尖閣ビデオ流出

これはかなり衝撃的だった。国が外交上の配慮から一般公開を見送っていたものが、動画投稿サイトに流れてしまったのである。
この映像の公開についての議論には、いろいろと思うことがあった。茶番的でもあるし、そこまでして中国との関係に配慮すべきなのかどうか。弱腰と非難されていても、今の疲弊した日本経済にあっては中国市場はある種、屋台骨を支えている部分もあるのだろう。おそらく今の民主党政権は財界の一部から、日中関係が決定的に悪化した場合、経済に与える影響は計り知れないとのシグナルを送られていたはずだ。想像するだけだが、たぶんその線に沿った形で、まあ一般的にみればきわめて歯切れの悪い、ふがいない対応を行ってきたということだろう。
ビデオが国会議員に対して秘密公開みたいな形で取り扱われた報道とかを見聞きしながら、冗談で関係者がYouTubeに流しちゃえばいいのになどとぶつぶつ言ったり思ったりもしていた。会社の同僚とかとも酒飲んだときにそんな話をしたこともあった。それが現実化してしまったわけだ。
これが日本という国の現実なのである。冗談国家みたいではないか。この国には冷徹な国家の意思とか、機密とか諜報とか、機密情報に基づく高度な外交的なやりとりとか、まあその手のもろもろがなくなっているのだろうか。報道や識者の意見にも出ているように、民主党政権はもはや国家の体をなしていないと、そんな悲観的な思いを私も抱いているか。
いやいや、と〜んでもない。ビデオ流出最高である。YouTubeに一発投稿、ワンクリックで国家の意思だの対面だの、恣意性だの、そんなものが軽くぶっ飛ぶのである。国の機関の末端かそこらにいるどっかの馬鹿、あえて馬鹿と言っちゃう、なぜならこれまでの価値観なり、公務員はこうあらねばみたいな職業倫理からしたら、あまりにも軽い行動だから、というそういうお茶目ちゃんのお茶らけた行動で、国家が高度な外交案件として処理しようとした様々な事柄ががらがらと崩れていってしまう。
21世紀という時代にあって、なんと軽い、すばらしい国に私は生きていることかと、たいへん喜ばしく思っている。かって19世紀後半だかにだね、個人と国家の対立関係みたいなものは、生産手段を人民=労働者が独占することで、国家を消滅せしめると夢想したドイツのおっちゃんがいたっけ。
それ以降、個人と国家の関係を国家の権限なりなんなりをどんどん弱化させ、逆に個人の権利なりを強めることで最終的に国家を死滅させる、そして個人と個人は社会なり国家なりを経ずしても連帯することが可能みたいな夢、まさしく夢ね、をどうしたら可能できるかみたいなことに対する様々な模索が繰り広げられてきた。のではないか。
そういう個人と国家の関係性とかでいうとだね、たぶんに国家の圧倒的優位性というのはいつに変わることなくあり続けてきたのだとは思う。それがね、どっかのおちゃらけのおっちょこちょいなワンクリックで見事に崩れちゃうのだということ。
ビデオの流出で溜飲下げている人は沢山いるだろう。そして今はまだわからない名無しの投稿者、内部告発者らしき人間を賞賛する声が多数寄せられているようだ。でもね、はっきり言うよ、この投稿者公務員だと仮定したら、やっぱりあかんだろう。自分の意思で動いちゃ駄目だろう、組織人なんだからと思う。自分も人に使われる立場だし、また人を使ってもいるけど、社内の情報勝手にネットに投稿されたらまずいものね。あかんよこれは。組織人の立場としては、きっぱりと。
しかしだ、一市民としての無責任な立場からあえていわせてもらえば、大変面白い。これこそ民主主義国家、インターネットがかくも普及した、成熟した民主主義国家の成せる技というものではないかと思う。
本来、意思決定と情報経路が一元化されていた組織にあって、軽く異分子が跋扈して、情報を外部に垂れ流している。かっては内部告発は相当な勇気をもって、それをマスメディアに様々な経路を使って流す。マスメディア内にも組織内の様々な判断、権力との関係性があり、それを公開すべきかどうかの判断や暗闘とかもあったりする。それらの過程を通じてようやくすっぱ抜き、一大スクープが生まれるのである。
今ではマスメディアも必要なし。生情報、あるいはお茶目な投稿者が意図した形での情報が、軽くネットに配信できる。それは瞬時に世界中に広がっていくのである。それを削除しても、遮断しても、いったんアップされた情報は燎原の火のごとく、あっつう間に広がっていくのである。
これぞインターネット!ネット社会と成熟した(ダレきったともいえるかもしれないけど)民主主義社会の融合によってこそ成されるのである。
今回の案件における中国の過剰な日本への攻撃、国内での官製反日デモをみると、中国と日本、どちらが市民社会として成熟しているかは明らかではないかと思う。だいたい街中で政府批判の声を一言でも上げたら、一発レッドカードの国である。そんな圧制社会にあって、自由なデモなんかありえるわけないだろう。反日デモなんていうのは、明らかに中国政府、中国共産党の意思なんだろうということ。
ようは様々な矛盾から目をそらせ、諸悪の根源として日本をあげつらっておけば、国民の不満をそこそこ解消できるという、そんなことなんだろう。そういうのは21世紀にあっては、なんつうか前近代的ナショナリズムの産物だと思う。今的でもないし、正直ださいと思うぞ。
それに対する日本社会はどうよ。国家機密とされるビデオだの、警視庁の対テロ関連文書とかがぼろぼろと流出する。これだけ中国から悪し様にされているというのに、国をあげて反中国みたいなことでまとまることすらない。100%メイド・イン・チャイナのユニクロ服をみんな着て街歩いている。
近隣国との領土問題とかについていえば、尖閣諸島もそうだけど、そういえば日本海の孤島竹島はどうなっちゃたっけ。確か日本固有の領土であるはずなのに、すっかり隣国韓国に占有どころか、もはや実行支配されちゃっている。なのにそれに声をあげるわけでもなく、我々は少女時代の美脚に歓声をあげているのである。「Gee」にうつつを抜かす前に竹島問題考えろとは、誰もいわない。
私はこんな日本が実はけっこう好ましいと思っていたりもする。そこで今回の尖閣諸島をめぐる件について、さらにビデオの流出についてあえて声を大にして言いたいと思う。
思い知ったか中国人。あなたたちにはたぶん一生理解できないかもしれないが、あなたたちが小日本と侮蔑して呼ぶこの国には、「民主党政権はクソであるみたいな」政府を悪し様に非難する自由があふれている。さらにいえば、その声を選挙なりに集中すれば、政府を軽くぶっ倒すことも可能なのである。自国を理不尽に攻撃してくる隣国に対して、それを批判する人もいれば、どうでもいいとスルーするのも自由、いやいや隣国の意見もそれなりには正しいなどと同調したりする自由もある。政府が外交関係を考慮して公開しない機密事項を、おちゃめな関係者が簡単にネットに投稿するなんていう自由もあるのだろう。
正直にいえ、中国人。日本みたいな国、羨ましいだろう。だからあんたたちは自国のディズニーランドじゃなく、わざわざ浦安くんだりまで金落としにくるのだろう。
今回のおさらい。民主主義が成熟してくると、ナショナリズムみたいなものはどんどんと劣化していく。インターネットの普及は国家間の様々な障壁をどんどん乗り越えていく。そうした中では従来の外交関係には様々な別ファクターが必要になってくる、そんな感じかな。
しかしそれはそれとして現実問題として中国という国は大変やっかいだとは思う。内政的には一党独裁国家であり続けながら、市場社会を導入している。すでに世界経済にも確固たる地位を得てきている。世界的にみてもあの地の市場は大変魅力的であると。
しかし市場経済がどんどん定着していけば、今でも問題となっている貧富等の格差はどんどん広がっていく。もともと貧富の問題、資本家と搾取される労働者、農民との関係性とかその克服みたいな形で生まれた社会主義国家だろう。もうすでに軋みというか矛盾がどんどん噴きあがってきているはずだ。そこにもってきて市場経済は主体的な個人の交換関係で成り立っているわけだし、主体的な個人には自由だのなんだのという付帯用件がでてくる。
もたないと思うな、今の体制は。ただでさえ多民族国家だろう。市場経済の拡散は中国各地でのナショナリズムに火をつけていくだろう。20年前に崩壊したソ連邦のごとくに分裂していくんじゃないのと思うこともある。おそらくこれから、たぶん50年くらいのスパンでは中国共産党の一党支配は崩壊して分裂していくんじゃないかなどとも夢想する。末は紀元前の春秋戦国時代みたいなことにならないだろうか。まあその頃には私は生きていないけど。
最後にもう一つ。今回のビデオの流出についてで、ビデオを投稿した人物が名乗ったsengoku38なる人物が誰かという犯人探しの声もずいぶんあがっていたりもする。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/101106/crm1011061357015-n1.htm
グーグルに問い合わせてIPとかをある程度特定できるかもしれないし、あちこちのサーバー経由していれば、それも難しいかもしれない。そこでとりあえず思いつきのギャグを一発。
「本人だったりして」
IPをあたっていったら、内閣官房とかにいきあたったりしたら・・・・。シャレにならないか。