先週行った六本木の国立新美術館「ピエール・ボナール展」についていくつか思ったことを、ちゃちゃっと列記する。
このボナール展はオルセー美術館特別企画となっており、オルセー所蔵品がメインとなっている。なんとなくそれにひっかかりつつ、しかもいくつかの作品を観た記憶があったので、よく考えてみたら去年、三菱一号館美術館で「オルセーのナビ派展」を観ていた。
その時にも書いたことだが、オルセー美術館は印象派だけでなく、ナビ派のコレクションを多数所蔵している。しかも美術館の総裁ギ・コジュヴァルはナビ派の研究者としてつとに有名なのである。
さらにいえば今回のボナール展でも図録への執筆を含め、中心的な役割を果たしているオルセー美術館主任学芸員イザベル・カーンは、オルセーのナビ派展でも三菱一号館の館長高橋明也とともに学術監修を行なっている。おそらくコジュヴァルの一番弟子のような存在なのだろう。
総裁と主任学芸員がナビ派の研究者らしいということでいえば、もはやオルセー美術館は印象派の美術館だけでなく、ナビ派の美術館であるのかもしれない。「日本かぶれのナビ」ならぬ「ナビ派かぶれのオルセー」と適当に呼ぶことにしよう。
オルセーのナビ派展の図録にコジュヴァルのインタビューが収録されているが、それによるとボナールの作品は約90点、ヴュイヤールも同じくらい収蔵されており、モーリス・ドニの作品はそれ以上にあるという。その90点あまりのコレクションと国内のコレクションから130点あまりが集結したのが、今回の国立新美術館の大回顧展ということだ。
そのためいくつかの作品はオルセーのナビ派点でお目にかかったものといえる。
この他にも大型作品である「ブルジョワ家庭の午後」やボナールの義弟クロード・テラスを描いたアンティミスム的作品「親密さ」なども記憶に残っている。
その他きがついたことだが、ボナールはシャンパン生産者のためにポスターを制作する。このポスターはパリの市中のあちこち貼られてたいへん評判となり、シャンパンの売れ行きが増したということだ。
このポスターを観た時、てっきりこれはボナールがあのロートレックの有名なポスターに触発されたのかと思ったのだが、実はこれはまったく逆の話。ボナールの評判になったポスターに喚起されてロートレックはムラーン=ルージュの制作をすることになったのだとか。これもオルセーのナビ派展の図録にイザベル・カーンが寄せた「ナビ派、あるいは内なる眼」の中にあった。
ボナールの浮世絵から取り入れた大胆なフォルムは、自分などはこれはある部分ロートレックから借用したものではと思っていたのだが、このへんも日本被れのナビ派たるボナールが最初に取り入れ、そこから多く画家が採用したものなのかもしれない。
図録は絵を眺めるだけで、あまりそこに書かれた時に何回な論文めいたエッセイは、なんとなくスルーすることが多いのだが、けっこう面白い、ためになる、そういう部分もあるのだと思う。もう100冊近い図録もじっくり眺め、読むのはずっと先、引退後の楽しみのようにも思うのだが、果たしてそんな時が自分に訪れるんだろうか。