午後、妻が定期的に通院している病院の脳神経内へ。10月の終わりにMRIをとっているので、その結果についての説明も受ける。
脳の状態は別段変わりはなく、問題はないということらしい。
妻の梗塞巣の状態についてちょっとだけ聞いてみることにした。
妻の脳梗塞は右の側頭部と前頭葉に広範囲にある。緊急入院したときの最初の医師からの説明でも、梗塞巣が大きいので助かった場合でも大きな障害が残る。助かってもたぶん寝たきり状態、うまくすれば車椅子と言われてショックを受けたのを覚えている。
急性期リハビリのための病院探しで、所沢の国リハに行ったときにも持参したCTの写真を見た医師は言った言葉を覚えている。
「大丈夫かな、脳梗塞は落ち着いているのかな。すごく大きな脳梗塞だ。重症だよこれは。そんなに早く動かしてもいいのかな」
入院している病院の医師から早く転院先を探すように言われていると話すと、脳外の先生はみんなそう言うんだと直截に話してくれた。そのうえで集中してリハビリをやった方がいいということで受け入れてくれた。結果としてそれが一番いい選択だったし、たぶんもっとも良い専門病院でリハビリをしたおかげで、妻は驚くほどの回復をみせた。
当初言われた、寝たきりかよくて車椅子からすると驚くほどの改善をみせた。基本的には車椅子生活だが、つたい歩きで短い距離を歩くこともできるようになったし、片手だけで器用に衣服の脱ぎ着もできるようになった。
最低限のことは自分でできるということで、自分は介助、当時小学低学年の子どもの面倒をみながら、なんとか仕事も続けることができた。
妻の広範囲に及ぶ脳梗塞巣、CTやMRIの結果を何度も見せてもらっているので、状態についてはわかる。正常な左に比べると真っ黒な状態で写っている。この梗塞巣は今どうなっているのかについて、なんとなく知りたいと思った。何かで読んだ知識だが、別の脳神経細胞が派生してきて、代替的に役割を果たすなんて話も聞いたことがあった。
医師の説明は直截なものだった。
「死んだ脳細胞は再生することはありません。みんな壊死してすぐに溶けだしてしまいます。梗塞巣のあったところは空洞で髄液があるだけです」
なるほど空洞化。そんな状態でいて問題はないのだろうか。今のように一応、話したり、右手を動かしたしていることに影響はないのだろうか。
「奥さんの脳梗塞は非常に大きいです。なので今のような状態でいるのは奇蹟に近いです。話したり、右手でいろいろできるのは、正常な左側の機能がとても頑張っているからだと思います」
医師は、定期的に検査をして経過観察していきましょうと言った。数か月前には状態は固定されているので、近隣の脳外科か神経内科の医院に通院することを勧めてきたりもしていたのだが。
今の妻の状態は、左側がものすごく頑張っているから。そういうことなのか。
しかし右脳と前頭葉に大きな損傷を受け、梗塞巣は壊死し溶けて空洞になっている状態。素人的にいえばそんな状態で大丈夫なのかと思ったりもした。
脳梗塞患者の平均余命についてネットで調べるといくつかそういうサイトが見つかる。
脳梗塞の平均余命
50代男性では脳梗塞発症者は平均余命が8年短くなっている。
脳梗塞を発症した50歳男性 20.9年
日本人の標準的な50歳男性 28.9年
50代女性では脳梗塞発症者は平均余命が4.2年短くなっている。
脳梗塞を発症した50歳女性 30.8年
日本人の標準的な50歳女性 35.0年
また別のサイトではこんなデータもある。
脳梗塞発症年代が50代で障害等級別にみた平均余命は以下のようになるらしい。
3:中等度の障害があり、何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしにできる
4:中等度から重度の障害があり、歩行や食事は着脱衣など日常生活に介助が必要となる
障害等級:3の場合、男性が17年、女性が19年。
障害等級:4の場合、男性が13年、女性が14年。
妻の発症は40代なのでデータがない。そして障害等級はおそらく3と4の間くらいとなる。それからすれば平均余命は14~19年の間。発症年齢が若いのでもう少し長いのかもしれない。あくまで平均値だが。
妻が発症したのは45歳の時だった。そして11月15日。そう19年前の今日だった。システム変更があるということで残業が続いていた。仕事の後、残っていたメンバーと新人の歓迎会に途中から出席して、その場で崩れるようにして倒れたという。
自宅で子どもと二人で過ごしていた時に連絡があり、あわてて車で都内の病院に向かった。
脳梗塞患者で障害等がなければ、平均寿命よりも4~5年短いくらいは生きられる。でも障害があった場合は。でも繰り返すがこれは平均値。そして病気は、障害は、つねに個々なのであり、蓋然性の領域だ。あるかもしれないし、ないかもしれない。発症して19年、障害は固定されているが、高次脳機能障害についていえば大きく改善されてきていもいる。余命はどのくらいあるか、それは多分神のみぞ知るということだろう。
成人病オンパレードでアラ古希の自分と、2年前に還暦を迎えた障害者の妻、それぞれの余命なんて、これはもう誰にも判らない。繰り返すが病気は個々であり、人の生き死は蓋然性と神の領域でしかない。そういうものだ。
しかし脳の半分に空洞があっても日常生活を送れるというのは、なんとなくの驚きだ。