0.5ミリ

0.5ミリ

0.5ミリ

  • 安藤 サクラ
Amazon

0.5ミリ - Wikipedia (閲覧:2023年3月21日)

 安藤サクラの主演映画である。以前、『百円の恋』を観て、この女優が好きになった。まったく知識がなかったのだが、奥田瑛二の娘なのだとか。『百円の恋』は32歳ひきこもりのどうしようもない女性が、ボクサーに恋して自分もボクシングに挑戦するという話。そして最後に試合に出ても報われることなくボコボコにされてしまう。どこにも救いのないような話だった。

 女子ボクシングをテーマにした映画では、クリント・イーストウッド監督、ヒラリー・スワンク主演の『ミリオンダラー・ベイビー』があった。あれもいい映画だったが悲惨な結末だった。多分、名画だけど二度と観たくない作品リストの一、二を争うのではないかと思うような映画だ。当然、一度観た切りである。

 『百円の恋』で安藤サクラは、太っただらしない引きこもり女性から、しまったアスリート然としたボクサーとなるまで肉体改造する。かなりストイックな役者魂をもった人なのだろう。

 そして『0.5ミリ』はというと、安藤扮する世話好きで熱心な三十代の介護ヘルパーさわが、介護先で寝たきりのおじいさんと添い寝して欲しいと頼まれる。娘らしい婦人から「おじいさんの冥途の土産に」みたいに頼まれて仕方なく。しかしその最中にトラブルに巻き込まれて、職も家も失う羽目になる。

 それからさわは、転々と旅をしながら、町々で徘徊し挙動不審な行動をとる独居老人の家におしかけヘルパーとして住み込み、老人たちと奇妙な生活を始める。

 安藤扮するヘルパーは人が好い、世話好きだが、どこかクセがあり押しも強い。彼女がおしかける老人たちもみなそれぞれに人生を生き抜いてきたクセのある人物。同居生活となっても老人たちは、みなある意味終わった人たちなので、性的なものはないのだが、それでも彼らからすると若い女性との生活にはモヤモヤしたものがある。

 安藤サクラは美人ではないが、どこにでもいる普通の女性の色気、魅力のようなものを感じさせる。色気と書いたがどちらかといえば、もっと即物的なエロさだ。ぶっちゃけていえば、安藤サクラはエロい。そのエロさはなんていうのだろう、普通の女性が普通の生活をしている中で時に感じさせるエロさだ。美人や男好きする可愛さ、豊満な肉体、そういった部分ではない、もっと日常的なエロさだ。

 かって日活ロマンポルノは、それまでのピンク映画ではありえなかったような美人女優が塗れ場を演じるということで人気を博した。それまでのピンク映画は、まあエロいけどあれはなんていうか悪しきリアリズムみたいな感じだったか。そういう意味では日活ロマンポルノは画期的ではあったが、どこかリアリティが欠けていたかもしれない。

 途中から女優にもバリエーションが増えて、普通っぽいおねえさんみたいな役柄を普通にこなす普通っぽい女優もでてきた。しかしリアリティを増した塗れ場は、ある種のエロさはあったが、すぐに食傷気味になった。

 安藤サクラのエロさはリアリティがあると思う。今回の映画ではなかったが、たしか『百円の恋』にはそれなりのぬれ場があり、かなりエロさがあった。かっての日活ロマンポルノには『団地妻』シリーズのような普通の人妻のエロスみたいなものがあったが、あれをそこそこのリアリティをもって演じるとしたら、安藤サクラみたいな女優が最適なのかもしれない。

 もちろん安藤サクラはただエロいだけの女優じゃない。演技もしっかりとしているし、ひょうひょうとした部分、凄みを感じさせる部分、それらが同じ映画の中で、同じシーンの中で、ふいに垣間見れる。そういう不思議な女優でもあるし、彼女はそういう多面性をうまく演じているし、監督たちも上手に引き出している。

 最近はドラマなので、そのひょうひょうとした部分をいかにも素のようにして演じて人気を博しているようだ。自分は安藤サクラという女優が多分かなり好きなようだ。

 映画では二人の老人の家に押しかける。その後に、老人といえるのか、不思議な崩壊しかけた家で初老の男と不登校の少年のような少女と一緒に暮らし始める。この三度目の同居生活はかなり奇妙でありつつ直截的でもある。

 映画はゆうに3時間を超す192分と長尺だ。それでもあまりダレずに観れたのだから、かなり良くできた映画なのだろう。でも三度目の同居生活はいらなかったかもしれない。あれは映画のテーマ性をふくらませるどころか、どこか散漫にしてしまった。そしてどこかひょうひょうとした映画の流れが、いきなり重苦しくなってしまった。そこだけが残念だ。

 この映画の監督安藤モモ子安藤サクラの実姉だとか。同名の処女小説を映画化したものだという。彼女は安藤サクラの様々な顔をうまくスクリーンに映し出している。そして例えば、彼女の入浴シーンで少しだけ開いたドアからチラっと覗かせる脹脛や足首。それをつい覗いてしまう老人。そうした部分にそこそこのリアリティを感じさせた。そこには男目線からの過剰なエロティシズムとは違う部分の表出があるかもしれない。

 この映画は、2014年制作で『百円の恋』も同年の制作だ。2014年、安藤サクラは二つの映画で開花したのかもしれない。