高崎市タワー美術館「日本画の風雅」再訪

 高崎市タワー美術館で開かれている「日本画の風雅-名都美術館名品展」に行って来た。ここは5月13日にも訪れている。

高崎市タワー美術館「日本画の風雅-名都美術館名品展」 - トムジィの日常雑記

 会期が6月13日と迫っていることもあり、もう一度行きたいと思っていた。まあ埼玉の辺境に住んでいるので高崎は割と近い。車だと高速使えば1時間かからない至近である。なんなら都内の美術館に行くよりも近いくらいだ。

 前回も書いたけど、高崎市タワー美術館は高崎駅から徒歩1~2分と至近距離にある複合施設の3階、4階にある。エレベーターで上がった4階に入り口があり、館内の階段で3階に降りてという導線になっている。

 「日本画の風雅」展は愛知県小牧市にある名都美術館を貸し出したもの。同時期に高崎市タワー美術館所蔵品により企画展「つなぐ、つながる、日本の美」展が開かれている。名都美術館

 「日本画の風雅」展は4階が「麗しき美人画」と題して上村松園伊東深水鏑木清方、伊藤小坡の4人の画家による美人画が展示されている。展示作品は、上村松園7点、伊東深水8点、鏑木清方6点、伊藤小坡5点でこれだけの作品が一堂に揃うとけっこう圧巻ではある。

 それぞれの画家の特色について名都美術館主任学芸員鬼頭美奈子氏によると、まず上村松園の場合、「一種の型に入った古き美人画」と揶揄されながらも、謡曲や古典文学に着眼し、さらに自身の母親の姿を通して市井の女性の清らかさを主題としたとある。さらにそれまで男性趣向の女性美が主流であった美人画を女性が共感できる表現へと変革させたとしている。

 これに対して鏑木清方は、幼少時に慣れ親しんだ江戸情緒を作品に反映させ、可憐で小粋な女性像を構築させたとある。さらに清方に師事した伊東深水は、時代ごとに変貌する風俗に着目し、着物から洋装へ、結髪から断髪へと変わる女性の風俗、いわばファッションを主題にして女性像に迫っていき、師の鏑木清方を凌ぐほどの人気画家となっていった。

 また伊藤小坡は精神性を強調した上村松園とは異なり、結婚して子どもをもうけ、妻として母としての日常を写した画題を多くとりあげたという。いわば親密派とでもいったらいいのだろうか。

 そうした特色のなかで特に注目したのは、上村松園が男性趣向の女性美から女性が共感できる表現へと美人画を変えていったという点かもしれない。実際、上村松園にしろ伊藤小坡にしろ、母子という画題を多くとりあげているが、鏑木清方伊東深水にはそれがない。清方や深水にとっての美人画はあくまで男性目線からの「女」だからなんだろうと思う。

 もともと美人画は浮世絵にある風俗画としての美人絵からはじまっている。それは遊女に代表されるような色香漂う女性たちである。結局、男視線からのそれは現代でいえばグラビアに相当する。描かれる美の意図するところは、艶っぽさ、色っぽさであり、ようは男の性状をそそるということにある。美人絵、美人画とはある種性的な趣向性を帯びた風俗画であるといってもいいかもしれない。

 それに対して、上村松園の作品にはそうした男に媚びるような色っぽさ、性的対象としての女性みたいなものが欠けている、あるいは意図的に遮断したのかもしれない。数日前に東京ステーションギャラリーで観た福富太郎コレクション展の中で、上村松園作品は1点のみであり、それに対して福富太郎は上村作品は苦手というような述懐を記していた。それは美術コレクターとしての審美眼とは別に、漁色家的な側面もあった福富太郎の男性的な趣向性から出たものかもしれないとはそのとき思ったことだ。ようは福富太郎からすると上村作品はそそらなかったのではないかと。

 そんなことを思いつつ上村松園、伊藤小坡、鏑木清方、伊藤深水の作品を眺めて小1時間愉しき時間を送った。

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『花の旅』(上村松園

 旅装束の二人は母と子と思われ、杖を持つ二人の様子から急な坂道を登ってきて、ふと見上げると美しい山桜が咲いている。「ちょいと綺麗じゃないこと」「そうね」と言った会話が聞こえてきそうな画題である。

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『尚武』(伊藤小坡)

 端午の節句を祝う江戸時代の母子の姿を描いた作品。子育てと子を思う母の愛情を主題とした作品だ。こういう作品は男性画家はあまりとりあげない、女流画家の独壇場かもしれない。西洋でも例えばベルト・モリゾやメアリー・カサットが母子の姿を沢山描いているが、それと通じるものがあるかもしれない。

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『初夏の化粧』(鏑木清方

 若い娘の化粧をする仕草を描いた作品。うなじからちょっとはだけて見える肩のラインなどに男心をくするぐるというか、そそる絵である。福富太郎はこの絵を欲しがっていたんだろうなと、適当に想像してみたくなる。

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『湯気』           『ささやき』

 伊東深水の美しい絵である。湯けむり超しに描かれる若い女性は当時20才の深水の妻、好子だとされている。そして若い芸妓同士の肩を寄せ合いささやきあう姿。どちらも男性目線からの若い女性の色気を感じさせる絵だ。

 もちろん女流画家とはいえ、職業画家である以上、美人画がどういう層に好まれるかは理解していただろうし、基本的には売れる絵を描くことが必要だったとは思う。それでも世相に迎合しない部分をある種明確にしていたのが、多分上村松園だったのではとそんなことを思ったりもする。彼女の絵に対してよくいわれる「凛とした」たたずまいは、男性視線への迎合を拒絶する画家の精神性の現れなのではと、まあ俄かが勝手に思ったりもしてみた。

 

 3階は「日本画の巨匠たち」と称して、名都美術館所蔵の名画が目白押しである。横山大観竹内栖鳳川合玉堂小林古径橋本関雪安田靫彦前田青邨、土田麦僊、山口華楊、加山又造東山魁夷平山郁夫などなど。妻と二人で来ていたので、長い時間をいられなかったが、ぶっちゃけこのフロアにだったら一日いても飽きないのでと思ったりもした。開催期間はあと一週間なので、多分もう一度はないのだが、いつか名都美術館に足を運びたいとしみじみ思った。

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『瀬田晩霞』(竹内栖鳳

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『紅白梅』(前田青邨

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『牡丹』(加山又造

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『当麻新雪』(後藤純男

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『舞』(橋本明治)