上原美術館 (11月20日)

 吊り橋巡りの後に向かったのは下田の上原美術館

 ここも7月に訪れているが、思いの外すてきな美術館だったのでまた来たいとは思っていた。ただし今回はパスしようかと思っていた。やっぱり伊東から下田はちょっと遠いし、最終日に伊豆の最南端まで行くのは帰りのことを考えるとキツイなというのが理由。でも池田20世紀美術館でこのポスターを見て俄然行きたくなった。

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 鏑木清方か、しかも新規に購入した画帖の公開である。期間は1月までだけど多分この機会を逃したら多分この企画展は観ることができない。「え~い、ままよ」ということで足を伸ばすことにした。まあ車だと城ケ崎から下田までは40分くらいではあるのだけど。上原美術館のHPだと、最寄り駅は伊豆急の下田ということになる。その手前の稲梓や蓮台寺の方が距離的には近いらしいのだが、そこからまたバスかタクシーということになる。しかし電車で東京からだと下田まで新幹線、伊豆急利用で5610円。下田からタクシーで約3500円くらいかかるらしいので、まあ車がないと基本行くのは難しいところでもある。 

 実際、車で来てみると、なんていうのか「ぽつんと美術館」という感じである。

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上原美術館 伊豆下田の近代絵画・仏像美術館

 前回も谷崎純一郎に触発された陰翳礼賛というテーマのユニークな企画展を行っていたが、今回はポスターにあるとおりに鏑木清方の画帖「築地川の世界」を中心とした企画展に一室をあてていた。まあこじんまりとした企画展なので特に図録等はないのだが、手製ホッチキス止め24頁の小冊子的な図録が無料配布されていて、これが本当によく出来ていて有難かった。こんな感じである。

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 『築地川』は全部展示されていなくて半分ずつで前期展示、後期展示となっている。これがちょっと残念かなとも思った。関東からだと両方行くのは至難な部分もある。まあ伊豆に別荘でもあるようなお金持ちだったら頻繁に来れるのだろうけれど。

 前回も触れたがこの美術館がこの地に出来たのは、永平寺から仏像130体を引き取って欲しいという依頼を受けた大正製薬上原正吉、小枝夫妻が、まず仏像を安置するお堂を建立したところから始まる。さらにその仏像を一般公開する施設を作るということで、小枝夫人の生家があった下田の地に美術館が創設されたということらしい。そして跡を継いだ息子の上原昭二氏が蒐集していた近代絵画を中心としたコレクションが寄付され、近代館が作られたという。

 もともと仏像安置施設等については小枝夫人が積極的だったこともあり、下田という土地になったのだろうけど、正吉氏自身は埼玉県児玉郡出身の人である。埼玉に美術館作ってくれていればな~とは、埼玉県民の適当な思いであるけれど、これはまた別の話だ。

 話を鏑木清方に戻そう。「築地川」は画帖である。これは鏑木清方が主唱した手元で鑑賞し楽しむためのもので、清方はこれを「卓上芸術」と名付けていたという。

展覧会などで仰いで見る「会場芸術」(展覧会芸術)や掛け軸などの「床の間芸術」と異なり、手にとって俯いて絵を細かく味わう巻子や画帖、版画などを「卓上芸術」という。大正の一時期、鏑木清方が名付け主唱した。清方の『註文帳』や『にごりえ』がその典型的な例として挙げられる。

卓上芸術 - Wikipedia

 美しい写生画と詞書からなっていのだが、これはまさしくプライベートで楽しむまさに卓上芸術そのものという感じがする。ページをめくるとこんな感じである。

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明石町

[詞書]
外国人の居留地で佃の入江に面し

青草の堤の外は海波ただちに

安房上総の岸につらなる

涼しい海風のわたるところ紅毛

碧眼の子供たちいつも嘻々として

遊び戯れてゐた

 

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亀井橋

[詞書]

亀井橋は今ある位置に変わりは

ないが画中に見える合引橋

新富町の河岸は三吉橋が架

設されて後全く旧観をとゞめぬ

 画帖の他には美術館所蔵の清方作品も多数展示されている。一番気に入ったのはこの作品。

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恵方詣』(鏑木清方

 この企画展の奥の2室は常設展示で、1室にはルノワールシニャックマティスらの比較的小品が展示されている。もう1室には近代日本の洋画、日本画があり、いずれも落ち着いた雰囲気の中で楽しむことができた。

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マチス2作

 

 そして近代館の隣仏教館には常設展示されている仏像130体が壮観である。さらに別室には特別展として「静岡の仏像+伊豆の仏像」展が開催されていた。

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 美術館のすぐ上には達磨大師堂もあり、美術館と寺社巡りでゆうに半日はのんびりと過ごせる場所だ。美術館の環境、展示品、展示構成などはすばらしいものがあり、何度でも足を運びたいとは思っている。これは多分前回もそう思ったのだが、いかんせん下田は遠いので、伊豆旅行に来た折りにということになってしまうかとは思うけど。