東京国立近代美術館~MOMATコレクション

 新型コロナウイルスの感染拡大で週明けにも緊急事態宣言の東京での延長、神奈川、千葉、埼玉、大阪への発出などかなり厳しい状況になっている。美術館、博物館もこの先また休館になる可能性もでてくるかもしれない。美術館は大型企画展でもない限り、人出は少なく密になることも少ないのだけど、国立、公立の施設が多いためか、割とシンボリックに休館にされることが多い。そんなことを考えて、とりあえず開いているうちに行けるとこ行った方がいいかと思い、急遽竹橋の近代美術館に行くことにした。

 国立近代美術館では大型企画展として隈研吾展をやっている。隈研吾は今日本の建築界のチャンピオン的存在だし、建築系の学生さんを中心にかなりの人出が出ているらしいのだが、自分は多分建築関係はあまり興味もないので、こちらについてはパスする。実際行ってみると、こちらの方はけっこう人が入っている。

 自分の興味はというと常設展MOMATコレクションだ。現在は「特別編ニッポンの名作130年」が開かれていて、重要文化財を含めてけっこう蔵出し的に主要な名作、名品が展示されている。すでに2回観に行っているのだが、7月20日から後期展示になっていて、4Fハイライトの展示も変わっているのでぜひ観ておきたいと思っていた。

MOMAT コレクション | 東京国立近代美術館

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  前期展示のハイライトは土田麦僊『湯女』や速水御舟小林古径などであったが、後期展示は狩野芳崖、下村観山、安田靫彦である。この三人の作品はちょっと感動的でさえある。

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『仁王捉鬼図』(狩野芳崖

 最後の狩野派といわれる狩野芳崖の作品。芳崖はフェノロサのサポートにより、西洋絵画の構図、色彩等を日本画に取り入れていったという。この絵も仁王の顔や姿の描き方、また色遣いになんとなくポップなものを感じてしまう。

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『木の間の秋』(下村観山)

 もう何度も観ている大好きな作品。いつもは10室日本画の間で観ることが多いが、多分ハイライトでも観たことがあるかもしれない。西洋の写実性と琳派の装飾性を融合させた作品といわれている。最初、観た感じでは「秋」というのがちょっとぴんとこない部分もあるにはあった。樹木の色の濃淡で遠近感を出しているところ、金の地が木の間に差し込む陽の光のような効果をあげているところなどが西洋絵画的といわれているようだ。さらにいえば葉脈まで細かく描かれた蔓や葉、ススキなどの表現が装飾的と解説されるのだが、このへんの細密な写実性も西洋的といえなくもない。

 そういう意味では、この絵は西洋画と琳派的な日本画の融合というよりも、屏風画という日本画的なベースと岩絵の具によって描かれた西洋画といってもいいのかもしれない。しかも単なる模倣ではなくきちんと日本画の表現に溶け込ませている。最初に観たときに感じたのは、この絵はいわゆる日本画ではないという直感だった。それが自分をこの絵に惹きつけるところなのかなと思ったりしている。

 

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『黄瀬川の陣』(安田靫彦

 1180年に兄源頼朝の挙兵を聞き、奥州平泉から義経も腹心を従えて、駿府の黄瀬川宿に出陣中の頼朝のもとに馳せ参じ、20年ぶりの兄弟対面を果たすという、『吾妻鏡』に記された劇的な再開の場面を描いた作品。左隻の義経と右隻の頼朝とが静と動の対比を見せつつ呼応し合って、簡潔でありながら、緊密な場面構成を見せる。さわやかで華麗な色彩と余白が効果的に生かされ、院展で活躍した靫彦の格調高い、清澄な歴史画の代表作の一つ

東京国立近代美術館所蔵名品選 20世紀の美術』P257 

  さらによくいわれることだが、左隻の義経、右隻の頼朝の視線が緊張感を高め、その後の悲劇を暗示しているとされる。兄に追われ奥州で果てる義経の最期という悲劇を暗示するかどうかは微妙であるが、画面全体からキリキリするような緊張感は伝わってくる。歴史を題材にしながら、その描線で写実性だけでなく主観的表現を描いたというのはよく理解できる。

 さらにいうとよくこの絵の解説の中で、左隻と右隻の間の動と静、陰と陽などの対比が指摘されることが多い。すべてがその後の兄弟の争いと義経の悲劇という文脈で語られるのだが、そのへんについてはどうもこじつけの類のような気がしないでもない。例えばだが、頼朝のこの表情、雰囲気の中に明るい未来を自分は感じないのだが、どうだろうか。

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 以前、テレビ番組の中であの林先生がこの絵のことを取り上げていて、一番好きな日本画だと語っていた。数ある絵の中からこの作品をチョイスするところに林先生のある種の非凡さみたいなものを感じたことがあった。

 ハイライトの裏側は横山大観の大作『生々流転』の後編。全長40メートルという壮大な絵巻の久々の展示ということで、前期展示、後期展示の二回に分けての展示ということらしい。以前、MOMATで行われた大観の回顧展ではこの大作を一挙展示してあったが、あれは1階奥の細長い回廊があってこそだとは思うが、一気に観れたのはある種感動だったかもしれない。

 

 3階10室の日本画の間は前期は横山大観竹内栖鳳東山魁夷の三人にスポットを当てていて、特に東山魁夷の作品が多数展示してあった。後期展示は東山魁夷加山又造の作品をメインにしていた。とくにメインの10室は加山作品だけになっていて、これはちょっと壮観だった。

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『春秋波濤』(加山又造

 加山又造の代表作といえる作品で、大阪天野山・金剛寺所蔵『日月山水図屏風』に着想を得た作品といわれている。渦巻く波と月光がまるでCGで描いた小宇宙のような雰囲気をもらたしている。

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千羽鶴』(加山又造

 六曲一双の大作。この絵を最初に観たのは多分4階のハイライトだったと思うが、えらいインパクトがあった。そして大好きになった作品だ。奇想というか、なんていうのだろう、美術館、展覧会という場で人を惹きつける大作という意味では、会場芸術というのはこういう作品ではないかとそんなことを思ったりもする。

 

 今回のMOMATはハイライトの芳崖、観山、靫彦、そして10室の加山又造と充分に満足がいく作品群を観ることができた。願わくば、緊急事態宣言下でも美術館が休館することなく続いてくれればいいと思う。さらにいえば、コロナの終息後、マスクなしでのんびりと鑑賞できる日が早く来ることを望んでいる。