昨晩遅くアマゾンプライムで観た。
タブマンは南部の黒人奴隷の北部への逃亡を支援する組織の活動家として働き、南北戦争では黒人兵士を率いて南軍と闘うなど活躍した黒人女性。「女モーセ」、「黒人のモーセ」とレスペクトを込めて呼ばれた。黒人女性として初めて20ドル札紙幣に肖像がデザインされることがオバマ政権下で決まったが、これをトランプがポリティカル・コレクトネスと批判して棚上げにした。バイデンの政権獲得により、タブマンの肖像が20札紙幣に採用される手続きは復活している。
ちょっとあり得ないほどタフな黒人女性の実話に基づいた話である。ストーリーはトントンと小気味よく進むが、黒人奴隷への迫害といった部分はやや薄められており、ハリエットとその雇い主との遺恨が大きくクローズアップされている。
またハリエットは、幼い時に暴行を受けて頭蓋骨骨折の大怪我をしており、その怪我の後遺症によりナルコレプシーやてんかんの発作に襲われる。ナルコレプシーで夢遊状態になったときに、フラッシュバックのように予知夢をみることで危険を回避する。それを彼女は神との対話と呼ぶのだが、そのへんが少しオカルトっぽい感じがして些か引くような部分もある。
演出は黒人女流監督のケイシー・ティモンズ。当初は女優として『羊たちの沈黙』などに出演したキャリアがある。
主演のシンシア・エリヴォはイギリス出身の女優、歌手。
映画的には割とオーソドックスなストーリー展開で彼女が最初の逃亡以来、自分の家族やその他の奴隷を逃亡させるために何度も故郷に戻るのだが、そのへんが見事に省略されており、逃亡についても森の中や草原を走るシーンや川を渡るシーンなどワンパターン化されていて、そんな簡単に逃亡が可能なのかと思ったりもした。
そして窮地に陥ると例の発作で意識を失い、その時に受けた啓示により危機を脱するという割とご都合主義的な感じでもある。そのへんをスルー出来るかどうかでこの映画に入り込めるかどうかが決まるかもしれない。
主役のシンシア・エリヴォは好演している。アカデミー賞にノミネートされたというのもうなずける。脇をかためる俳優陣もみな良い演技をしているのだが、なんとなくキャラクターが確立していないような役柄もあるようにも思った。
ある種のご都合主義、類型的なキャラクターなどから、映画として今一つと感じる部分もあるにはある。しかしハリエット・タブマンという強烈なインパクトを与える人物にスポット・ライトをあてた映画だけに、たいていの部分は割り引いても問題なしといえる作品かもしれない。
迫害された黒人が地位、名誉を獲得、回復するサクセス・ストーリーというのは基本的に嫌いではない。黒人奴隷が受けた迫害はある部分筆舌を絶するものがあったと思う。そこに焦点をあてた場合にタブマンの偉業が相殺される部分もあり、迫害の部分を比較的軽く描いたのはある意味で正解かもしれない。
昨年は現代の黒人への差別や迫害がクローズアップされBLMの運動が喧伝された。その端緒となるのが奴隷制度である。現代の問題は過去と繋がっているということがこの映画からも明確に読み取れる。黒人への差別をなくし、権利を拡大していくとともに、白人社会は永遠に反省、内省を強いていく必要がある。人種問題はアメリカの宿痾でもあり、その克服のためには不断の試みが必要なのだということを、こうしたエンターテイメントを通じても再認識していかざるを得ない。