http://www.asahi.com/national/update/0916/TKY200909160415.html
東京都大田区田園調布1丁目の東急東横線多摩川駅下り線ホームで13日、車いすに乗った川崎市の女性(81)が車いすごと線路に転落し、死亡していたことがわかった。同じ場所では2年前にも車いすの女性(95)が転落してけがをしたが、東急電鉄は具体的な再発防止策をとっていなかった。
同社と警視庁田園調布署によると、13日の事故は午後4時半ごろ、ホームの横浜寄りにあるエレベーター前で起きた。亡くなった女性は長女(61)に車いすを押してもらって1階改札からエレベーターに乗り、2階ホームで降りた。長女がいったん車いすから手を離し、エレベーター内のボタンを操作していたところ、車いすが動き出してそのままホームから線路上に転落。女性は頭を強打し、翌14日に亡くなった。エレベーター前からホーム端までは約5メートルにわたり緩やかな下り傾斜になっている。
ここでは07年9月、車いすの女性が介助者の手が離れた際に線路に転落し、左足を骨折した。同社によると、介助者が「車いすのストッパーをかけ忘れた」と説明したため、転落防止の対策をとらず、駅員に口頭で車いすの利用者への注意徹底を指示しただけだったという。
同社は今回の事故を受け、エレベーター前に係員を置くとともに、17日朝までにホームの端に転落防止用のさくを設ける。同社は「事態を深刻に受け止めている。再発防止を徹底したい」としている。
なんとも痛ましい事件である。それにもまして以前に同じような事件が起きているのに口頭で注意を促すだけというのが、どうにも納得できない。製造物責任法とかと同様、とりあえず注意を喚起する文言いれておけば責任回避につながる、後は利用者の自己責任でみたいな企業論理が見え見えではないかとさえ勘ぐりたくなってしまう。
もちろん駅のホームはまったく安全な場所ではないから、利用者は注意するようにという部分はある。でもそれはあくまで利用者が健常者だという前提だろう。お年寄り、子ども、障害者、そうした社会的弱者、ハンディキャップのある人たちが安心して利用できる、そうした配慮が少なくとも公共的な施設には必要なのだ。
エレベーターを降りたとたん緩やかなスローブになっていて、そのまま線路に転落するおそれがある駅のホームというのは、施設としていえばほとんど殺人的な設計である。エレベーターを利用すればボタン操作等が必要な場合がある。車椅子の場合、自走であれ介助者が押してという場合のいずれにしろ、ボタン操作のため車椅子操作が一時的にできなくなる。その時にホームがスローブ状態で車椅子が動き出してしまう。自走できる車椅子で、乗っているものが制御できれば、まだ回避は可能だが、自走できない車椅子だったら、また障害の程度が重く自ら制御ができない方が乗っていたら。想像するだに恐ろしいことである。
もともとホームに直接下りることができるエレベーターを設置するのは、障害者やお年寄りへの配慮からではないか。バリアフリーのために設置していながら「なぜ」という思いが。結局、考え方の基本が箱モノなのである。とりあえずエレベーター設置すりゃいいだろう。施設作ればいいだろうというハードウェア的発想である。利用しやすさとか利用上の問題点がないかどうかみたいなソフトウェアの発想がまったくない。
東急の責任は重い。少なくとも公共輸送を行う公的企業としては。「事態を深刻に受け止めている。再発防止を徹底したい」とか言っているが、本来なら2年前の事故の時点で「事態を深刻に受け止める」必要があったのだ。この企業は、ひょっとして「人が死なないと深刻な問題と受け止めない」のだろうか。
たぶん多摩川駅と同様の危険なホームが日本中に沢山あるのではないかと思う。ほとんど殺人的というか、事故を誘発しかねない「危険なホーム」である。この事件をきっかけにして、そうした危ないホームの再点検が実施されるとか、改善されるとか、そういうことに繋がっていって欲しいと思う。
駅のホームだと管轄は国交省あたりになるのか。そしてバリアフリーの推進は厚労省。なんか縦割り行政とかが障害になりそうな気もしないでもない。でもせっかく政権交代とかもあるのだから、こういう問題も改善されていかなくてはと思う。