チアダン

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 これもTSUTAYAで借りてきたDVDで観た。美少女がたくさん出る青春映画という意味ではとても面白かった。広瀬すず主演映画という意味では「ちはやゆふる」の路線でもある。ガールズ&ボーイズが集団でアートするという意味では多分「スィング・ガールズ」の延長上なのかもしれない。その意味でもけっこう楽しく観れた。以下、断片的な感想。
 広瀬すずは突出した才能ある正統派美人女優だ。とにかく華がある。彼女がスクリーンの真ん中にいるだけで空気が変わる。そういう意味でも傑出した存在。この映画はある意味、彼女をいかに素晴らしく、美しい存在として描ききるか、ただそれだけを前提にした映画だ。なので、脇を固めるそれなりに可愛い美少女たちも、豪華な脇役陣もまあある意味、刺身のつまみたいなものかもしれない。とにかく広瀬すずは美しい。スクリーンに映える。近年稀に見る逸材といえる。
 とはいえ、だからこそあえていえば、売れっ子タレントの彼女を使って、チアダンスを題材にした映画を作りました、どうですかということになると、なんか違うのではないかと思う部分もある。
 第一に思うのは、この映画はただただ広瀬すずを美しく撮るというだけの映画なのか。それともチアダンスという高校生の部活としては大変華があるが、ある意味とても過酷な部活のシビアさを描きだす、そういう類の青春映画なのかということが、なんとなく未分化なままだということ。
 実際、この映画を観ていていて、チアダンスのハードな部分が今ひとつ伝わらない。なぜか、出演者が懸命にダンスを練習し、スクリーン上でそれを表出する部分があまりにも少ないからだ。例えば最後の全米チアダンス選手権と演技、それまでセンターを努めていた中条あやみから広瀬すずに交代して迎える最後の演技。このシーンがかくも見事にぶつ切りのカット割なのである。
 ダンスナンバーでは演者の演技を見せるため、出来るだけカット割を少なくする。これはMGMミュージカルなんかの鉄則だったのではないか。アステアもケリーも見事にその大任を担い、スクリーン上で圧倒的なパフォーマンスを見せた。
 逆にパフォーマンスに自身がない演者の場合はどうか、うまく踊れた部分をカットでつなぎ合わせて、さも見事に演じきったように見せる。これもまたスクリーン・プロセスの一つではある。忙しい大スターが充分なリハーサルを取れない時にこうしたことが行われる。これがこの映画には三件している。まあいい、演者のパフォーマンスが誰か別の人の吹き替えには多分なっていないのだから。とはいえ、きちんとしたリハーサルを経た上で、ラストのダンスシーンはカメラを据えっぱなしのワンシーン・ワンショットでやって欲しかった。
 そういう意味では実は主演は広瀬すずである必要はなかったのかもしれない。美人でダンスが得意な、そうだな土屋太鳳あたりを持って来ればよかったかもしれない。彼女なら5分程度のダンス・シーンであれば難なくワンカットでやり遂げたかもしれない。さらにいえば共演者たちももう少しダンスが得意な人を用意しても良かったかもしれない。いるでしょう、そういうダンスユニット系のアイドルさんたち。
 そうすれば最後の全米選手権での演技もカメラの長回しで、彼女たちのダンスを思いきり見せることができたかもしれない。この映画は実はそういうタイプの映画なんじゃないかと思うのだ。そんなことを考えていると、同じようなダンスをメインにした映画ということで「フラガール」を思い出したりもする。あのラストでのダンスシーンは圧巻だった。蒼井優という女優の実力とともに、相当な時間をかけて努力練習し、あのシーンをやり遂げたのだということが明確にわかり感動的でさえあった。この女優は本物だなという思いを抱いたものだ。
 広瀬すず蒼井優を比べてはいけないのだとは思う。広瀬すずは正統派美人女優であり、蒼井優は個性的な女優。正反対のタイプ何だろうとは思う。さらにいえば売れっ子の広瀬すずにはこの映画のために、ダンスシーンをやりきるための練習時間がなかったのではないかと思う。しっかりととした練習のためにスケジュールを開けさせる、それはそのまま出演料や制作費に直結するだろう。とにかく今、一番売れっ子の若手女優なのだから。
 広瀬すずがきちんとこの映画のために、チアダンスをやりきる、見せるために必要な時間が確保されていたら、多分彼女はやりきったかもしれない。でも、制作側も彼女も彼女のスタッフも、この映画をそんな風に位置付けてはいなかったのだろう。単なるプログラム・ピクチャーのような、お気軽なアイドル映画という風に考えていたのだろう。
 そういう意味では、実話を元にしているというが、結構お気軽なストーリー、人物設定である。広瀬すずの彼氏的なイケメンサッカー部員も今ひとつである。別に無理やり恋とダンスと青春とみたいな方向に持っていかなくてもいいのではないかと思う。さらにいえば部活の顧問で鬼コーチぶりを見せる天海祐希も実は今ひとつというか、キャラが立っていない。なぜスパルタでチアダンスを教えるのか、その動機が生徒たちに目的を持って何かをやり遂げさせることが必要だ、みたいな紋切り型なものでは陳腐感がぷーんとなる。もっと何か別のものがあってもいいのではないのか。
 それを思うとまた比較してしまうのは「フラガール」のコーチ役松雪泰子との違いというか。松雪は訳あり、過去あり、みたいな感じの漂わせ方が半端なかった。それを思うと天海祐希はこの映画では本当に損している。彼女の実力ならチアダンスも難なくこなせるだろう。そういうシークエンスがあっても良かったのではないかとも。
 まあ、いろいろと文句をつけているが、それではこの映画気に入らないのか、駄作と断ずるのかというと、いやこれがまた実はけっこう気に入っていたりもする。広瀬すずは魅力的だし、共演の他の女の子たちも可愛いし、お手軽青春映画としては割と良くできているかもしれないと思ったりもする。何より青春映画の王道として「誰も死なないし、男と女が寝ない」。そういうものだ。