しあわせの隠れ場所

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 これもネットフリックスで観た。なんか最近はアマゾンプライムとネットフリックスばっかりになっているな。

しあわせの隠れ場所 - Wikipedia

 この映画はサンドラ・ブロックがオスカーを取った映画ということで覚えていたが当然観ていない。なんかもう観ていない映画だらけで、残りの人生を考えるとあれも観たい、これも観たい、でも時間がないというのが実感だ。22~23才の頃、劇場映画だけで年間100~150本くらい映画を観ていた時期があったけど、よっぽど暇こいていたのか、あるいは映画だけに没頭していたのか、そんなことを思ったりもする。仕事を辞めて暇になったといっても、そう毎日何本も映画を観ていられる訳でもないし。特に深夜とかだと、たいていの場合映画の途中で寝てしまうことも多いし。神様、いつまでも映画を観ていられる時間と若さを下さいと、祈るばかりだ。

 「しあわせの隠れ場所」は裕福な白人一家が、身寄りのない大柄な黒人の少年を引き取り、衣食住と十分な教育を与える。やがて少年はフットボールで才能を発揮し、大学、NFLで活躍するようになる。

 黒人少年を引き取る篤志家的な女性を演じるのはサンドラ・ブロックは確かに好演している。この映画は実話に基づいておりブロックが演じた女性は実在のリー・アン・デューイという実業家で、黒人少年もNFLのスター、マイケル・オアーで、彼の伝記に基づいている。

 とにかく良い話でかつハッピーエンドで終わる、誰も死なないしセックスもない。現代のお伽話のような話だ。黒人少年を引き取るのが南部ミシシッピーの裕福な家庭であるというのもちょっとした違和感がある。ミシシッピーは州の旗に南軍の旗のイメージがデザイン化されているような土地柄である。この州旗を変えるという話は昨年俎上に乗ったという話も聞いたことがある。黒人に対する偏見差別も根強いところだ。

 そういうところで白人の金持ちが黒人少年を引き取り、家族同様に扱い十分な教育を与える。リー・アン・デイビス篤志家的な行動力、バイタリティーは素晴らしい。そして彼女の行動を支える優しい夫、彼は地元でレストラン、ファーストフードのチェーン店を経営する実業家でもある。さらに黒人少年を受け入れるリー・アンの子どもたち、そのうちの一人は少年と同い年の多感なティーン・エイジャーの少女でもある。

 偏見差別の多い南部にあってもこういう開明的で多様性をきちんと受け入れ、実践している進歩的な資産家もいる。これがある意味アメリカの多少性なのかもしれないとは思う。とはいえこれは極少数のレアケースだとは思う。

 映画の中でマイケル・オアーの大学進学のために家庭教師を雇われる。中年の女性教師はそのままオアーがミシシッピー大学に進学した後もずっと個人教師を続けることになる。教師役は名女優のキャシー・ベイツが演じている。彼女は雇われる前に、リー・アン夫妻に秘密を告白をする。「雇われる前に秘密を告白します。私は民主党員です」と。これがギャグとなるようにミシシッピー州青い州共和党が圧倒的に強い土地なのである。だからこそキャシー・ベイツのセリフがジョークとして笑いを誘う訳だ。

 それで思ったのは、開明的な篤志家であるリー・アン・デイビスもその夫も普通にドナルド・トランプを支持しており、多分今回の選挙でもトランプに投票したのだろうということだ。そのへんがアメリカの多様性とともに頑迷な複雑さを示しているような気もするところだ。彼らの中では可哀そうな黒人少年に救いの手を差し伸べることと、アメリカの分断を進め、ブラック・ライブズ・マターに否定的なトランプを支持することが、自己矛盾なく同居している。

 アメリカン・ドリームを地でいくような、よくできた現代のお伽話も、そこで使われるジョークから、つい先だっての大統領選挙を思い出してしまう。なかなかに我々の今いる世界は複雑な問題をからんでいる。そんなことを思いながらこの映画を観た。