高崎市タワー美術館「日本画ベストコレクション」展 10月21日

 木曜日、高崎駅前にある高崎市タワー美術館に行って来た。ここに行くのは今年になって3回目。日本画の良いコレクションがあり、企画展も充実している。車だと埼玉から1時間弱で着くので、都内に出るのと同じくらいということもある。

 しかし高崎には東口にこのタワー美術館、西口には高崎市美術館と駅の東西至近の場所に公立美術館がある。さらに郊外に群馬県立近代美術館もある。都道府県魅力度ランキングで44位となり、県知事が激怒しているらしいが、どうしてどうしてなかなか文化度高いとランキング45位の埼玉県民は思ってみたりもする。

日本画ベストセレクション/高崎市タワー美術館 | 高崎市

 今回の企画展で知ったことだが、この高崎市タワー美術館は独自の収蔵品とは別にヤマタネグループから寄託された多数のコレクションがあるという。ヤマタネグループとは山種美術館ヤマタネである。創業者の山崎種二は個人で日本画を多数収集し、これを基に山種美術館を開設したが、美術館とは別に会社に作品を残しその拡充を行ってきた。その会社所有のコレクションは各種展覧会に貸し出されるほか、「ヤマタネグループコレクション」として各地の美術館で一括して公開されている。

 さらに高崎市タワー美術館には、山崎種二が群馬県高崎の出身のため、作品の寄託や展覧会の出品という形で協力されているという。高崎市タワー美術館の豊富なコレクションはこのヤマタネグループコレクションに支えられているということのようだ。

 やはり都道府県や自治体にとって、持つべきものは金満家の出身者ということになる。埼玉県には残念ながらそういう人があまりいないようだ。大正製薬上原正吉は埼玉出身だったが、その仏教美術コレクションを展示する上原美術館は妻の出身地である静岡県下田市になってしまった。出来れば出身の杉戸に別館でも作ってくれれば良かったのにとか思ったりもする。まあこれは別の話だ。 

 話を戻そう。今回の企画展は開館20周年を記念して、これまでの展覧会のポスターに使用した名品を一堂に展示するというもの。一部が「ポスターになった名品たち」、二部が「珠玉の日本画コレクション」となっていて、一部に32点、二部に17点の49点が展示されている。そのうちの約半数の26点がヤマタネの寄託品となっている。

 気に入った作品を幾つか。

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『梧桐ニ小禽』(菱田春草) ヤマタネグループ寄託

 美しい絵である。菱田春草の画力の妙というところだろうか。ややもすると平面的な梧桐(アオギリ)の表現と、小さいながら立体的な小鳥の表現の対比みたいな部分だろうか。無線描法を意識してか、幹にかかる葉の表現にはなんとなく苦労の跡があるような気もする。まず最初に展示してあるのがこの作品。

 

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『春の野図』(上村松園) ヤマタネグループ

 安定の上村松園である。美人画と自然描写の違いはあれど、春草作品と比べてみると日本画にとって線描がいかに重要か、あるいは日本画=線描表現といっても過言ではないということがなんとなくわかる。だからこそ春草や大観は無線描法にチャレンジしたということなんだろうか。

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『卵』(川端龍子) ヤマタネグループ

 一瞬、小倉遊亀かと思った。会場芸術の川端龍子がこんな親密というか、家庭的な絵を描いているのかというちょっとした驚き。生みたての卵ももっている女の子。その周りのの雄鶏三羽、「返せよ、オラ」と吹き出しをつけたくなるような絵だ。

 

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『暁雲』(東山魁夷)  ヤマタネグループ

 東山魁夷は本当に画力がある。写実的な細密描写、写真のような感じだが、実はそうではない。自然のもつ象徴性、神秘性を感じさせる。今回の展示作品の中で自分的にはベスト2的作品。

 

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『雪国』(牧進)  ヤマタネグループ

 今回、個人的には一番気に入った作品。

 牧進は1936年生まれで存命の画家である。16歳で川端龍子内弟子として入門し、厳しい指導を受けて研鑽を積んだ。1946年に川端康成の知遇を得て日本の四季をテーマに定め、作品発表を個展を中心にして現在に至る。ふたりの川端の影響を受け画業を続けてきた人。

 この作品は川端康成の小説に寄せて花を描いた30点のひとつで、『雪国』を題材として、主人公島村が目にした萱の群生を描いている。雪のように舞っているのは金泥で繊細に描かれた萱の花穂。