母と暮らせば

 

母と暮せば [DVD]

母と暮せば [DVD]

  • 発売日: 2016/06/15
  • メディア: DVD
 

  これもBSプライムで録画していたやつを観た。この映画も観るのは初めて。というか、多分山田洋次の映画はよっぽどのことがないと劇場では観ないしDVDとかも借りることはない。ただし友人の中に山田洋次作品が好きなのが数人いるし、まあだいたいそういう人たちは共産党系の人なんだけど、けっこう面白かったということだったので、どこかで観ておかなくてはと思っていたことはいた。なのでBSで放映するというのでチェックはしていたのだが、はてさていつ取ったものかは定かでない。

 お話は長崎で被爆死した息子が亡霊となって母に会い来る。その亡霊と老母の会話を通じて戦争によって翻弄される庶民の悲劇を浮き彫りにさせるというもの。もともとは井上ひさしの戯曲『父と暮らせば』を翻案したものらしい。井上ひさし山田洋次、ベタといってしまえばそれまでか。

 主演の吉永小百合はやっぱり名女優というか、いい味を出している。この役はキャリアのある女優さんで演技力のある人なら、誰でもけっこういい雰囲気でできるかもしれない。30年前だったら八千草薫あたりかも。

 ただし時代的には長崎の原爆から3~4年後という設定で、医学生の息子の母親ということでいえば年齢的には多分50代かと思う。2015年の作品なので吉永小百合は70歳くらいか、ちょっとしんどいかなと思う部分もないではないが、そこは映画である、そういうリアリズムはちょっといらんかとも。誰かが田中裕子あたりがやっていたらみたいなことを書いていたのを読んだことがあるが、自分などはこういうの大竹しのぶで十分でないかなどと適当に思ってみる。

 息子役の二宮和成はこの映画での演技で多くの賞をもらうなどけっこう評価されているようだが、まあ普通というか、ひょうひょうとした演技もさほど特筆したものはないようにも思う。息子の恋人役を演じた黒木華は好演している。山田洋次作品では『小さなおうち』も良かったが、多分山田洋次はこういう女優が好きなんだと思う。

 映画は亡霊として出現する息子と母親の会話をもとに進められるが、最終的には母親は病死して、息子が死の世界に誘う。母親の病気は特に病名とか症状は描かれないが、原爆病が暗示されている。と、そのラストの描かれたを観て思ったのは、息子の亡霊とは実は死神だったのではないのか。死神が息子の姿となって出現し母親を死に誘う、そういうお話なのかということ。

 まあ、これはけっこう多くの人が指摘しているので、けっして目新しい評でもなんでもないようだ。そういうことであればもっとストレートに死神の心象を描いたりしたほうが、意外と面白い映画になったかもしれない。

 これも誰かが指摘していたが、肩を寄せ合って母子が天国へと旅立つラストシーンの背景では中高年の白い衣装の合唱団が讃美歌のような歌を歌っている。けっこう不気味であれはいらないなという感想も読んだことがあるのだが、あの美しい(らしい)ラストも実は異形というか。

 死神がエスコートしてあの世に旅立つ老母、その背景で天使のような中高年が美しいコーラスを響かせる。あれがなぜ少年少女ではなく中高年かといいうと、多分あの人たちは原爆で亡くなった人たちを暗示しているからだと思う。だとすれば、最後に白い中高年の人々は反転、原爆で亡くなったときの地獄図にとって変わるという風にも見えてしまえるところが怖い。

 もう少しユーモラスあるいは悪趣味的にテンポよく作ることも可能な映画だが、それはそれ、この映画は山田洋次作品である。人情と情緒、そういうものだと思う。