エルヴィス

https://www.netflix.com/jp/title/81591116

 これはNetflixで観た。

 エルヴィス・プレスリーの伝記映画が公開されていることは知っていた。そして今年のアカデミー賞で8部門にノミネートされていたこともニュース等で聞いていた。なのでひょっとしてと思い、アカデミー賞発表の少し前に観た。

 ここ最近、ロックスターの音楽伝記映画が相次いでいる。フレディ・マーキュリーの『ボヘミアン・ラブソディ』、エルトン・ジョン『ロケット・マン』などなど。そうした流れでいよいよキング・オブ・ロックの登場ということなんだろう、エルヴィス・プレスリーである。しかし没後45年にしてか。

 音楽伝記映画というと、古い世代なので最初に思い浮かべるのは『グレンミラー物語』、『ジョルソン物語』、『ベニー・グッドマン物語』、『五つの銅貨』、『愛情物語』といった40~50年代の古いものばかりだ。20世紀後半から今世紀となるとあまり制作されていないかと検索してみるとけっこうあるにはある。

ミュージシャンの伝記映画ベスト30:音楽ファンを夢中にする映像体験(予告編付)

(閲覧:2023年3月15日)

 なんとなく記憶に残っているのは『歌え!ロレッタ愛のために』、『ジャージー・ボーイ』、『ボヘミアン・ラブソディ』くらいか。最近、音楽伝記映画に多いという印象があるのはやはり『ホヘミアン~』の大ヒットの印象が強いからかもしれない。

 そして『エルヴィス』である。まずエルヴィス・プレスリーは自分のようなジイさんでもあまり馴染がない。自分らよりも7~10歳上の団塊世代でも同時代的ではないかもしれない。そもそも世代的にいえば、団塊世代ビートルズストーンズあたり、それよりも下の自分たちの世代はというと、多分同時代的にはイーグルスとかそのへんからなのかもしれない。

 そもそもプレスリーはというとそのブレイクした年は1956年である。そう、実は自分の生まれた年である。試しに1956年のビルボード年間チャートをみてみると、プレスリーの快進撃がわかる。

▽ 1956年シングル・ ソングトップ50 / Hot 50 Songs    
Billboard Top 50 - 1956    
No.(順位).  Title(タイトル)≫  Artist(シンガー)      
01. Heartbreak HotelElvis Presley
02. Don't Be Cruel ≫ Elvis Presley
03. Lisbon Antigua ≫ Nelson Riddle
04. My Prayer ≫ Platters
05. The Wayward Wind ≫ Gogi Grant
07. The Poor People Of Paris ≫ Les Baxter
08. Whatever Will Be Will Be (Que Sera Sera) ≫ Doris Day
08. Hound DogElvis Presley
09. Memories Are Made Of This ≫ Dean Martin
10. Rock And Roll Waltz ≫ Kay Starr
11. Moonglow And Theme From "Picnic" ≫ Morris Stoloff
12. The Great Pretender ≫ Platters
13. I Almost Lost My Mind ≫ Pat Boone
14. I Want You, I Need You, I Love You ≫ Elvis Presley
15. Love Me Tender ≫ Elvis Presley
16. Hot Diggity ≫ Perry Como
17. Canadian Sunset ≫ Eddie Heywood & Hugo Winterhalter
18. Blue Suede Shoes ≫ Carl Perkins
19. The Green Door ≫ Jim Lowe
20. No, Not Much ≫ Four Lads

 1956年-1960年シングルトップ50ランキング; ビルボード年間ヒットチャート

(閲覧:2023年3月15日)

 トップ20の中に5曲も入っている。プレスリーがデビューしてすぐに大ブレイクしたかが判る。でも1956年、生まれたばかりの自分は当然知らないし。5~6歳の頃、ロカビリーのブームの記憶がかすかにあり、そこで日本人歌手がプレスリーをカバーしていたのを朧気に記憶しているくらいだ。

 そしてようやくロックやポップスを聴き始めた頃というと、プレスリーは映画に出てくるアイドル的存在、音楽的にはロカビリー、それらはもう70年代前後にはオールディーズと括られることも多く、なんとなく過去の人みたいな感じだった。

 1970年くらいになると、ヒットチャートにプレスリーは戻ってくる。「バーニング・ラブ」やカバー曲「この胸のときめきに」など。そして映画「エルビス・オン・ステージ」だ。ジャンプ・スーツに身を包み、カンフー・アクションを取り入れたステージ、男くささ満載のもみ上げ、そんなカッコいいエルヴィス・プレスリーがカットを分割したマルチ・スクリーンに映る。

 ロカビリーのスターは貫禄のあるライブとともに70年代のロック小僧たちの前に現れた。でもどこかオールドな雰囲気で、いわゆる大物エンターテナーみたいな存在でもあった。そして1977年、えらく太った姿で唐突に亡くなった。

 なかなか映画にたどりつかないけど、そんなエルヴィスについての諸々はなんとなく見聞きしていた。マネジャーのパーカー大佐のこと、奥さんだったプリシラとは徴兵で西ドイツに駐留していたときに知り合ったことなどなど。復員後は、歌手としてよりもハリウッドの映画スターとして活躍したことなども。まあ我々の世代からしても、エルヴィスはある意味、アメリカの大スターでもあった。

 でも今の若い人にとってはどうだろう。エルヴィス・プレスリー・・・・・・、誰みたいな感じだろうか。これは日本だけでなく、多分アメリカ本国でもそうじゃないだろうか。そういう21世紀、2022年にプレスリーものを持ってくる。ある意味、歴史上の人物をモデルにした伝記映画、そんな感じだろうか。

 プレスリーを演じたオースティン・バトラーはかなり好演していると評価が高い。実際、アカデミー賞でも主演男優賞にノミネートされている。歌うシーンなどもかなり似せているという評価もあるようだ。でも、なんとなくだがプレスリーを知っている自分のような人間からすると、どこか違うような気もする。プレスリーってもっと男くさい、ワイルドな雰囲気があるのだが、バトラーのそれはどこか中性的であったり、病的な雰囲気があったりする。ちょっとプレスリーのイメージじゃない。

 そういう本人とのイメージのズレがあると、なんとなく入っていかないのである。そのへんが個人的にはこの伝記映画はちょっと微妙な評価となる。

 映画はプレスリーのマネージャー、プレスリーを搾取し続けた男として有名なパーカー大佐の視点から描いている。パーカー大佐が狂言回しのようにして語っていく。このパーカー大佐は実際とよく似ている。って、この映画を観終わるまで、パーカー大佐役が名優トム・ハンクスであることに気がつかなかった。メイクで顔から体形まで大きく変わっているとはいえ、本当に気がつかなかった。そもそもトム・ハンクスが出ていることも知らずに、そういう予備知識なしで観たということだ。

 もちろんこのパーカー大佐役はよく演じられていた。トム・ハンクスがアカデミー助演男優賞にノミネートされていたら、キー・ホイ・クワァンの受賞も危うかったかもしれない。なんならトム・ハンクスが主演男優にノミネートでもありかもしれなかった。それくらい良い演技だった。

 映画は基本的にプレスリーの少年時代からデビューし大スターになり、晩年のツアー生活までをトレースしている。だいたい事実に沿っている。そのなかでのプレスリーの音楽、私生活、パーカー大佐との軋轢、父親や取り巻き連中(メンフィス・マフィアと呼ばれた)との関係などもきちんと描かれている。でも、やっぱり主演のオースティン・バトラーへの違和感が最後までつきまとった。

 ある意味、プレスリーは自分のような後から知った世代にもそれなりに大きな存在なのかもしれない。なので彼のイメージは没後46年が経ってもけっこうしっかりと確立している。なのでそのイメージとうまくシンクロするような俳優であったらよかったのだが。とはいえオースティン・バトラー、けっして演技が下手とかいってるのではない。けっこう良い演技というか熱演していたとは思う。でもプレスリーっぽくない。そういうことだ。それは役者というよりも監督の問題でもあるかもしれないし、キャスティングの問題ということになってしまうのかも。

 とはいえ159分の上映時間、ダレることなく観終えたし、そう悪い映画ではなかったと思う。音楽映画という点ではそこそこ評価は出来る。でもプレスリーだからなあ。

 こういう音楽伝記映画、今後も続くのだろうか。個人的には40年代、50年代の大スターであるフランク・シナトラの伝記映画なんていうのも観てみたい。そして同時代のスーパースターということでいえば、やっぱりマイケル・ジャクソンやプリンス、白人ではブルース・スプリングスティーンなんかの伝記映画ができたらと思ったりもする。

エルヴィス・プレスリー - Wikipedia (閲覧:2023年3月15日)

エルヴィス (映画) - Wikipedia (閲覧:2023年3月15日)

映画『エルヴィス』オフィシャルサイト|デジタル先行配信中!10.19ブルーレイ&DVDリリース (閲覧:2023年3月15日)