東京富士美術館「源氏物語 THE TALE OF GENJI」 (3月21日)

 今日で終幕となった東京富士美術館源氏物語 THE TALE OF GENJI ─「源氏文化」の拡がり 絵画、工芸から現代アートまで─」をぎりぎりセーフのタイミングで行ってきた。

 

 本企画展は、源氏物語の場面を絵画化した「源氏絵」を中心として、『源氏物語』や紫式部にまつわる美術、工芸、文学作品を紹介する大きな展覧会。その目的について企画展の監修者稲本万里子氏は以下ように綴っている。

  • 日本美術のなかでもっとも多く、長きにわたって絵画化されてきた物語は『源氏物語』である。
  • 平安時代以来、多くの絵師によって、絵巻、冊子、扇、色紙、屛風などに描かれてきた作品は源氏絵とし定着している。
  • これまでの美術史研究において、研究対象として重きをおかれていたのは、仏教絵画や城郭建築の障壁画である。それに対して源氏絵を含む物語絵は、女子どもの弄ぶもの、取るに足らないもの、研究に値しないものとされてきた。
  • しかし源氏絵は、天皇家や公家、武家、あるいは寺院の僧侶たちの私的な空間を彩る絵であったため、その私的な生活を知るために欠くことのできない作品でもある。さらに源氏絵は、やまと絵系の土佐派や住吉派だけでなく、漢画系の狩野派や岩佐派の絵師も手掛けているなど、流派を超えた同時代の潮流や、時代を超えた流派ごとの様式展開を知るためにも重要。

 さらに稲本氏は『源氏物語』を享受し再生した作品群や、『源氏物語』を享受し再生する営為を源氏文化と名付け、4つの点から研究を進めている。

  1. 源氏絵を『源氏物語』から派生した文学作品、翻訳作品、源氏能や宝塚歌劇、映画、漫画と同じく派生作品の一環としてとらえ、俯瞰的な視点から派生作品との関係性を探る。
  2. 源氏物語』以前の物語や物語絵、東アジア、西アジア、日本の物語絵との比較を行う。
  3. 美術史学、建築史学、日本史学、日本文学、情報学を専門にする研究者が、源氏絵研究領域、派生作品研究領域、比較源流研究領域の三領域に別れ、暗黙知を共有するまで対話を積み重ね、協働して研究を進めることで、個々人の研究を超えた研究成果を創発する。
  4. 源氏文化にかんするプラットフォームとして源氏文化ポータルを構築する。

 それらの研究成果、あるいは研究の途中経過として本企画展は位置付けられている。

 いやいや、NHK大河ドラマとのタイアップ、あるいは便乗企画的なものと高を括っていたのだが、非常に内容の濃い企画展だった。この美術展、他館や個人所蔵品等の貸し出しもあり、そのまま地方巡業という訳にはいかないのだろうが、富士美だけで終わってしまうのは惜しいと思ったりもした。

 さらにいえば、もっと早くに観に来るべきだったかなと思ったりもした。さすがに開館40周年記念と銘打っただけある充実した企画展で、3時頃に行ったのだけど、時間が足りないなと思った。終わってしまったのがとっても残念。

 企画展は4部構成になっている。

第1部 『源氏物語』とその時代

第2部 あらすじでたどる『源氏物語』の絵画

第3部 『源氏物語』の名品

第4部 近代における『源氏物語

エピローグ 現代によみがえる『源氏物語

 ウィークデイの午後だったけれど、予想以上に混んでいた。例によって宗教団体の集まりでもあったのかとでも思ったが、いやいやそうではなく源氏物語好きの方々、美術愛好家が多数来館されていた模様。さらにいえば春休みで若い学生さんらしき方も多数。やっぱり会期末ということもあったのだろうか。

 そんな中で、ちょっと困ったなと思ったのは、第2部の「あらすじでたどる『源氏物語』」の展示について。ガラスケース内の下部に絵巻物が展示してあり、正面には各巻のあらすじがパネル展示してある。みんなそのあらすじを読んでいるのでちっとも進まない。『源氏物語』の大まかなあらすじは知っていても、各巻それぞれとなるとまあ普通はよく知らない。なのであらすじ読んで、展示してある絵巻を観て、またあらすじに戻ってみたいな感じになる。

 さすがにこれはシンドイと思い、列から離れて他の展示に行った。別行動とっていた妻はというと車椅子なので、ずっと列に並ばなくてはならない。途中で戻って他のとこを観ようということにした。

 あと、この企画展では音声ガイドはなくて、持っているスマホで専用サイトにアクセスして解説を聴けるようになっているのだけど、イヤホン持っていない人が多数。みんなそのままスマホを耳にして聴いてる。まあ小さく音がこぼれるくらいならいいのだけど、音大きいままにして聴いてるおばさんとかもいた。まだまだタブレット文化の夜明けは遠いのかもしれない。

 自分は持っていたBluetoothイヤホンで妻がスマホで聴けるようにしてあげた。自分自身はほとんど音声ガイドを使ったことがない。でも妻も途中で操作が判らなくなったり、挙句は片方のイヤホンをどこかに落としたりとか(後で見つけることができた)。

 スマホタブレットを音声ガイド代わりにするというのはとてもいいけれど、なかなかこれは敷居が高い部分があるかもしれない。モノとヒトとのネットワークとかANT理論とか訳のわからんことをちょっと思ったりもした。

 

 充実した内容ということで図録購入をどうしようか考えた。図録本体と「あらすじでたどる『源氏物語』の絵画」の二分冊セットで3500円。しばし悩んだがこれは買っといたほうがいいかなと、清水の舞台的に購入した。

 

 以下気になった作品をいくつか。

 《紫式部図》 尾形光琳 18世紀 軸装 MOA美術館蔵

 

《秋好中宮図》 尾形光琳 18世紀 軸装 MOA美術館蔵

 

源氏物語図屏風》部分 狩野晴川院養信 1826年 屛風装 香川・法然寺蔵 重要文化財 

 

《住吉詣》 松岡映丘 軸装 1921年頃 二階堂美術館蔵

 

《源氏若柴》 安田靫彦 1933年 軸装 茨城県近代美術館蔵

 

《源氏帚木》 安田靫彦 1956年 軸装 二階堂美術館蔵

 

 《宇治の宮の姫君たち》 松岡映丘 1912年 屛風装 姫路市立美術館

 姫路市立美術館は一度行ったことがあるがこの作品は観ていない。こんな素晴らしい作品を持っていたとは。個人的にはこの絵を観ることができただけでこの企画展に来た甲斐があった。

 やまと絵は、土佐派、住吉派から江戸時代の琳派作品などや絵巻物などが、目玉かもしれないが、近代日本画の中での源氏物語の受容だけに限ってもかなり大がかりな企画展ができそうな気がする。本展でも松岡映丘や安田靫彦以外にも上村松園の作品なども展示してあったが、例えば伊勢の伊藤小坡美術館にも小坡《秋好中宮》など素晴らしい作品もある。せっかく大河ドラマ『光る君へ』で紫式部と『源氏物語』に注目が集まっているので、そういう切り口もあっていいかもしれない。

 そういえば洋画で源氏をモチーフにした作品ってあるのかな。と、今思いついたが。