群馬県立近代美術館常設展

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 この美術館に来るのは二度目である。前回は確か3月に来た。その時も建物内外の美しさや常設展示の広さや量などにけっこう圧倒された。そして自宅から車で1時間弱で行けるということもあり、多分来る回数は多くなるかもと思ったのだが、結局は半年ぶりくらいになってしまった。

群馬県立近代美術館へ行く - トムジィの日常雑記

 建物の設計は磯崎新であることも、前回確認していたし収蔵作品もけっこう印象的だったのだがすっかり失念していて、いざ絵の前に立つとそうそうこの絵あったね、そうすると確かあの絵もあるみたいな感じになった。

 磯崎新については、この人が設計した建物を割と身近に知っていたり、利用もさせていただいたりとかもあったので親近感はある。ただし美術館などにはいいけど、オフィスとかでうちっぱなしのコンクリの壁面は結構使いずらいとかいう話も聞く。まあいいか。

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 名画についてもモネやルノワールムンク、モロー、ルオー、シャガールピカソデュフィなど粒揃いだ。しかも多くの作品がガラスによる保護がなく、マチエールを至近で確認できる。

 今回、このフロアでそそられたのはこの2点

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『オースゴールストランの夏』(エドヴァルト・ムンク

 ムンクらしくないというか。どうしても我々が考えるムンクらしさというと、不安や病理性がキャンバスにあふれ出すようなおどろおどろした作品や、色づかいの激しい表現主義的な作品、ようは『叫び』の印象が強かったりする。しかしあの手の作品はムンク神経症というか病んでいたある時期に集中している。彼は80までと長命だったけれど、多くの期間割と凡庸な作品を描いていたりもする。

 26歳でパリに留学、その後は本国ノルウェー、ドイツと行き来して活動を続けたが、1908年にデンマークで精神病院に入院、翌年に帰国する。その後は30年近くを母国で活動し、国民画家となるといったキャリアだった。彼の回顧展は二度、一度は子どもの頃に鎌倉で、もう一度は割と最近東京都美術館で観ている。いずれも『叫び』がメインだったのだが、意外と凡庸というか普通の絵が多いのにけっこうびっくりした記憶がある。イメージ的には全編あのおどろおどろした感じがあったから。

 この『オースゴールストランの夏』は1889年の作品。おそらく最初のパリ留学の直前の頃の作品で、若々しい印象派的な雰囲気のある作品だ。ある意味、ムンクもこんな作品を描いていたのかと思ったりもする。まあ普通に良い絵だと思う。

 

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『人形を抱く少女』(レオナール・フジタ

 フジタの絵は個人的には今一つピンとこない部分がある。例の乳白色もそうだし、戦争画もそう。乳白色のやつは日本画の技法をうまく洋画に取り入れたアイデアがあたったみたいな感じがする。あれをあの時代にパリで、日本人がやるというアイデアを閃いたところにフジタの凄さがあるとは思うんだけども何度も同じような作品を観ていると、なんとなくもういいかなみたいな感じになる。

 戦争画についても最初に観た時はもの凄いインパクトだったけれど、何度も観ているとあれって、結局西洋の戦史というか、歴史画的な感じで戦闘シーンを大画面で描きたかっただけなんだろうと思ったりもする。あのサイパンバンザイクリフを描いた作品も戦争の悲劇というか劇的な場面を描きたかっただけなんじゃないみたいな見方をしてしまう部分がある。

 ようは根っからの絵描きだったフジタは、思い切り戦争描いていいぞといわれて、西洋の古典主義やロマン主義の大作にチャレンジするチャンスが巡ってきた、いっちょうやったるかみたいな絵描きのプロ意識と野心に突き動かされたのではないかと、そんな気がしてしまう。それは丸木位里の『原爆図』を観て、その訴求するものが違い過ぎるとかそんなことを思ったからだ。

 とはいえフジタの戦争画が単なる凡庸な作品だなどとは思ってはいない。あれはまさに一流の画家によって描かれた戦争画の大作であることは間違いないと思う。話は脱線だが、ようはあまりフジタの絵には食指が動かない、個人的な趣味の問題みたいなものだ。なのでこの絵もというと、ちょっとフジタっぽくないなというところが面白く感じた。白くないし。

 フジタの『人形を抱く少女』は人形を抱いた少女が正面を向いた木版画がけっこう有名のようだ。ネットでも簡単に検索できる。でもそれともこの油彩画は関係ないようだし、モデルも違う。この作品の制作は1923年、パリで大成功を収めていた頃だ。この白くない絵のモデルは誰なんだろうか。

 

 その他では日本近代として安井曾太郎岸田劉生中川一政佐伯祐三長谷川利行国芳康雄、岡鹿之助、さらに群馬所縁の福沢一郎、鶴岡正男の作品などが展示されている。安井曾太郎の『足を洗う女』はかなり気に入っていて前回も印象深く記憶に残っている。

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『足を洗う女』(安井曾太郎

 1913年、パリに留学していた頃の作品で全体の色調や多視点からの表現は明らかにセザンヌの影響だ。ただしモデルの情勢はどことなくルノワールの趣もあり、いずれにしろ安井が独自のスタイルを模索する習作的な雰囲気が濃い。

 

 さらに展示室4では、一室を鶴岡正男のドローイングや陶器などを集めて展示する「鶴岡政男ドローイングと立体」が行わていた(9月11日~10月10日)。

 

 また展示室3では「現代の美術」(9月11m日~11月7日)が開催されている。ここでは今井俊満堂本尚郎、福沢一郎、鶴岡政男、難波田龍起、宮脇愛子、李禹煥、丸山直文、福田美蘭、押江千衣子、小林孝亘、上田薫、額賀宜彦らが展示してあった。

 つい先日もMOMATで観た今井俊満はやはりインパクトを強く感じた。

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『晩秋』(今井俊満

 

 さらに福田美蘭のこの作品には思わず声を出して笑ってしまった。

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『リンゴとオレンジ』(福田美蘭

 セザンヌの名画を添削指導するというパロディ作品。総評は点数がB、「全体的に視点がバラバラです」のコメントは本当に可笑しい。福田美蘭は1963年生の58歳、名画をモチーフにした再解釈の作品を多数制作している。反転させた北斎の『神奈川沖浪裏』とかドラえもんレンブラントのコラボみたいな作品とかも。

福田美蘭 - Wikipedia

 ググる福田美蘭の企画展が千葉市美術館で10月2日から開催されるという。千葉市美術館所蔵の日本画作品を題材にした新作も16点出展されるという。ちょっと気になるので行ってみたいとも思った。

福田美蘭展 千葉市美コレクション遊覧 | 企画展 | 千葉市美術館

「福田美蘭展」千葉市美術館で - 日本美術の所蔵品を題材とした新作絵画、月岡芳年など発想元の作品も展観 - ファッションプレス

 

 企画展「江戸と上毛を彩る画人たち」の方に時間をとられてしまい、常設展は駆け足で観ることになってしまった。なにか前回も同じような失敗だったが、この美しい美術館の常設展示スペースとその展示品の量についてすっかり失念していた。次回来るときにはもう少し余裕をもって早くに来るか、企画展を流して常設展示に時間を割くかしないといけないなとは思った。

 

 5時の閉館と同時に美術館を出た。その後は美術館前の公園で、妻は車椅子で一人で散歩に行き、自分はというと芝生に寝転んで眠るでもなく、ただただぼーっと空を眺めていた。この美術館とその周囲の環境は最高にいい。群馬県民を羨ましく思ったりもする。

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