ルドン、ロートレック展

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 「ルドン、ロートレック展」は10月24日から始まったばかりの新しい企画展。基本的には事前日時予約制なのだが、時間帯で員数に余裕があれば当日予約なしでも入れるというもの。ウィークデイの午後ということで問題なく入ることが出来た。

 この企画展については、丸の内に最初のオフィスビルとして建設された三菱一号館の竣工年1894年を軸に、近代の都市生活を描いた印象派の画家たちとの作品群と同じく都市の風俗を活写したロートレックにスポットを当て、またそれとは真逆な精神世界や夢、象徴性を表現したオディロン・ルドンの作品を集めている。

 随分と欲張りな、へたすると散漫な企画になりそうな感じがするが、なぜロートレックとルドンかというと、まず三菱一号館美術館にはロートレックの死後、作品の管理を委ねられた画商モーリス・ジョワイヤンのコレクションを約260点収蔵している。また三菱一号館美術館と友好関係にある岐阜県美術館は、世界でも有数のオディロン・ルドンのコレクションを所有している。

 そういう関係で三菱一号館岐阜県美術館の共催という形で今回の企画展が実現したということらしい。三菱一号館美術館では10月24日から1月17日まで開催され、その後は1月30日から3月14日まで岐阜県美術館で開催されるという。

 岐阜県美術館には数年前に一度訪れているが、岐阜県所縁の画家の常設展示と同時にオディロン・ルドンの豊富な作品には圧倒された記憶がある。さらにいえば以前、ポーラ美術館でやはりルドンの回顧展が行われたのを観たことがあるが、そのときにも岐阜県美術館の収蔵作品が多数出展されていた。

 展示内容については以下のような切り口で構成されている。

1.19世紀後半、ルドンとトゥールズ=ロートレックの周辺

2.NOIR-ルドンの黒

3.画家=版画家トゥールズ=ロートレック

4.1894年パリの中のタヒチ、フランスの中の日本-絵画と版画、芸術と

  装飾

5.東洋の宴

6.近代-彼方の白光

 最初の部屋ではルドンとロートレックの周辺ということで、三菱一号館岐阜県美術館所蔵の著名な画家、特に印象派中心に展示されている。入り口で有名どころをど~んという感じだ。その冒頭がモローのこの作品なんだが、モローの代表作としてもいいような存在感のある作品で、なんか全部もっていくような感じで釘付けになる。

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ピエタ」(ギュスターブ・モロー

 構図にしろ表現にしろ、文句のつけようがないような作品。モローの画力のなせる業というところか。この絵を観ると、同じ部屋にある大家の作品、ドガ、ミレー、ピサロシスレー等もなんとなく霞んでしまうような気がする。

 とはいえルノワールのこういう作品には心が安らぐというか、いつものルノワールにほっとする部分もある。

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「長い髪をした若い娘」(ルノワール

  1884年印象派的な作品を多数描いていた頃の美しい色遣い。多分この頃のルノワールが自分は一番好きかもしれない。髪の毛やドレスの色どり、麦わら帽子、そして美しい顔の描写、どれをとっても一番好きなルノワール

 そしてロートレックは有名なポスター作品が一堂に会すみたいな感じで楽しい。ロートレックな年少のボナールにポスター制作を学んだらしいのだが、全体の雰囲気はまちがいなく浮世絵のそれだと思う。

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 ルドンはまずお馴染みの黒、木炭画やリトグラフから。

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「絶対の探求-哲学者」(オディロン・ルドン

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「蜘蛛」(オディロン・ルドン

 岐阜県美術館の常設展、ポーラ美術館でのルドンの回顧展などでお馴染みの作品だが、やはり観ていると楽しくなる。そんな単色=黒の画家が、キャリアの後半になるといきなり美しい色彩を獲得するのだから、この天才画家はあなどれないというか。

 以前、岐阜県美術館で観て一番気に入った作品、パステル画、かつ云われない限りルドンとは思いつかないような作品だけど、美しい肖像画の傑作だと思っているのがこれ。また会うことが出来てちょっとした感動を覚えている。

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「ポール・ゴビヤールの肖像」(オディロン・ルドン

 以前にも書いたような気がするが、このモデルさんはベルト・モリゾの姪っ子でポール・ヴァレリーの義姉だという。なにかいろんなことが繋がっている感じ。ゴビヤールは自らも絵を描いていて、ベルト・モリゾが教えていたという話もあるようだ。ちなみにシャンパンにも彼女の名前を冠したものがあるんだけど、どういう繋がりがあるのかは知らない。本企画展に展示はないけど、ベルト・モリゾに彼女を描いた作品がある。

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「絵を描くポール・ゴビヤール」(ベルト・モリゾ

 そして本企画展でのルドンの目玉的作品はというと三菱一号館が収蔵する大型パステル画。いつもこの作品一点を一室で展示していて別格扱いしているのだけど、パステル画でのこれだけの大型作品、多分保存も大変なんだろうなと思いつつも、なかなかに心を動かす幻想的な作品。

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「グラン・ブーケ」(オディロン・ルドン

 その他では岐阜県美術館所蔵の山本芳翠の作品が多数出展されていた。以前岐阜県美術館で観てその存在感、構成美、画力に驚いたもの。明治初期、西洋絵画を学んだ東洋の秀才による習作といってしまえばそれまでなんだが、かくも見事に当時のアカデミズムの雰囲気をキャンバスに描き切る画力の確かさは驚嘆に値すると思う。

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「浦島」(山本芳翠)

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「裸婦」(山本芳翠)