太田記念美術館『江戸の天気』

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 前から行ってみたいと思っていた太田記念美術館へ行って来た。

太田記念美術館 Ota Memorial Museum of Art

太田記念美術館 - Wikipedia

 ここは浮世絵専門の美術館。東邦生命保険相互会社の社長を務めた太田清蔵のコレクションを基に1980年に開館したという。しかし原宿の一等地にこんな素晴らしい美術館があるなんて。自分はというと、この美術館知ったのはここ数年のことだけど、友人知人と話をすると、行ったことはないけれど知ってる人がけっこう多い。「ああ、ラフォーレの裏にあるやつ」みたいな返事がかえってくる。

 所蔵品は1万2千を超すということで、その作品を1~2ヶ月単位で企画展にして展示している。少し前まで鏑木清方と鰭崎英朋の企画展を行われていた。そして現在、開催されているのは『江戸の天気』という企画展。

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江戸の天気 | 太田記念美術館 Ota Memorial Museum of Art

 浮世絵にはさまざまな気象現象が描き込まれています。晴れわたる空、土砂降りの雨、しんしんと降る雪、雨あがりの虹。刻々と変わる天気を、浮世絵師たちは繊細な色彩の変化によって、あるいは大胆にデフォルメし表現してきました。
日本の、季節によって変化する多様な気候は、今も昔も人々の暮らしにも大きな影響をあたえています。江戸時代には大雨による洪水が度々おこり、また予期せぬ天候不順が飢饉を招くこともありました。科学の発達した現代においても、私達は天候をコントロールすることはできません。天気予報を頼りに日々の気象の変化に備えていますが、近年では大雨や酷暑など異常気象が話題となり、気候変動への関心も高まりつつあります。
本展では、絵の中の天気に注目し、葛飾北斎歌川広重小林清親らの手によって生み出された風景画をご紹介いたします。浮世絵師たちの個性あふれる表現を通して、うつろう空模様を愛でる日本人の美意識はもちろん、時には風雨に翻弄されながらも繰り広げられた人々の営みにも触れていただけることでしょう。

(図録より)

  その切り口として「雨」、「晴れ」、「雪」、「夜の空」、「夜明けと夕暮れ」、「さまざまな気象現象」、「天気と装い」、「さまざまな雲と空」、「物語のなかの天気」という9つのテーマによって作品を紹介している。

 例えば雨の表現といえば歌川広重ように線で描いたものが有名。これは西洋絵画にはなかった表現のようで、印象派の画家たちが驚嘆したというようなことを何かで読んだ記憶がある。

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『名所江戸百景大はしあたけの夕立』(歌川広重

 これに対して明治期の光線画小林清親の手になる雨の表現は、白抜きの線となる。

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『梅若神社』(小林清親

 この絵については先週行った府中市美術館にも展示されていた。同じ絵を多くの美術館で観ることができるのも複製芸術=版画であるからこそである。この作品の技法については府中市美術館の作品へのキャプションに詳しい。

 京の貴族の子であった梅若丸は、人買いにさらわれた挙句に、墨田川のほとりで亡くなる。墨田区にある木母寺は、この梅若丸伝説ゆかりの地であり、明治の一時期には梅若神社が置かれていた。この作品は、雨にけぶる梅若神社を捉えたもの。浮世絵版画の雨というと、広重の《名所江戸百景 大はしあしたけの夕立》を思い浮かべるだろう。そこでは激しい雨の様子が、幾本もの細い墨線で示された。対してこちらでは、直線状の白抜きで表現されている。版の凸部による墨線に対して凹部による白線と、逆の技法を用いており、広重へのオマージュとも挑戦とも受け取れる。重ねられた色版がズレることは許されず、彫師や刷師の高度な技術あってこその作品である。

(図録P73)

  府中市美術館での企画展『映えるNIPPON』で展示された作品で、この『江戸の天気』でも観ることが出来たのは広重で『大はしあしたけの夕立』、小林清親『梅若神社』、『大川一之橋遠景』などがあった。

 しかし改めて浮世絵版画を観ていると北斎、広重の神髄は構図にあるのかなとと思ったりもする。

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富嶽三十六景 駿州江尻』(葛飾北斎

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東海道五拾三次 庄野白雨』(歌川広重