東京国立近代美術館~美術館の春まつり

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 昨日から始まったMOMAT(東京国立近代美術館)恒例の「美術館の春まつり」に出かける。この時期は周辺の桜も咲く時期でそれに合わせた企画でもある。そしてこの春まつりの時期にしか展示されない絵も多く、毎年楽しみに行っている。

 もちろん最初に観たのは企画展「あやしい絵展」なのだが、それについては別の機会で。とりあえず常設展示について。

 4階1室ハイライトで最初に迎えてくれるのは菊池芳文。

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『小雨ふる吉野』(菊池芳文)

 さらに菱田春草があってそのお隣には横山大観

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『観音』(横山大観

 1912年頃の作品で明るい色調。茨城県近代美術館の『流燈』(1909年)と同系統の作品。

 つきあたりにはいつもの原田直次郎『騎龍観音』とその隣にはアンリ・ルソーの『第22回アンデパンダン展に参加するよう芸術家達を導く自由の女神>』。さらにはこの4F1室での展示は初めての和田三造『南風』など。いつものように佐伯祐三の前で小休止する。

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『ガス灯と広告』(佐伯祐三

 詳しくはわからないけれど、この絵からはヴラマンクの影響を脱しユトリロを経て佐伯祐三がオリジナリティを獲得しているようにも感じる。ポスターの活字を図象化したグラフィック表現。この絵の前で10分ちょっと目を閉じてちょっと休んだ。この絵の中に入り込むような夢を期待したけれど、一瞬落ちただけだったみたい。

 春まつりの主役というか、だいたいいつもハイライトには川合玉堂の『行く春』があるのだが、あるべき場所にない。多分3Fの10室日本画の間だと思ったが、念のため監視員の女性に聞くと、予想通りの答えが返ってくる。そこで4Fの2室から5室をすっ飛ばして3Fに向かう。

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『行く春』(川合玉堂

 やっぱりこの絵を観ないと春を迎えられないみたいな気がする。観る者の感性をくすぐるような、日本人が追体験としての記憶として持っている原風景みたいな部分を表象化している。のどかな、そして季節の移ろいを感じさせる絵だ。

 3月は5日に山種美術館川合玉堂-山﨑種二が愛した日本画の巨匠-」、7日に青梅の玉堂美術館に行っていて、なんとなく玉堂の月みたいな感じになっていた。なんとなくその締めみたいな感じで『行く春』をMOMATで観ようとなんとなく決めていた。

 よく見てみると岩肌の表現などは単なる写実とは違うのっぺりとした表現。遠景の向かい義姉の岩肌、急流の中で岸に係留された水車のついた小舟が三隻。それらを背景にした散った花びらが舞っている。その花びらの大きさは単なる遠近法とは異なり、より強調されているような気がする。それは左隻に描かれる前景の桜との比較からしても、もっと小さく点描のようになっていてもおかしくない。画家の視点には写実を超えた表現主義があるような気がした。まあ門外漢の適当な思いつきの類ではある。

 時間軸としての春の移ろいが右隻から左隻へ川の流れと同軸に流れていく。そうした時間軸とは異なるように桜の花びらは浮遊している。そんな印象をもった。

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 同じ10室にはこれもお馴染みの跡見玉枝の『桜花図屏風』がある。

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『桜花図屏風』(跡見玉枝)

跡見玉枝 :: 東文研アーカイブデータベース

 跡見玉枝は跡見学園創設者で画家でもあった跡見花渓の従妹で皇室とのつながりのある日本画家だとか。花渓の作品は跡見学園新座キャンパスにある花渓記念資料館で観ることができるとか。

 その後、3Fの9室から6室を観てから再び4階に向かう。2室には中沢弘光の作品が4点展示されていてさながら中沢の間みたいな感じがした。

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 中沢弘光は黒田清輝に師事した画家とのことで、画風も黒田の影響は大きい。外光派、日本の印象派の一人みたいな人のようだ。代表作は『おもいで』とのこと。

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『おもいで』(中沢弘光)
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      『かきつばた』      『野路』  (中沢弘光)

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『花下月影』(中沢弘光)

 そしてこの『花下月影』である。この絵を観るのは多分三度目。最初は2015年の山梨県立美術館の「夜の画家」という企画展。

山梨県立美術館へ行く - トムジィの日常雑記

 二回目はMOMATで観た。

国立近代美術館へ - トムジィの日常雑記

 いずれもこの絵のもつ独特のあぶさな、妖しさに魅了された。横たわる少女の視線が糸をひくようにいつまでも残る作品だ。1Fの企画展「あやしい絵展」に展示すべき絵なんじゃないかとちょっと思ったりもした。構図、モチーフにも破綻がない。よく見ると遠景の島(?)、山が妙にデフォルメされていることに気がついた。

 閉館の5時少し前に館を後にした。それから北の丸公園から千鳥ヶ淵を遠目にして、武道館を抜け田安門に出て飯田橋まで歩いた。桜は五分咲きくらいだったが美しい景色だった。竹内まりやの歌ではないが、この先後なんどこんな風に桜を見ることができるのだろう。

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