ポーラ美術館へ行ってきた

 6日、7日と久々箱根旅行へ行って来た。箱根といえば当然のごとくポーラ美術館である。ここに来るのはなんと1年ぶりのことになる。

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 いつもだとだいたい年に2回くらい訪れるのだが、ここんところあまり出版健保の保養所に泊まりに行く機会が減っているということか。やっぱり土日を使っての一泊旅行もけっこう疲れるというか、少しずつ億劫になっているのかもしれない。

 カミさんは相変わらずどこかへ連れていけという。でも子どもは高校くらいから旅行につき合うことが少なくなった。まあこれも致し方ない。とはいえせっかく免許もとったのだから、運転手としてつき合ってくれても良さそうなのだが、なかなか思い通りにはいかない。

 本当はもっと休みをとってのんびり旅行をしたいし、健保の保養所であれば、土日ではなくウィークディに行ければ一番いいのだが、一応現役で仕事を持っている身としては、そういう訳にもいかない。早くリタイアしてのんびりとしたいと思いつつも、多分出来るだけ、体が動く限りは仕事をしてみたいなことになる。そして強制リタイアみたいなことになった頃には、体も動かず、のんびり余生もなく、そのまま終了、多分そんなことなんだろう。

 どうもこういう話となると、繰り言ばかりになる。

 ポーラ美術館の収蔵品展をやっているというので、わざわざ水戸まで足を運んだのは、つい先月のことである。

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 その時、けっこう有名な作品が多数貸し出されていたので、今ポーラへ行っても常設展示は今ひとつかなと少しだけ心配していたのだが、そういうことはまったくなく、モネを多数貸し出していても、「睡蓮」や「バラ色のボート」は健在だし、ルノワールも「ムール貝採り」なんかを久々に観た。そして大好きなスーラの「グランカンの干潮」も1年ぶりに対面。この絵は多分スーラといわず、新印象派の作品群の中でも多分一番好きな作品の一つ。抒情性とともに静謐な印象があり、科学的、計算し尽くされた点描画で、なぜにここまで静かな詩情を描き出せるのかと、いつも思い返している。

 その他でも、マティスもあり、ゴッホアンリ・ルソーなどなど。茨城県美術館に多数行っているので、日本のものの展示が増えるかと思いきや、日本洋画、日本画の展示は少なかった。次回に日本洋画中心の企画展があるようなので、それまではお休みなのかもしれない。

 そして今回の目玉というか、企画展はオデュロン・ルドンである。

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www.polamuseum.or.jp

 ルドンについては、まあ象徴主義であり、目玉や人面魚などが有名。あと8月に行った岐阜県美術館の収蔵がつとに有名だったりする。

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 ここで観た「ポール・ゴビヤールの肖像」という美しいパステル画を観て、ルドンが一筋縄ではいかない画家だとは思った。その色彩感覚の見事さは,キャリアの後半まではモノクロの銅版画だけをやっていた画家とは思えないものがあった。

 確かルドンの回顧展は今年の始めに三菱一号館美術館でやっていたように思う。行こう行こうと思っていて行けず仕舞いだった。それを紹介するテレビ番組、「日曜絵画館」かBSの「ぶらり美術館」あたりだったっか、その中でルドンについてこんなことを評論家の誰かが話していた。

 ルドンはずっとモノクロでやっていたが、ある時期から一気に色彩豊かな装飾画のような作品を次々と量産する。それは色彩画もいつでも描けるが、なかなかそういう気にならなかった。それが満を持して色彩画に移行したみたいな話だった。

 しかし今回のポーラでは、初期の習作的な作品で色彩のある風景画が数点、展示されていた。それはまさしく習作なのかもしれないが、普通の絵を志していたルドンが、何かをきっかけに幻想的なモノクロ版画の世界に進む。展覧会の解説では、それが植物学者アルマン・クラヴォーと知り合い、顕微鏡下のミクロ的世界と出会ったこと、放浪の銅版画家ブレダンの指導を受けたことなどによるとされている。

 確かにルドンの版画には植物学への関心や、コケや微生物の世界を発展させたイメージがある。なるほどと思う。さらには実際の生物と異なる想像上の産物が多数描かれる。それはまたルドン後半生に多数描かれた美しい装飾画のような花の絵にあっても、実際には存在しない草花が描かれていたりもする。

 ルドンは顕微鏡下に見たミクロの世界に喚起された想像力により、幻想的な世界を思い描き、それを銅版画に、キャンバスに描いてみせたのだろう。

 今回の回顧展で展示されたルドンの作品は、そのほとんどが岐阜県美術館所蔵のものだった。版画から、初期の風景画、後期の幻想的な象徴性の高い装飾画などなど。岐阜県美術館恐るべしというところだ。確かまもなく改装工事のため休館となるということで、岐阜のルドン作品はけっこう各地を回るのかもしれない。

 今年の始めに三菱一号館でもルドンの回顧展をやっていたが、後半にはこうやってポーラでもルドンをやる。ルドンはけっこう日本人に人気のある画家なのかもしれないなと思う。まったく別のベクトルから企画された回顧展がたまたまダブったとはちょっと思えない。

 まああの有名な目玉とかは、明らかに鬼太郎の目玉オヤジを想起させるし、日本人には諸々親和性があるのかもしれない。今回の企画展でも、ルドンの作品の日本のコミックへの影響や、現代アートでルドンをモチーフにしたような作品も多数展示されていた。

 ただ残念なのは、例の目玉の作品や人面魚といった有名どころは前期展示だったようでお目にかかることができなかった。まあそれがなくても別にがっかりという訳でもないのだが、やっぱりルドンというとこれみたいなところもないでもない。

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 今回、比較的早い時間に着いて余裕もあったので、途中で学芸員の解説ツアーみたいなのにも参加した。学芸員さんは若い女性で、なんだか学生のインターンみたいな感じで、声も小さくて話もきちんと聞こえない部分もあった。この新人さん、ひょっとして本当に学生さんの実習かなんかと思ったのだが、あとで図録とかで確認すると、図録の編集や執筆もやっているバリバリの学芸員さんのようだった。

 まだ学芸員としてのキャリアは浅いようだが、おそらく東大あたりの院を出た研究者なのかもしれない。話術のほうはこれから磨かれることになるのだろうが、こういう若い学芸員がどんどん新しい企画展を展開されるとなると、ポーラに行くのも楽しみかもしれない。まあ今後に期待というところか。

 あと気になったのは新収蔵作品に村山槐多のものが一点。

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 さらに特別展示 「フジタからの贈りもの―新収蔵作品を中心に」の中で藤田が同時代の画家の作風を真似た小品が多数展示されていて、これはちょっと楽しかった。

www.polamuseum.or.jp

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