映画『わたしに会うまでの1600キロ』オフィシャルサイト| 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント
わたしに会うまでの1600キロ - Wikipedia
「ダラス・バイヤーズクラブ」が面白かったので、監督ジャン=マルク・ヴァレの他の作品を調べていたら、「ダラス〜」(2013)の翌年にリース・ウィザースプーン主演で撮った本作があるという。そういえば女性がヒッチハイクして歩くみたいな映画の予告編を観たことがあったのを思いだし、TSUTAYAでDVDを借りてきた。
面白かった。リース・ウィザースプーンの圧倒的な演技力とさらに圧倒的な美しい自然が、それがある意味全ての映画である。最愛の母親の病死とともに心のバランスを失い転落する主人公は浮気やドラッグと自堕落な生活に陥り、夫からも離婚を突きつけられる。人生をリセットするために彼女が選んだのが過酷な長期間の徒歩旅行。砂漠や森林、険しい山の峰など含むコースを進めながら、徐々に自分を取り戻し、成長していくそういう話である。
ストーリーは実際に過酷な徒歩旅行を行ったシェリル・ストレイドという女性の自叙伝で、かなり本も話題になったようだ。制作にも関わっているリース・ウィザースプーンがおそらくこの原作に惚れ込み、自らの主演で映画を企画したのかもしれない。
自暴自棄となった女性がロングトレイルを敢行することで自分探しをする。まあこじらせ女子の過酷な徒歩旅行譚というところか。その徒歩旅行のコースがどういうものかというと、映画の中でPCTと単語が何度も出てくるのだが、正確にはパシフィック・クレスト・トレイルという。どんなものかというとまあ端的に地図で見てみるのが一番。
この赤い線がコースというか路線というか。はっきりいってアホみたい。長距離自然歩道というが、これメキシコからカナダまでの砂漠と山のどっちかだけの道程である。狂気の沙汰ではない。映画の中でもガラガラ蛇に遭遇するシーンも出てくる。原作では野生のクマを見かけるというエピソードもあるらしい。ほとんどが山岳地帯か砂漠のどちらかの過酷な道程に、ウィキペディアによれば毎年300人くらいの人がこのコースにチャレンジするのだとか。
コースのあちこちにノートが置いてあり、ハイキングしている者は記録を残していく。女性のハイカー滅多にいないのだが、主人公は数ヶ月の間に女性でチャレンジしている猛者として、レジェンド化していったりする。
過酷な徒歩旅行自体が映画のテーマとしては面白い。そこに主人公のこれまでの生活、最愛の母親とのやりとり、母親を失った後の自堕落な生活がカットバックされていく。それ自体はなんとなく凡庸なよくありがちな、ドラッグとセックスに逃避するみたいな風で、なんとなくどうでもいいようにも見えるが、過酷な徒歩旅行や美しい自然との対比の中で、徐々にそうした堕落した行為が浄化されていくようにも見える。
最初にも書いたがリース・ウィンザースプーンの演技は圧倒的だ。彼女はすでにオスカー主演女優賞を得ているが、この映画でもノミネートされている。二度目の受賞があっても良かったかなとさえ思う。母親役を演じたローラ・ダーンもこの映画での助演女優賞にノミネートされているが、ダブル受賞であっても良いかなとさえ思える演技だったと思う。
この人といえば「ジュラシック・パーク」の恐竜博士役が有名。長身、痩せ型、美人じゃないけど、よくいるタイプの若い頃からおばさん顔の名女優だ。自分などには西部劇の名脇役、小悪党役のブルース・ダーンの娘という印象もある。この映画でも老け顔でリース・ウィザースプーンの母親役やっているのだが、実はまだ50歳だという。
この映画、単なるこじらせ女子の過酷ヒッチハイク話、ただそれだけといってしまえばそれまでなんだが、それをきっちりダレることなく画面に釘付けしてしまうのは、ひとえに役者陣の演技力。その演技力を雄大な自然とともに描き切った監督の確かな演出力ということになるんだろうとは思う。確かにそういう映画として深夜一人で寝ることもなく観た。
この映画で描かれるパシフィック・クレスト・トレイルは西海岸沿いの長距離自然遊歩道なのだが、アメリカにはこの他に中央を縦断するコンチネンタル・ディヴァイド・トレイル、東部のアパラチアン・トレイルとそれぞれアメリカ大陸を北から南に縦断するコースがあるのだとか。それぞれ毎年踏破にチャレンジする者が多数いるというのが、アメリカ人の自然好き、開拓精神の継承みたいなものなのかと思ったりもする。