「星の子」を観る

 Amazonプライムで観た。

 安倍元首相暗殺事件の犯人が旧統一教会の信者二世で、妄信する母親が家財を教会に注ぎ込んだことで困窮し、旧統一教会と近い政治家として安倍氏をターゲットにしたということで、旧統一教会を巡る政治と宗教問題が日々報道され続けている。

 そしてこの映画がカルト宗教の信者二世を題材にしているということで、なんとなく観てみたいと思っていた。そして検索すると簡単に出てきた。便利な時代でもある。

芦田愛菜主演、映画『星の子』公式サイト 先行デジタル配信中

星の子 - Wikipedia

 生まれたばかりの子ども(ちひろ)が病弱で、皮膚が赤く爛れているのを治したいために、「あやしい宗教」に取り込まれていく父と母。勧められた「水」を子どもに塗り込めると爛れた皮膚が治癒していく。それは偶然だったのかもしれないが、父と母は宗教にのめり込み、日常生活の中でも宗教団体から大量に購入した「水」をひたしたタオルを頭に載せて生活をしている。

 病弱だったちひろは父母の愛情を受けてすくすくと育つ。5歳上の姉は、宗教を嫌がり家出している。ちひろは学校でも普通に生活し、友だちもいる。同じ宗教の信者の二世同士としての友だちもいる。宗教に取り込まれたちょっとへんな父母を受け入れて生活している。しかしじょじょに父母を巡る宗教の「変さ」と宗教の外の日常とのギャップに思い悩んでいく。

 よくできた話だ。特に子どもたちの演技が自然でいい。大人たちの人物設定、演技がなんとなく類型化されているのはかなり意図的な演出のせいだろうか。そして芦田愛菜は等身大の中学三年生の役柄を自然に演じている。でもその自然さもまた、この天才子役から女優に成長し始めているこの子にとっては演技の一環なのかもしれない。本当に恐るべき子どもである。

 ふだんCM等でみせる彼女の表情も子どもであったり、ティーンエイジャーの生き生きとしたものであったり、時折女の表情を垣間見せたり。この子はあと数年すると本当に凄い女優になるかもしれないなと思ったりもする。

 普通14~15歳の子どもを出演させた映画、ドラマであると、どことなく素の部分が出たりもする。生硬な演技とは異なる部分が出る。それがある意味、その年代の子どもたちのまだ生きることへの不得手な部分と一緒になっていて、うまくはまるとそれは秀逸な青春ものになる。かって相米信二はローティーンの薬師丸ひろ子と鶴見慎吾に長回しの演技を要求して、まだ生きるのが不得手な少女と少年の物語を見事に描いたように記憶している。

 しかし芦田愛菜にはそういう不得手な部分がない。彼女が少女の揺れる心、様々な不安と子どもなりの心理的合理化、そういう部分もきちんと演じきっている。彼女には素の部分がないような気がする。天才子役はカメラの前ですぐに役に入り込み、演じきれる。そんな気がする。

 彼女の等身大は演技力によるそれのような気がしないでもない。

 この映画のもつカルト宗教の二世の問題。それは今喧伝される旧統一教会だけの問題ではない。世間には様々な一見怪しげな、あるいはすでに大教団となり社会的に認知される宗教もある。しかしいずれにしろ、妄信する親とそこに違和感を感じ始める子どもとの問題はでてくる。この映画はラスト、相変わらず信仰にすべてを捧げる親と違和感を感じつつも父と母の愛情を受け入れる子の三人が揃って星を見るところで終わる。そこには何の解決もない。ただし、親の見る夜空と子の見る夜空が違っている、そこにズレが生じていることを暗示させて終わる。