東京富士美術館へ行く

 どうも世の中は4連休が始まったようだ。

 毎日が日曜日の身の上の自分にはあまり関係がないことである。週に4回、デイケアやデイサービスに行っている妻からの時々揶揄されることもある。妻にとってはデイケア、デイサービスは仕事みたいなものらしく、前日支度をしながら「明日も仕事だ」などとブツブツ言っている。

 連休中は妻の「お仕事」も休みなので、おさんどんが増える。それはまあ致し方ない。当然、どこかへ連れて行けということになるが、さすがにこの暑さではご近所の散歩も難しい。なので涼しくて、人が少ないところはないかと思い、家から一番近そうな美術館をチョイスする。

 八王子の東京富士美術館は高速道路を使えば30分程度で行けるので、一番最初に思い浮かべることになる。ここの常設展示は今は休館中の西洋美術館に次ぐものがあるのではないかと、密かに思っている。以前、とことん見せますという蔵出し企画をやっていたときにその質、量の高さには目を見張ったことがある。まあ常設展示にどのくらい出品するかは、他館への貸し出しやその時の企画展にもよるのだけれど。

 家を出たのは1時過ぎなのだが、高速道路はえらく混んでいる。関越道は下りがけっこうな渋滞をしている。昼を回っているというのに。そして圏央道はというと、これも青梅あたりから断続的な渋滞が続いている。多分、中央道が滅茶込みでその影響なんだと思う。なので最寄りのあきるのICの手前の日の出ICで降りることにする。あとで調べると中央道、関越道は軒並み40キロ超の渋滞が発生していたという。

 

 そして東京富士美術館である。企画展はというと『岩合光昭の世界ネコ歩き』写真展である。

開催中の展覧会 | 東京富士美術館

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 これはあざとい(笑)。

 東京富士美術館は夏になると子ども向けの企画展を組むことが多い。アニメものだったり、児童文学ものだったり、プリンセスものだったりとか。そんななかでネコを持ってくるのだ。しかもBSで放映されている岩合光昭の「ネコ」である。案の定、駐車場もけっこう混んでいて、美術館至近の坂の上にある駐車場はほとんど満車状態。幸いなことに身障者用の駐車場が空いていたのですぐに入ることができたけど。そして企画展の会場もかなりの人出で、ちょっと密っぽかった。まあ子ども夏休みだし、4連休初日だし、「ネコ」だし、これはしょうがないでしょう。

 これだし。

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ガゼット♀3才 パリ ©Mitsuaki Iwago

 そしてこれだし。

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オルガのこどもたち♂♀ ベルギー ©Mitsuaki Iwago

 これも。

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©Mitsuaki Iwago

 これも、これも。

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©Mitsuaki Iwago

 ネコ好きにはたまらないと思うし、そうでなくても多分癒されることは間違いないと思う。特にネコ派でもない自分でさえ、見ていると「う~む、たまらん」という感じになる。この企画展は多分、成功するだろうなとは思った。

 しかしどの写真のネコも表情豊かで、各国の名所を背景に捉えられたその姿はやはりプロのカメラマンの手になるものだと改めて思った。素人のスナップショットとはまったく違う。ネコは当然予想外の行動をとるだろうから、けっこうな確率での一発勝負である。それでもこれだけの構図、それぞれの表情をフレームの中に収めるのはまさしくプロの仕事なんだとは思う。

 富士美にはもう何度も来ているけれど、グッズコーナーの充実度、人出も多分自分が見たなかでも最大級だったと思う。所せましとネコグッズ、岩合グッズや関連書籍があり、多くの方がお求めになっている様子だった。

 

 なかなかまったりのネコに包まれた空間だったが、しょせんはネコである。じっくり、ゆっくり見るという訳もなく、そのまま常設展示の方に以降する。常設展示の奥ではミニ企画として『LOVEイヌ・ネコ写真展』も開催されている。

 東京富士美術館は西洋絵画、浮世絵のコレクションを膨大な量を所蔵しているが、実は写真のコレクションも有名である。有名どころではマン・レイなんかが中心となるのだが、そうしたコレクションからチョイスすれば、イヌやネコのミニ企画もわりと簡単に出来るのだろう。ハリー・エリスやロッテ・ジャコビなどの主にイヌ、ネコを題材にした写真は、岩合ネコとは別の意味でけっこう面白く、興味深いものがあった。

 

 そして常設展である。前回、富士美を訪れたのは2月だったと思うが、そのときとあまり変わっていない感じ。ミニ企画展の関係で、展示スペースも圧縮されているので15世紀前後から18世紀までの作品で2室、イギリス風景画系で1室、印象派から現代絵画で1室という感じで、特に近代以降の作品が少々淋しいものがあった。

 前回にも取り上げたけど、富士美の目玉的名画はいつものように展示されている。

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『煙草を吸う男』(ジョルジュ・ド・ラ・トゥール) 1646年

  先日観た上原美術館の『陰翳礼賛』ではないけど、この作品を中心に16~17世紀の作品、例えばカラヴァッジョ、フェルメールなどなど、まあそこまで大御所ではないにしてもその年代の作品群を照明を落とした展示室で観るというのは面白いと思う。当時の室内は圧倒的な暗さであり、ロウソクの光でようやく浮かび上がってくる壁面の絵というのは、かなり興味深い鑑賞体験になるように思ったりもする。

 

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『海辺の船』(モネ) 1881年

 ここんところ浮世絵版画を観る機会が多いので、どうしてもそういう目で捉えてしまうのかもしれないが、この絵の構図は間違いなく浮世絵のそれだとおもう。前景の船を強調し、背景の建物、雲の配置などには浮世絵のエッセンスが溢れている。

 

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『ローマ、クィリナーレ宮殿の広場』(カナレット)

 都市の風景や祭りの光景を正確に描写する「ヴェドゥータ」(都市景観画)という範疇にはいるもので、ローマに旅行に来た人々に愛好されたという。まあ一種の絵葉書的なニーズとして好まれたのだろう。カナレットはそうした都市景観画の名手で、本作も二点透視図法による遠近表現でまさに着色された写真のような趣がある。

 表現や手法は異なるとはいえ、こうした都市景観画は日本の浮世絵と近似する部分があるように思ったりもする。いずれも旅行の記念であったり、あるいは未だ訪れたことがない観光地を追体験させる効果が期待できるものだったりする訳だ。そういう意味でいえば、都市景観画もまた名所図会であることは間違いないのだと思う。誰か浮世絵の名所図会と都市景観画について論じてくれないかと思ったりもする。もしくはすでにそういう論考があったりするのかもしれないけど。

 

 最後に富士美の名画をいつものように幾つか。

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