花村えい子と漫画ー画業60年のかわいい伝説

 昨日は妻のデイサービスがお休みの日。ずっと雨だったので出かけるつもりはなかったのだが、妻のお出かけ要求に抗しきれず一番近い美術館、川越市立美術館に行くことにした。

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花村えい子と漫画 - 画業60年のかわいい伝説

 特に少女漫画のファンということもないのだが、ちょっとだけ気になっていた企画展。我々の世代からすると、花村えい子の名前は知らなくてもこの絵には絶対に見覚えがある。いわゆる大きな目とその中でキラキラ光る星、人物の周囲の花々、この少女漫画独特の人物像を作ったパイオニアの人だ。

 川越の商家の出身で、いわゆるご当地の漫画家ということでこの企画展が生まれたようだ。もともとは昨年開催予定だったのだが、コロナの関係で順延となり、そうこうしているうちに昨年暮れに花村えい子本人が91歳で亡くなられてしまった。そこで今回改めて開催が決まったというような経緯があるみたいなことを何かで読んだ覚えがある。

花村えい子 - Wikipedia

 しかし1929年生まれ、画業60年。まちがいなく手塚治虫赤塚不二夫らと同じく日本の漫画の黄金期を支えたレジェンドの一人だ。漫画だけでなくそのカワイイ少女キャラクターは、イラストや様々な商品に使われた。小学生の学習ノートや自由帳では一度はお目にかかったのではないか。

 その時代の漫画家同様にキャリアは貸本漫画から始まっている。少年誌、少女誌は60年代の中期に始まっている。彼女の少女雑誌でのデビューは1968年、「週刊少女フレンド」での『霧のなかの少女』。1929年生まれの彼女は39歳、週刊誌デビューとしては遅まきになるのかもしれない。ほぼ同時期に連載が開始された『ナナとリリ』の里中満智子は当時20歳。同時期に一世を風靡したが実に20歳近い歳の差があったことになる。

 少女漫画のファンではないと最初に述べたが、小学生の高学年から中学生くらいの時期には実はけっこう読んでいた。当時は少年誌の「少年サンデー」「少年マガジン」と同じように「少女フレンド」や「マーガレット」を読んでいた。まあたいていは本屋で立ち読みでだったと思う。当時はけっこうおおらかな書店が多く、長く立ち読みしていても怒られたりすることはなかった。もちろん少年誌の方は必ず買っていたから大目にみてもらえたのだと思う。

 個人的には里中満智子のファンだったように思う。あの絵柄は好きで、自分の女性観を構成するうえでけっこうな影響があった。それに対して花村えい子はというと、ちょっと「カワイイ」が過ぎる部分があってどちらかというと苦手だったかもしれない。おそらく里中満智子のほうがオーソドックスだったのでは。

 それに対して花村えい子の表現は大コマを多様したり、ぶち抜きでの全身イラストがあったりと、けっこう前衛っぽいところがあったように思う。展示の中で彼女のパイオニアである点についていくつかパネルで解説がある。

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 でかい瞳とその中でキラキラ光る複数の星、長い上まつげだけでなく下まつげも細かく描いたこと。

 

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 全身イラストを描き、ファッションを楽しめるようにした。このカット割、レイアウトは多分のちの少女ファッション誌にけっこう影響を与えたのではないか。

 

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 髪の毛をカラフルに描いたこと。これも当時としては先駆的だったのだと思う。今でこそカラーリングは普通だけど、当時ではこれリアルな日常ではありえないことだったとは思う。もっとも彼女の作品世界は無国籍な部分もあったから、これがカワイイ、オシャレということで受け入れられたのだと思う。まあリアルだったら完全に不良少女である。

 

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 講談社集英社での同時連載。これは自分の記憶では手塚治虫赤塚不二夫だけだったと思う。少女漫画の世界でも花村えい子の他にいるのかどうか。まあそれくらい売れっ子だったのだろうと思う。

 

 60年代に少女漫画の世界で一時代を築いた彼女は70年代、劇画など等身大的な姿で描かれる漫画=コミックが主流になると同時に画風を変える。いわゆるレディースコミック風の絵柄である。この部分でも花村えい子はパイオニアだったのかもしれない。

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 とくに少女漫画ファンではなかった自分のようなジイさんでも、彼女の絵にはなんとも懐かしさを覚える。なので自分と同世代の女性だったら、この企画展にはより感情移入できるのではないかと思う。

 彼女のカワイイキャラクター群を見ていると、同じ空気を吸って育った世代としては様々な記憶とともに感慨深い思いに浸ることができる。この小さな企画展はそんな懐かしい時間だった。

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