群馬県立近代美術館 The Museum of Modern Art,Gunma
近場でどこか行っていない美術館はないかと調べていてヒットした。以前から気になっていたところなのだが、ネットのナビで調べてみると1時間足らずで行けることがわかり行ってみることにした。鶴ヶ島からだと関越にのって高崎玉村スマートICで降りる。関越道が空いていたので本当に早い。ICからは10分足らず。
ロケーション的には県立公園群馬の森内にあり環境もいい。よく晴れていたが風が非常に強い天気で、それでも家族連れが多数公園内で遊んでいる。美術館自体はファミリー向けのイベントも行っていたけれど、展示会場自体は閑散としていてゆっくり美術品を鑑賞できる。ここは本当に居心地の良い美術館で、設計は誰かと思ったら磯崎新だった。ウィキペディアによれば磯崎新の代表作とされている。


収蔵作品も西洋近代絵画、日本近代、現代アートなど豊富である。また世界で3点だけあるピカソの「ゲルニカ」の複製タペストリーも所蔵している。今回は4月4日までのコレクション展示として「日本と西洋の近代美術Ⅳ」が展示されている。
http://mmag.pref.gunma.jp/exhibition/PDF/room2.pdf
まずここの展示で驚かされたのは、目玉ともいうべきルノワール、モネ、ピサロなどの名画が額装で展示されているがガラスによる保護がされていないこと。しかもこうした場合、通常はあまり絵に近づかないように線などが引いてあるのだが、ここにはそれもない。なので近接して鑑賞すること、筆触やマチエールを確認することが可能である。ただし絵の保護という観点からするとかなり危険な部分もあるかもしれないと思った。
これについては以前、岐阜県美術館でも藤田の絵が額装のまま展示してあり、近接して鑑賞することができて驚いたことがあり、そのことを監視員に確認したこ
とがあった。今回も近くにいた監視員に聞いてみると、なんでも館の方針として購入(入手)した時の状態で展示することを基本としているということで、最初にガラスで保護されていればそのままガラス貼りの額装で、そうでなければそのままの額装で展示しているのだとか。
というわけでルノワールやモネのマチエールを多分初めて、きわめて近接した状態で確認というか鑑賞することができた。
この美術館の公式図録『コレクションへの誘い』の表紙にもなっている作品で、おそらく目玉的な収蔵品の一つだが意外と小品で1877年頃、印象派時代の作品。モデルは当時の恋人だったマルゴと画家の弟デドモン。
1884年の作品、移ろう光の表情をキャンバスに描き出すという印象派の実作のキャリアを積み重ねていた頃。近くで筆触を見てみるとピサロやシスレーのそれとは明らかに異なるモネならではのオリジナリティを感じるような気がする。
モネは1912年頃に白内障と診断され目の状態は悪化していく。特に右目の状態が悪く、1923年に手術を受けている。この作品は1914-17年頃に制作されており、視力がかなり低下している時期の作品。この抽象画のような表現は明らかに視力との関係があると思われるが、この表現が後の画家たちに与えた影響大きい。西洋美術館にある『睡蓮』(1916年作)と同時期のものだが、より抽象度が高いようにも思う。
1884年の作品でエラニーに定住してすぐの頃に描かれている。樹木や草の表現は縦や斜めの筆触で明らかにセザンヌの影響を感じさせれらる。この後、ピサロはスーラ等の影響で一時期点描表現を試みるようなので、ピサロが様々な筆触による表現を模索していたということが伺い知れる。
図録の解説によると「安井と言えばセザンヌの影響を論じるのが通例なのだが、安井はこの作品についてドーミエの影響を語っている」とあるのだが、自分的にはルノワールの影響とあとは少しエコール・ド・パリ的なドンゲンらの影響を感じたりもする。
佐伯祐三は、里見勝蔵に紹介されてヴラマンクと会い作品を叱責されることからヴラマンク風のフォーヴィズムに傾倒する。その後、次第にユトリロ風の都市景観を描いていくというのが、彼の大雑把なキャリアなのだが、この作品はほとんどヴラマンクの模写ともいえる習作的作品。佐伯のヴラマンクからの影響が大きさを物語るような作品。同時期に同じようにヴラマンクの模写的作品を多数描いた里見勝蔵のそれとほぼ似通った構図、色調。
群馬県立近代美術館は近代の西洋、日本の名作、秀作を多数所蔵している他、地元の画家として福沢一郎の作品も多数収録展示している。今回は戦後のシュールリアリズムを脱した後の中南米をモチーフにした作品が数点展示してあった。いずれも興味深いものがあり、埼玉から1時間以内で来れる点でもこれからも何度も足を運ぶことになると思う。今回は展示がなかったが、『ゲルニカ』の複製タペストリーも観てみたいと思っている。