花とアリス

花とアリス

花とアリス

  • 発売日: 2014/06/20
  • メディア: Prime Video
 

以前、BSでやっていたのを録画していたもの。けっこう好きな映画の一つでもう何度も観返している。大人でも子どもでもない少女たちの微妙な心と行動の機微をときにユーモラスにきちんと描いている。青春時代を描いた良質な小説、映画がたいていそうであるように、この映画では男と女は寝ないし、誰も死なない。観る者を簡単にカタルシスに誘うものは何もない。あるのは生きることに不器用な少女たちのたんたんとした姿だ。

 ストーリーはやや荒唐無稽。恋した先輩を記憶喪失と誤解させまんまとその彼女になりすまそうとする積極的な少女花。花と先輩の恋愛劇に巻き込まれていく親友のアリス。天真爛漫なアリスとそれに追随するやや奥手の花がときに取る稚拙で大胆な行動。先輩はその間で右往左往していく。

 二人ともそれぞれに複雑なものを抱えているが、二人でいる時、学校やバレイスクールにいる時は明るく、それぞれの影の部分が出ないようにしている。花は子ども時代引きこもりをしていた時期があり、彼女に手を差し伸べたのがアリスであることが友人の口から語られる。アリスの父母は離婚していて、母親と同居しているが母親は家事を放棄して男友達と遊びまわっている。

 花を演じる鈴木杏も朴訥した雰囲気、内向的な性格と奇妙な積極性という二面性を自然体で演じ切っている。そしてなにより素晴らしいのがアリス役の蒼井優だ。外では天真爛漫、奔放でいるが、時に複雑な家庭環境にいることの陰りの部分をちょっとした表情の中にのぞかせている。

 当時15~16歳だったということだが、鈴木杏がどちらかというと素の演技であるとすれば、蒼井優はすでに女優として作為的な演技、表情を獲得しているような印象もある。とにかくシーンによって様々な表情を見せてくれる。鈴木杏蒼井優の二人はいずれも子役からの長いキャリアがあるようだが、特に蒼井優はローティーンでありながらすでに女優として素地が確立しているようにも感じられた。

 雨の中での二人のやりとり、花がアリスに先輩を記憶喪失と勘違いさせて彼女になりすましたことを告白するシーンは圧巻。あえて長回しで二人に自由に演技させたものだという話を聞いたことがあるが、ぎこちなさと計算ずくではない二人のアドリブ的演技はけっこう映画史に残るかもしれないと適当に思っている。


花とアリス 雨のシーン