東京国立近代美術館 (12月16日)

 ほぼ1ヶ月ぶりに東京国立近代美術館(MOMAT)に行く。今年72回目の美術館巡り、MOMATは9回目になる。これが今年の美術館詣での最後かな、もう1、2回行くかなみたいな感じである。

 今回は妻と二人で行ったので車で。いつものように北の丸公園駐車場に止めてから下っていく。妻が昼食をとりたいというので、毎日新聞社地下の飲食店街へ。しかしこのビルも古い作りのせいか、飲食店街に行くにはすべて階段で降りる仕様。短い階段だけど妻は車椅子を降りて伝い歩き。自分が車椅子を担いで降りる。まあこういうのには慣れっこになってはいるけど、竹橋は地下鉄から外へ上がるのにもけっこう難儀するので、割とハードルが高い。車椅子もそうだけど、ベビーカーのお母さんとかもシンドイ思いしているのかもしれない。

 今回のMOMATは企画展の「民芸100年」も観たけど、正直あまり興味がないので本当に駆け足で観た。前回書いたけど、大学時代にゼミで柳宗悦民芸運動とかやるにはやったんだけど、どうしてもあの手には興味が持てない。なので特に記すことはありません。

 常設展の方はというと、4Fのハイライト(インデックスと称するらしい)や3Fの日本画で展示替えがあったのでまずはそのへんから。

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『獅子図』 (狩野芳崖) 1886年

  キャプションによると日本の伝統絵画における獅子は唐獅子が一般的なのだとか。それに対してこの絵のライオンがリアルなのは、1886年にイタリアから来たサーカス団の興行があった折に、芳崖が実際のライオンをスケッチしているから。狩野派的な山水画の背景に妙にリアルなライオンが西洋画の趣で描かれるという、和洋折衷のような絵柄なのだとか。いわれてみると獅子図はちょっとドラクロア的な感じもしないでもない。

 

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『極楽井』(小林古径) 1912年

 これは一度3Fで観ているはず。小林古径安田靫彦前田青邨とともに「院展三羽烏」とうたわれ、一般的には新古典主義の画風、線描の美しさに特徴があるのだとか。どのへんが新古典主義なのか、ニワカの自分には今一つピンとこないが歴史画的な主題を、画題に積極的に取り組んだ部分なんだろうかと思う。この絵でいう「極楽井」は小石川伝通院裏の宗慶寺附近にあった井戸が霊泉として知られ、少女たちがその泉を汲みに来たという言い伝え表したものだという。しかも少女たちの衣装は桃山時代の風俗で描かれている。

 

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『浴室』(落合朗風) 1933年

 落合朗風(1896-1937)、この人は初めて知る。ざっと調べると菊池契月、小村大雲に師事。さらに川端龍子の青龍社でも数年活躍した人だという。

落合朗風 – 作家紹介

落合朗風 :: 東文研アーカイブデータベース

 入浴する女性を描くという点では小倉遊亀の『浴室』を思い出すが、いずれも日本画としてはモダンな雰囲気。落合朗風のこの絵についていえば、色彩がカラフルな点、女性がふくよかでどことなくルノワールな雰囲気を感じさせる。そういう点では土田麦僊の『湯女』との近似性もあるかもしれない。

 

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『星五位』(上村松篁) 1958年

 動物画を得意とした上村松篁の代表作の一つ。この絵はMOMATでも前に一度観ている他、たしか京都市京セラ美術館や山種美術館でも観ている。多分、京セラ美術館では京都派の画家の作品を集めた企画展、山種美術館竹内栖鳳と動物画を集めた企画展だったと記憶している。星五位はゴイサギの幼鳥なのだとか。よく観るとそれぞれに表情があり、それがよく描き分けられている。

 

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『墓守』(朝倉文夫) 1910年

 4Fの2室にある朝倉文夫の『墓守』。いつも思うのだが、この老人を描いたブロンズ像、どう考えても墓守に見えない。深淵な思索の世界に浸る哲学者のように見えるのだけれど。

 

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『星を見る女性』 (太田聴雨) 1936年

 今回の展示では全体として科学との関わりという視点で洋画、日本画が集められている。3Fの日本画の間もそういうことで、まずは太田聴雨の『星を見る女性』が。この絵は個人的にも大好きな絵の一つで、今回はある意味これを観に来たという部分もある。

 太田聴雨(1896-1958)は内藤晴州や前田青邨に師事し、古典と現代風俗のいずれも画題にし、主に院展を中心に活躍した人だという。この絵の他にも、まだ実物を観ていないのだが、京都市京セラ美術館にある『種痘』など、若い和装の女性と天文学、医学というある種ミスマッチな取り合わせにより、昭和初期のモダンな風俗を描いているところが面白い。

太田聴雨 - Wikipedia

 

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『気球揚がる』(中村岳陵) 1950年

 気球見物をする洋装の女性と和装の女性を描いた作品。この作品の発表は1950年と戦後のことだが、この題材は実は中村岳陵が生まれた年(1890年)に、イギリスの軽業師が横浜と上野で気球を揚げたという出来事によっているのだとか。時代は明治、洋装の女性のドレスはほぼ鹿鳴館時代のそれ、和装の後ろ姿の女性は扇子を振っている。ポップなイラストのような作品。

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『戯れ』 (北野恒冨) 1929年

  熱心にカメラを覗き込む若い芸妓というモダンな題材。これもカメラという近代的なガジェットと芸妓というミスマッチな画題だ。若葉や着物の細密描写、やや俯瞰から女性の半身だけを捉えた構図などに斬新な趣がある。

 北野恒冨は大阪で主に小説挿絵を中心に活躍した画家。この人は今年、MOMATの「あやしい絵展」や東京ステーションギャラリーでの「福富太郎の眼」展などで、心中ものの妖しい大作『道行』を観て知った。

 

 その他では日本画の革新を目指したパンリアルを主導したという三上誠の作品、洋画抽象画の李禹煥の作品などがなんとなく心に残った。

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『日日の凍結の生理』(三上誠) 1969年

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『線より』 (李禹煥) 1977年

 そういえば来年8月に六本木の国立新美術館李禹煥の回顧展が開かれるという記事を何かで読んだ気がする。これは行くかな~。