この美術館を訪れるのは4年ぶりくらいになる。
雰囲気のある素敵な美術館だ。本邦初の現代美術館とうたうだけあって、20世紀現代美術の名画が多数揃っている。しかも著名な画家のある時期の代表作ともいうべき大作が所蔵されているので、来るのが楽しみなところでもある。
しかもそのほとんどがガラスケースなしで直に絵を至近で鑑賞できるので、その筆触を間近で見ることができる。これも楽しみの一つである。
前回も観て一目で虜になった作品、多分この美術館で一番気に入っただけでなく、キスリングの作品でも一番気に入っているのがこれ。
やや気だるい、生活に疲れたような表情には道化師の内面が透けて見える。そしてそんなモデルへの画家の優しい眼差しも感じさせる。
美しくも寂しげな表情は観る者の心に何かしらの思いを想起させるような魅力に溢れている。
寒色を用いた暗い色調は「花咲く~」という画題とは正反対の雰囲気である。至近で観ると画家の情熱、熱量がそのままキャンバスにぶつけられたような激しいタッチを感じさせる。
ダリが王立美術学校の学生だった21歳の作品。キュビズムを取り入れた画風だが、習作という感じはせずすでに完成されたものがある。ダリの天才性を示す作品だと思う。
平板な感じであえて筆触を消している。キュビスムから抽象画へと移行する時期のこの画家にあっては筆触表現は必要なかったのかもしれない。
ピカソが88歳の時の大作。前回観たときはあまり心動かなかったが、今回はやはりピカソの偉大さを見せつけられたような感じがした。この美術館の目玉でもあり、また国内にあるピカソの作品の中でも五指に入る傑作だと思う。その筆触には画家のパッションみたいなものが感じられる。
この美術館は入り口及び常設展示が2階になっていて、階段を降りた部分が特設展示のギャラリーとなっている。今回は企画展として「生死(しょうじ)を超えてダミーが観(み)た世界 石井武夫展」が開かれていた。
石井武夫という画家をまったく知らない。調べると茂原市出身で画業を続けながら筑波大、大阪芸術大などで教授を務めた人とある。彼がダミー人形を画題にしたのは、36歳の時に5歳の娘を脳腫瘍で亡くしたことにあるという。病室での娘は様々な管がつけられた状態であり、それがダミー人形というイメージを想起させたのかもしれない。ダミーは幼くして死んだ娘でもあり、あるいは人間の代わりに様々にテストされる代用品でもある。ダミーは人の痛みや生死を代用される存在というイメージがあるのかもしれない。
ときに不気味で不安定でもあり、ときに人を圧倒するような存在感ある作品が多数展示されている。常設展の大家の名画とは趣の異なる作品群でもあり、2階と1階ではちょっと次元が異なるような感じさえした。
ちなみにこの美術館では1975年に竣工されすでに45年を経過した施設のため、エレベーター設備もない。ただし階段には車椅子用の昇降機が設置されており、妻は車椅子のまま階下に降り、また昇ってくることが出来た。こうした昇降機の設置してある美術館んとしては、これまでも諸橋近代美術館などで利用したことがある。バリアフリーという点ではたいへん有難いのだが、その都度係の人についてもらうというところで若干心苦しい部分を感じた。