丸紅ギャラリーへ行く

 昨日、11月1日にオープンしたばかりの新しいミュージアム、丸紅ギャラリーに行ってきた。

展覧会|Marubeni Gallery 丸紅ギャラリー

 開館にあたってのニュースリリースはこんな風になっている。

『丸紅ギャラリー』開館のお知らせ ~古今東西の美が共鳴する空間を目指して~

丸紅株式会社(以下、「丸紅」)は、2021年11月1日に本社ビル(千代田区大手町)内に丸紅ギャラリーを開館します。

丸紅は、創業(1858年)から現在まで続く繊維に関わるビジネスを通じて収集・保全してきた江戸期を中心とする古い時代の染織品(きもの、帯、袱紗など)や染織図案、1960~70年代にアートビジネスに携わる中で入手した西欧絵画、そして、染織図案の接点などから画家本人や画商を通じて収集された近代日本絵画を「丸紅コレクション」として所蔵しています。

丸紅ギャラリーでは「古今東西の美が共鳴する空間」をコンセプトに、丸紅コレクションの収蔵品をさまざまなテーマで展示・公開していきます。
今後、年3回程度の企画展を予定しており、丸紅コレクションの代表的な作品である、イタリア・ルネサンス期の画家サンドロ・ボッティチェリの『美しきシモネッタ』は2022年秋の企画展にて公開する予定です。

丸紅は、丸紅ギャラリーの運営を通じて、ビジネスの中心地でありながらも美しい皇居の緑があり、ミュージアムが多数立地するロケーションの特性も活かし、芸術文化の振興の一端を担っていきます。

 ビジネスを通じて入手した美術品コレクションを公開展示するということか。歴史のある総合商社だけに相当なコレクションが所蔵されているようで、これを開館記念として3回に分けて展示していくという。染織品や染織図案がメインになるようだが、第一回はフランス絵画を中心にということらしい。おそらく最大の目玉ともいうべきボッティチェリはリリースにあるとおり来年秋の公開のようだ。

 皇居に面した丸紅本社を前にして最初に思い浮かんだのがロッキードというのも相当に古いなと思ったりもする。

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 ガラス張りのオシャレな1階フロアからエスカレーターでそのまま3階のギャラリーまで行く。自動ドアを抜けるとすぐに受付がある。入館料は500円なのだが、完全キャッシュレスでクレジットかQR決済のみ。みた限りauペイは見当たらなかったのでクレジットで決済することにした(見落としたかも)。

「日仏近代絵画の響き合い」 2021年11月1日ー2022年1月31日

 出品作品はフランス絵画が、コロー、クールベルノワール、ルドン、ヴラマンク、キスリングなど。日本の洋画は藤島武二和田英作、岡田三郎助、安井曽太郎梅原龍三郎小磯良平などなど。全体として外国ものよりも日本の画家の作品が粒揃いという感じがした。

 最初に目玉として2点が大きくクローズアップされている。

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『ヴィル=ダヴレーのあずまや』(コロー)

 もともとパリ生まれのコローだが、このヴィル=ダヴレーには父親が購入した別荘があり、一家はよくこの地に滞在したという。最終的にコローはここで亡くなっている。

 この絵の雰囲気はコローのいわゆる写実的な風景画とはどこか違っている。この絵は真ん中に建つあずまや壁を飾る6点の絵のうちの一つとして制作されたということだが、なんとなく装飾的な雰囲気がある。さらにいえばなんとなく象徴的な雰囲気が漂っている。適当に思ったことだけど、どことなくアンリ・ルソーのような雰囲気とでもいったらいいか。

 この絵に描かれているのは本人を含めたコローの家族たちである。一番手前で新聞らしきものを読んでいるのは父親、右にいるのは画帳を抱え写生から戻ってきたコロー自身。その近く、橋の手すりにもたれているのは母親と姉で、コローを迎えようとしているのは姉の夫という。そういう親密的な関係でありながら、どことなく寂寞な雰囲気が漂っているように思えるのはなぜなんだろう。

 この絵が制作された時期、コローは体調がすぐれない父親につきそうため長期でこの地に滞在していたのだという。父や家族を思うコローの心象風景が微妙に投影されているというのはちと考えすぎか。

 

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『積雪の森」(クールベ

 古典主義やロマン派のような空想や理想化された風景画に意を唱え、目の前にあるものを描いたというクールベ写実主義。でもこの絵をみると自然を写しとったのとは異なる絵画表現があるように思える。冬ざれた枯葉をまとった木々のところどころに降ったばかりの雪がかかっている。多分雪はほんの少し降ったばかりなのかもしれない。近くでマチエールを確認すると、雪の表現は軽く散らしたような感じである。

 絵の具を混ぜることによってやや暗い色調で風景を描くことが多いクールベの絵にしてはなにか異質なものを感じるのはこの雪の白の表現であるからかもしれないけれど、どこか印象派の萌芽みたいなものを思ったりする。

 というわけでコローもクールベもいつものそれとはちょっと異なるような雰囲気を感じた。

 

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エスタックのオリーブ畑』(ルノワール

 これも目玉作品の一つ。まあコレクションにおいてはモネかルノワールがあればそれで名品コレクションと認定されるみたいなところもある。地方の美術館でもこの二人のいずれか、あるいは両方が揃って1点ずつあるみたいなことがある。そういう意味でいえばいつものルノワールである。

 図録の解説によるとこの作品は1882年、アルジェリア、イタリア旅行からの帰路南仏マルセイユ近郊のエスタックに立ち寄った際の作品だという。エスタックはセザンヌの住んでいるところで、ルノワールセザンヌを訪問している。この絵の空や海などの筆遣いが斜線風になっているのもセザンヌの描法の影響があるのだとか。

 

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ルーアン大聖堂』(ピエール・デュモン)

 印象派からフォーヴィズムに以降するような雰囲気の作品。ピエール・デュモンは初めてきく名前である。

ピエール・デュモン - Wikipedia

 やはりその経歴からは印象派的画風から出発し、フォーヴィズムへと向かう。その後はじょじょにキュビズム的作風に変化していったという。なにか19世紀後半から20世紀にかけて潮流そのままに変化していった人みたいだ。この絵はやや離れて鑑賞すると色彩が際立つ感じで、優れた風景画だと思った。ピエール・デュモンは高校時代、マルセル・デュシャンと同級生だったとも。

 

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『横向裸婦』(小磯良平

 実は今回の企画展で一番印象に残ったのは小磯良平の2点。そのうちの一つがこの作品。以前、なにかの解説で小磯良平新古典主義のシャセリオーの影響を受けているとかいうのを読んだけど、この作品は同じ新古典主義でもアングルっぽいかなとも。全体としてのスベっとした感じとかにそんなものを感じた。モデルは多分10代の少女のようだが、この絵には清純な肉感があり、エロさを感じさせない。この絵は小磯良平自身も気に入っていたのだとか。

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『パリスの審判』(小磯良平

 形態化した人物、塗り残し表現など明らかにセザンヌ的印象とともに、どことなくピカソの新古典的な雰囲気も感じられたり。どちらかといえば圧倒的な画力により写実的な絵を描くという印象の強い小磯良平がこんな絵を描いてもいるのかと、ちょっとびっっくりというか嬉しくなる。

 

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『冬の村道』(ヴラマンク

 安定のヴラマンクというか、まあいつものヴラマンクだ。ただしこの手の暗緑色と雪の白、どんよりとした雰囲気の田舎の街並みを描く彼の絵では、たいてい建物は斜めっていて、道路も湾曲している。この絵は真ん中に道路があり、建物は対称的な構図となている。そのへんがちょっとヴラマンクにしては珍しいような感じがした。

 

 丸紅ギャラリーのある丸紅本社は立地的には毎日新聞社の隣にある。地下鉄の竹橋から降りるとほんの1〜2分の距離だ。そういう意味では割と気軽に行けるし、同じ竹橋の東京国立近代美術館(MOMAT)とは至近の場所にある。なんとなくMOMATに行くついでみたいに寄る機会が増えるかもしれない。