岐阜県美術館~「ミレーから印象派への流れ」 (10月9日)

 岐阜公園から車で15分、3時前には岐阜県美術館に着いた。ここには確か2018年に一度来ている。ちょうどその時は1年間のリニューアル休館に入る直前で、蔵出しのような所蔵名品展が開かれていて、目玉となるオディロン・ルドンも岐阜ゆかりの川合玉堂前田青邨、山本芳翠など素晴らしい作品を目にすることができた。

岐阜県美術館 - トムジィの日常雑記

 今回はというと企画展「ミレーから印象派への流れ」展が行われていた。

ミレーから印象派への流れ | 岐阜県美術館

  この企画展は以前横浜そごう美術館でやっているのを見逃したもので、その後地方巡回で各地を回り、岐阜県美術館が最後というもの。展示作品はフランスのバルビゾン派印象派の秀作をコレクションしているトマ=アンリ美術館、ドゥエ美術館、カンベール美術館、さらにイギリスのウェールズ美術館の収蔵品だ。

 写実主義バルビゾン派の流れから印象派へ、さらに新印象派やナビへというフランス近代絵画の流れを追う系統展示だ。その中で大家の作品もコロー、ミレー、クールベからブーダン、モネ、ルノワール、シダネル、セリュジェ、ドニ、ボナールというよく知られた大家以外にも、デュティーユ、クワッセグ、クラウス、ゴーティなどなど、多分自分がよく知らない画家のものも多数出展されていて、なかなかに見応えのある企画展だった。

 さらにこの日は金曜日で、夜間会館の日だったので閉館は8時まででゆっくりと観ることができた。もっともその後、埼玉までのロングドライブが待っているのでそれほど遅くまで観ることは出来なかったが、閉館間際の駆け足みたいなせわしないものではなく、ゆったりと観ることができた。なんなら常設展の方にも行ったのだが、以前見たような所蔵名品はほとんどなく、ルノワールやルドンが数点、あとは現代絵画ばかりだった。

 帰りがけに受付の女性に聞いてみたところ、今回はルドン、フジタ、玉堂、芳翠らはお休みで、日本画の名品はごっそり福井県立美術館の方に行っているとのことだった。その説明をしてくれた女性は、おそらく四コマ漫画ミュージアムの女』を描いている宇佐江みつこさんだと思った。3年前にミュージアムショップで本を購入してサインしてもらった記憶がある。

 

 企画展で気になった作品を幾つか。

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『アラブの語り部』(ジャン=フランソワ・ミレー) 1840年

 ミレー26歳の時の作品。当時のフランス絵画はロマン主義が主流であり、ミレーもそうした習作を幾つも描いていたようだ。画題、モチーフ、色調、構図、どれをとってもドラクロワである。

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『雷雨』(ジャン=フランソワ・ミレー) 1847年

 これももろにロマン主義的な作品。子どもを連れて薪拾いに出かけた女を突然の雷雨が襲う。ミレーの育ったノルマンディー地方は海沿いでこうした強い風が吹きつけることが多かったのだと。そういえばこういう嵐のような風雨に揺れる木々と人物を描いた絵、他にもあったように思う。全体の色調はなんとなくドラクロワの影響化にありつつも、人物の表情などにはミレーの特徴が出てきているような気がする。

 

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『風景、夜の効果』(コンスタン・デュテイユー)

 どっからどこをとってもコローである。この絵の近くにコロー作品もあるので、ますますコローと思ってしまう。デュテイユーって誰、自分は初めて観る画家である。図録によると1807-1865年、ドラクロワに傾倒していたが、コローと出会い親交を深め、その影響下で自然主義に基づく風景画描くようになったとある。さらに自然主義ロマン主義を融合させるような絵を手掛けているのだとか。

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『オランダの風車』(ブーダン

 同時代でオランダの画家ヨンキントとともに風景画、特に海景画を描いているブーダンはオランダ風景画の影響が強いのだと思う。いつもはもう少し灰色がかった白が基調となるのだが、この絵はそれと異なり美しい青で描かれている。自然主義的だがどことなく印象派的な萌芽も感じられる。その後、空の王者と呼ばれるように空、雲の表現に卓抜なものを見せるが、この絵ではやや控えめだ。家に飾りたくなるような作品。

 

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『海』(シャルル・クワッセグ) 

 シャルル・クワッセグ(1833年-1904年)、初めて目にする、耳にする画家だ。もともとは船員として世界中を航海し、その後に画家になったという。海景画、パノラマ画を得意にしたという。

 

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ルーアンセーヌ川』(アルマン・ギヨマン)

 アルマン・ギヨマン(1841年-1927年)はパリ生まれの画家。セザンヌピサロと親しく交流し、たびたびそれぞれと一緒に屋外写生を行っている。ピサロの推薦で第1回から第8回までの印象派展に6回出品している純然たる印象派、もしくは印象派周辺の画家。ゴッホの弟テオとも親交があり、テオはギヨマンの絵を数点購入している。ゴッホもギヨマンの明るい色彩に影響を受けているという。

 ギヨマンのエピソードで面白いのは、1891年に宝くじで大金を手にし、それ以降生活に困らなく絵に専念できたという幸運な持ち主であること。その色彩表現はフォーヴィズムにも影響を与えたという。

ジャン=バティスト・アルマン ギヨマン-主要作品の解説と画像・壁紙-

 

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『リス川にかかる霧』(エミール・クラウス)

 エミール・クラウス(1849年-1924年)はベルギー印象派の一人だ。モネの影響が強いのだろう、この絵などどこからどこまでもモネだ。筆触分割から一時は点描など新印象派的な作品も描いている。この人の作品は何点か、特に点描のそれを観たような記憶があるのだが。クラウスは後に多くの学生の指導を行い、日本人画家でも太田喜三郎、大原美術館のために尽力した児島虎次郎などを指導している。

 

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『服を脱ぐモデル』(ボナール)

 

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『日曜日』(アンリ・ル・シダネル)

 シダネルは点描や象徴性の高い作品を描く画家である。自分の感想だと、なんとなく人物不在なのにどこか人物の痕跡を思わせるような風景画を描く人という印象がある。だが、この絵には12人の若い女性がいる。美しい、美しい絵だ。今回の企画展で自分が一番気に入った絵でもある。この絵にもしこの12人の女性が描かれていなかったら。それでも絵としては成立するかもしれない。12人の女性のいた痕跡を残して。彼の絵にはどことなく異界へ観る者を誘うような不思議な感覚がある。多分、自分の勘違いか何かかもしれないけれど。

 

 この企画展「ミレーから印象派への流れ」は10月21日までということだ。さすがに距離的にもう一度行くのは難しいけれど、近くだったら確実にリピーターになっていると思う。岐阜や愛知近辺にお住まいの方にはぜひ行って欲しい企画展だ。蛇足ながら、岐阜県美術館は建物の外部、内部も美しい。図書館と道路を隔てて建つ建物はや入り口前の庭園もゆったり寛げる空間。といいつつ次、自分はいつ行けるだろうか。岐阜は遠い、遠いのである。