated, and he began working as a mentor to doctoral students at the Chinese National Academy of Art. Cui has come to the attention of an international audience through his record-setting works at auction. In 2011, his painting Lotus achieved more than $15 million at a Christie’s auction in Hong Kong. In 2015, Landscape in Snow was purchased for over $30 million at Poly Auction Hong Kong, which made Cui the most expensive living Chinese artist at auction, knocking Zeng Fanzhi out of the top spot.

崔如琢は現代中国の水墨画家です。伝統的なイメージと技術を使用し、崔の中国の山の風景の構図は、歴史的な文人絵画の手法を通じて表現されています。彼は紙にインクウォッシュの薄い層を何層も塗り、さらに濃い色の線で輪郭を描き、複雑で瞑想的な作品を生み出します。 1944年に中国の北京で生まれた崔氏は、多作な画家であり書道家のリー・クチャン氏に師事し、北京の芸術デザイン院で教鞭を執った後、1981年に米国に移住した。1996年に中国に帰国すると、彼の作品は政治的に評価されるようになり、中国芸術学院で博士課程の学生の指導者として働き始めた。キュイは、オークションでの記録的な作品を通じて、世界中の注目を集めるようになりました。 2011 年、香港のクリスティーズ オークションで彼の絵画「ロータス」が1,500 万ドル以上で落札されました。 2015年、『雪の風景』は香港のポリオークションで3,000万ドル以上で落札され、崔はオークションで最も高額な存命の中国人アーティストとなり、曾範志をトップの座から追い出した。

<artnet>

https://www.artnet.com/artists/cui-ruzhuo-2/

 ようは現代中国を代表する山水画家ということらしい。もっとも80年代にアメリカに移住してアメリカ国籍を得ている中国系アメリカ人画家ということになる。といっても彼のマーケットは間違いなく東アジア中心のようだ。

 なぜ現代中国の作家の個人美術館が伊豆にあるのか。これがよくわからない。ググってもよくわからないが、周辺情報を探るとどうも手かざしの真光系という宗教団体が運営しているらしい。伊豆に本部のある世界真光文明教団らしいということ。

 しかしこの真光系の新興宗教というのも実はよくわからない。岐阜高山に本部のある崇光真光も巨大な光ミュージアムを運営している。巨大な建物の中にピラミッドホールはあるわ、屋外にはメキシコ風のピラミッドはあるわという巨大施設。肉筆浮世絵をたくさん持っているということで一度行ったことがあるが、その時はエジプト展と魯山人展をやっていて、収蔵品は一室で少しだけ展示してあるだけだった。

 とりあえず巨大な建物に圧倒されつつも、宗教って儲かるんだなと思ったりもした。この崇教真光から別れたのがこの伊豆に本部のある世界真光文明教団なんだとか。さらにいえば以前、圏央道を筑波方面に走っているときにやはり巨大な寺院を目撃。あとで調べたところ陽光子友乃会という宗教団体だという。ここは世界真光文明教団から分派したのだとか。

 そういえば伊豆の著名な美術館といえばMOA美術館があるが、あそこも確か宗教がらみ。岡田茂吉がひらいた世界救世教が母体となっている。MOAはというと、どうも「Mokichi Okada Association」の略称のようだ。この世界救世教もたしか手かざしだったような記憶がある。

 どうでもいい話だが、むかし上司が行きつけにしていた飲み屋のマスターがそっち系だったのか、よく上司が手かざしを受けていた。なんか手かざしされるとポカポカしてくるとか言ってたな。「お前もやってもらえ」と言われたけど、丁重にお断りした。マスターも、ひょっとしたら上司もそっち方面だったのだろうか。

 かなり話がややこしくなってきたので、整理するためにリンクを貼っておく。

世界真光文明教団 - Wikipedia

崇教真光 - Wikipedia

陽光子友乃会 - Wikipedia

世界救世教 - Wikipedia

 

 大きく脱線したけど、崔如琢である。館内は広く、建物の中央は吹き抜けになっていて1階、2階ともに中央を回遊するようにして展示室が設けられている。そこに墨画による山水画が多数展示してある。単色と彩色がほどこされたものが半々くらい。大型の作品も多い。

 技術的に素晴らしいものがあるし、正直これは期待以上の作品群だ。現代的な要素取り込み、没骨法、米点、さらには筆ではなく手を使った表現など、様々なテクニックが駆使されている。これはあなどれないなと思った。

 全体としてなんとなく南画風な感じも多い。そして細い線一つで、船のマストや魯を描く。よく見ると微妙な肥痩がある。これはもう見事としかいいようがない。ここまでの技術はちょっと日本の画家にはないかもしれないなと思ったりもしないでもない。

 様々な意見があるからなんともいえないけど、例えば横山大観の《瀟湘八景》あたりと並べたら、大観かすむかもしれないなと思ったり。同じことを以前、トーハクの東洋館で観た斉白石展でも思ったりもした。まあ山水画にしろこと水墨画についていえば、中国は本家ということになるのだろう。もっとも岩絵の具を使った色彩画は日本の方が発達した部分もあるのかもしれないが、中国にも岩彩画というジャンルもあるらしい。まあこのへんは知識も情報もないので、なんともいえないけど。

 

 飛雪降る春 飛雪伴春 壬辰之秋 2012

 崔如琢は来日して富士の絵を数点描いている。その1枚なのだが、なんとなく雰囲気が違う。キャプションには、日本の画家は富士を全面に描くが、崔如琢は富士を風景の中の一つとして捉えているみたいなことがあったような。いわれてみればそうなのかもしれない。でも自分が感じるのはなんていうのだろう、富士山に対する日本人の心性みたいなものだ。

 日本人が富士山を見るとき抱くのは、どこかで霊峰富士みたいな部分、あるいは日本人の心のよりどころとなる象徴的な原風景みたいな部分、そういう心的な付加価値みたいなものを通しているような気がする。いわば「富士的なもの」バイアスがかかった目で見ている。

 この絵には実はそれがないような気がする。ただちょっと形が変わった山が遠景に描かれているというような感じだ。けっしてこの絵が変でもないし、きちんと富士が描かれた風景画なのだが。

 同じことはちょっと喩えが違うかもしれないけれど、セザンヌの描くサント=ヴィクトワールには、セザンヌのこの山に対する思いが込められている。でも日本でそれを観る我々には単なる山の連作でしかないみたいな。そして多分、日本の画家があの山を描くとすれば、ただの山か、あるいはセザンヌ風のサント=ヴィクトワール山みたいな。

 風景に込める意味性、心的な部分、それは我々が日頃感じる原風景と重なっているかもしれないと。まあちょっとこのへんは適当な思いつきだが、少なくとも崔如琢の富士は我々が日頃接する富士とは異なるような、そんな趣があるように感じた。

江南の雨と桃花 杏花春雨江南 壬辰 2012 

 崔如琢美術館、ウィークデイとはいえほとんど見学客がいなかった。これだけ大きな施設だけにいくら宗教が関わっているかもしれないけれど(?)、ちょっと大丈夫かなと思ったりもした。そしてここは何度も訪れたい場所でもあるとは思った。

 伊豆での本格的な美術館といえば、MOA美術館、上原美術館、池田20世紀美術館などがあり、年に何度か行く伊豆旅行のたびに順繰りで訪れている。ここに箱根のポーラ美術館や成川美術館湯河原町立美術館なども入っている。この崔如琢美術館もその一つに加える加えたいとは思っている。

 ちなみにこの巨大な建物、なんでも築30年くらいは経っているのだとか。もともとは伊豆高原美術館という名称だったというが、ネットで調べてもどういうものが展示されていたのかもよくわからない。その後はというと21世紀に入ってからは「兵馬俑博物館HAO伊豆高原」という兵馬俑を展示するミュージアムだったらしい。そして崔如琢美術館となったのは2013年からとのこと。観光地の美術館、博物館の変遷というのもなかなか興味深いものがある。