兄の手術

 医大病院に入院した兄は火曜日に足の手術をした。壊死した右足親指を切断した。当初、壊死した部分だけの切除とも聞いていたのだが、結局根本から切断することになったようだ。手術自体は部分麻酔で短時間で終わったという。

 それよりも驚いたのが、メールでペースメーカーを入れる手術をするということだった。そのメールは足の手術の翌日にきた。それから短時間電話でも話をしたのだが、心臓の状態がかなり悪いようでペースメーカーを入れることが急に決まったという。

 心臓についていえば、何年か前に同じ医大の別のセンターで診断を受けており、なんでも心筋の状態がかなり悪いのでバイパス手術をする可能性があるということだった。結局、体力面で心臓の大手術はもたないという医師の判断で手術はペンディングになったと聞いていた。

 しかしいきなりペースメーカーである。費用とかも心配だし、体内に埋め込むとなるとけっこう大ごとの手術になるのではないかと思い、医師からの説明を受けられのかどうかいうことを聞いたところ、手術は2時からなので1時過ぎにくれば医師の説明は受けられるということだった。

 なので1時ジャストくらいに病院に行ったのだが、ナースステーションで聞いてみると、予定していた午前中の透析が中止になり手術が早まったということで、すでに手術室に入ったということだった。手術自体は1時間くらいと言われたのでロビーで待つことにしたのだから、そこからはもうずっと待ち続けるだけ。

 結局、兄が病室に戻ってきたのは4時過ぎでゆうに3時間待ち続けていたことになる。それから30分くらいしてから執刀医から説明をいただく。医師は若い女医さんで、さらにその後ろにもっと若いイケメン風の先生。女医さんは立て板に水のように説明していく。なんでも兄の心臓はだいぶ悪く、心拍数が極端に少なくなり、それによって貧血症などを起こす可能性があるため、ペースメーカーを使う処置をすることになったという。

 いわれてみれば、これまでにも自宅や外出中にも貧血や低血糖で倒れて意識を失うことが何度もあった。外出先で倒れたのはだいたい後で聞く話なのだが、川越のファミレスで意識を失い救急車で運ばれたこともあるとかいう。

 そういうことが全部心臓に起因することだとは思ってもいなかった。しかし気がかりなのはもともと生活面でだらしない兄がペースメーカーを入れた体で生活していけるのかどうかということだ。医師の説明ではほとんどメンテナンスフリーで、内臓バッテリーも長ければ10年近く持つという。

 しかし高血圧、糖尿、人工透析でさらにペースメーカーである。7つ年長だから今年71才である。自分同様にもともと童顔なのだが、最近の容貌は病気のせいかかなり老いこんでいるような風だ。それこを一緒にいると自分は息子扱いされることも多い。60代の頃も糖尿や高血圧でだいぶよくないと言われていたのだがそれでも10年生きてきた。

 その間でも自転車での不注意な転倒で片目の視力を失うなどという事故もあった。病気での入院も多数ある。そのたびに医療費は自分が負担してきているが、これがまたどれだけ続くかと思うと自分の心も荒んでくるところがある。父母を早くに亡くしているので、自分にとっては唯一の肉親ではある。かといって自分も障害者の妻を抱え、さらに年金生活をスタートさせようかという矢先である。

 3時間も病院で待たされていると、いかにもよくないことばかり考えてしまう。いろいろとマイナススパイラルな感じだ。最後に兄と少しだけ話をしてから病院を出た。