宇都宮美術館~メスキータ展

 日光へ行くときはだいたいこの美術館に寄る。宇都宮市外の小高い丘にある美術館だ。一軒ずつの敷地が広い住宅地と大学に近接した公園内にある美術館で、常設展示は現代美術中心。売りにしているのはマグリットの「大家族」で、その他にもカンディンスキーやクレーなどを収蔵している。

 今回、ここの企画展はサミュエル・メスキータの回顧展だ。

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宇都宮美術館|企画展

 メスキータって誰っていう感じである。正直、まったく予備知識がない。スマホとかで検索するとこういうことになる。

メスキータ - Wikipedia

 オランダの画家、版画家で、あり得ない構造物の版画作品で有名なエッシャーの師匠でもあるという。調べるとこの回顧展は2019年に東京ステーション・ギャラリーで開かれて話題を呼んだのだとか。割と絵は観ている方だけど全然引っかかってこなかったのがちょっと悔しい。その後も西宮大谷美術館などを巡回し、春には佐倉市立美術館で開催予定だったのだが、コロナの影響で中止となり、今回、宇都宮に来たとういことらしい。

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 とにかく精密描写ともいべき微細な線とそれとは真逆な面による白と黒の面による濃淡の表現。その技巧はまちがいなく版画表現の可能性を広げたのではないかとそんなことを漠然と思う。

 さらに、メスキータはユダヤ人という出自もあり、1944年にナチスによって逮捕され、すぐにアウシュヴィッツに移送され、妻と共にガス室で殺害され、同じく捕まった一人息子もまた別の収容所で殺害されたという。そう、ナチスドイツの被害者として悲劇的な最後を遂げた芸術家なのでもある。

 版画の解説の中でエッシャーが語った言葉が引用されている。

(メスキータは)自然界のモチーフですでに鮮やかに黒と白とに分割されているものをもとに、くっきりとした黒と白の創造物をつくることに反対した。

シマウマっていうのは生きている木版画だ。そのシマウマをもう一度木版にすることを自制しなければいけない」とメスキータが語っていたという。

  そのメスキータがシマウマを描いていたことにエッシャーは驚きを隠せなかったということらしい。そのシマウマがこれだ。

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 シマウマは生きている木版画か、なるほどと妙に頷いてしまう。凡庸な自分はそうなると妙な妄想を始めてしまう。もしメスキータがパンダを実際に見ていたら、あるいは写真かなにかでもいい見ていたら、鮮やかに黒と白に分割されたパンダを木版画にしただろうか。当時、パンダの存在はおそらく欧州にはあまり情報として伝わっていなかっただろうけれど、多分その存在を知っていたら芸術家は自制よりも表現への衝動を抑えることは出来なかったかもしれない。

 メスキータのパンダ。何かそれだけで奇妙な趣向を想起させる。まだ見つかっていないがメスキータは実はパンダを描いていた。その下絵らしきものが散逸したコレクションの中から見つかり、木版画の完成品を探すキューレーター。身分を隠してい隠棲するナチスのコレクターやエッシャーといった人物が登場して・・・・・。

 時間があったら原田マハさんにでも中短編として書いてもらえそうな気も。

 すいません、これはただのただの妄想。

 以下、気に入った作品はこれ。

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 そして今回、珍しくこの絵柄のTシャツなんかも買ってしまった。仕事辞めたらこういう贅沢は出来なくなるんだけど、まあいいか。

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