池田20世紀美術館 (11月19日)

 伊豆アニマルキングダムを後にして一気に伊東まで戻り、一碧湖近くの池田20世紀美術館に行くことにした。その日は昼食を抜いて、前日コンビニで買っておいた菓子パンだけですませた。全然リッチではない。まあ貧乏人の欲張り観光なんてこんなものだ。

 池田20世紀美術館に来るのは3回目。今年は4月にも訪れている。この美術館は、舗装材料メーカー、ニチレキの創業者池田英一氏のコレクションをもとに1975年に開設された現代美術中心の私立美術館。

公益財団法人池田20世紀美術館

 最初訪れたときも、事前に調べていたのでかなり期待して行ったのだが、期待違わずといった感じで伊豆の地でピカソマチス、ダリ、レジェ、ミロらの現代美術作品やルノワールシニャックヴラマンク、ボナール、キスリングなどを堪能した。多分、その頃(2017年)はフェルナン・レジェの作品に関心があったので、レジェの作品の複数展示やタペストリーがあったのが嬉しかった記憶がある。

 とにかく雰囲気の良い美術館でのんびり、ゆっくりと作品を鑑賞できる。ポーラ美術館や諸橋近代美術館などよりもだいぶ小ぶりだが、どうだろう桐生の大川美術館よりは少し大きいかなという感じだ。しかしポーラもそうだし、この池田20世紀美術館、大川美術館、みんな山の斜面に作られているけど、なにか理由でもあるんだろうか。

 斜面に建てられた美術館は当然2層、3層になっている。ポーラ美術館クラスになればエレベーターが完備してあるが、この池田20世紀美術館にはそういう設備がない。その分階段には昇降機がついている。ただし利用する時に係の人に操作をお願いすることになるのだが、その都度係の人を呼びに行く手間、来てもらうことを考えて、今回は利用しないで階段は手摺を使って降りたり登ったりをすることにした。

 念のために書いておくが、この美術館の駐車場は美術館裏にあり、そこからは階段を登ってエントランスに行くことになっている。ただし、車椅子利用者はそのままエントランス付近に止めることが出来る。これも最初に来た時にいったん本来の駐車場に止めてから自分が一人で受付の人に聞いてわかったことだった。とはいえそういう配慮をしてもいただけるという点では有難いところでもある。

 常設展示についてはだいたいいつも同じである。ルノワールは小品が2点、シニャックの水彩があり、カリエール、ヴラマンクなどが。そして多分、キスリングの大型の作品『女道化師』が。

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『女道化師』(キスリング)

 キスリングはポ-ランド人でエコール・ド・パリ派の代表的な画家の一人。若くして画家として成功を収めた人でもあり、モンパルナスの帝王ともいわれたという。同時代では、藤田嗣治ユトリロ、キース・ヴァン・ドンゲン、ローランサンらも人気があったが、キスリングがもっとも売れた人だったらしい。

 一方で例えばモジリアニはまったく絵が売れず、困窮の中で酒や薬で健康を害して早世したことを思うと、なんとも微妙な感じがしないでもない。多分、今の価値でいえばまちがいなくモジリアニの評価の方が遥かに上だろうから。まあ生前絵が売れなかったといえば、現代での評価では最高峰にあるファン・ゴッホなんかもそうなので、絵の評価やその芸術性にも歴史性が深く影響しているということなんだろうか。

 そういう話はおいといてこの『女道化師』である。個人的には国内にあるモイズ・キスリング作品の中では最高傑作だと思っている。なんならキスリングの全作品の中でも五指に入る傑作だと思っている。ときにキスリングの描く女性の肖像画は、どこか冷たい雰囲気があるのだが、この絵にはそれがない。最初に観た時も感じたことだが、どこか生に疲れたような女性道化師に対してのキスリングの視線には温かいものがあるような気がする。

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『裸婦』(田中保)

 田中保はエコール・ド・パリ派の画家の一人である。当時の日本人画家としては藤田嗣治も人気があったが、ひょっとすると田中保はそれ以上に人気があったかもしれない。10代でアメリカ、シアトルに渡り、苦学して画業をスタートさせ成功を得る。1920年代にパリに活動の場を映し「裸婦のタナカ」と評判を得たという。藤田嗣治第二次世界大戦以前に日本に帰国したが、田中はそのままパリにとどまり、1941年ドイツ占領下に客死したという。

 田中保は埼玉県出身で、1904年に現在の浦和高校卒業後に単身アメリカに渡った。埼玉出身の画家ということで、埼玉県立近代美術館(MOMAS)やサトエ記念21世紀美術館には作品が多数収蔵されている。以前にMOMASで回顧展が行われているらしいが、また企画されて欲しいと思っている。その時には当然のこの作品も貸し出されて欲しいものだ。

 その他ではこの美術家の目玉ともいうべきピカソ、ミロ、ダリ。

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レジェのタペストリ
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 前回来た時には企画展として「池田武夫展」が行われていたが、今回は現代の日本画家佐藤晨の回顧展が行われていた。

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佐藤晨 - Wikipedia

 佐藤晨も初めて知る名前だが、歴史や物語を題材にした大作が多数あり、観る者を引き込むような魅力あるものばかりだった。

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 『樹魂-薄墨桜』(佐藤晨)

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『梟の夢』(佐藤晨)

 この中央の少女や右側の猫は多分バリュテスをモチーフにしているのかと思ったりもした。