愛情物語

 

愛情物語 (字幕版)

愛情物語 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

  これもプライムではなくBSプレミアウムを録画したもの。

 この映画は実は初めて観るのだが、多分50年くらい前に予告編を観てずいぶんと壮大な音楽映画だなと妙に印象深くした記憶がある。あれは丸の内ピカデリーだったか、多分『サウンド・オブ・ミュージック』か『マイ・フェア・レディ』を一人で観たときにやっていた予告編だったように覚えている。

 本作はジャズではないポピュラー系ビッグバンドの指揮兼ピアニスト、エディー・デューチンの伝記映画だ。そのスタイルはクラシックの名曲を当時のダンス・ミュージックにアレンジしたもので、1930年代から40年代に人気を博した。そのエディーの半生を最初の妻とのロマンスと死別の悲恋、残された子どもとの交流などをドラマチックに描いている。エディーは白血病のため41歳の若さで亡くなるのだが、その死が感動的なラストシーンにうまく描かれてもいる。主役はタイロン・パワー、相手役ははキム・ノヴァク。監督はMGMミュージカルを数多く演出したジョージ・シドニー

愛情物語 (1956年の映画) - Wikipedia

 40年代から50年代にかけては音楽伝記映画がさかんに作られているが、その流れでの作品の一つといえる。作曲家、演奏者を美化し、そのロマンスや家族愛などを細やかに描く作品が多い。『グレン・ミラー物語』、『ベニー・グッドマン物語』、『五つの銅貨』などの代表作があるがその系譜の一つといえる。

 主役のタイロン・パワージョン・フォードの『長い灰色の線』と同様に好演している。ピアノの指使いも本当に弾いているような雰囲気がある。ただし彼が音楽家、ピアニストっぽいかどうかというと微妙な部分もあるかもしれない。共演のキム・ノヴァクはこの映画の前年に『ピクニック』、『黄金の腕』に出演、この映画の翌年、翌々年には『夜の豹』、ヒチコックの『めまい』、『媚薬』などに出演。妖艶な美人女優として活躍した。他に二番目の妻役をオーストラリア出身の女優ヴィクトリア・ショウを演じている。この人はその後もあまり活躍していないが、モデル出身で均整のとれたプロポーションで凛としたイメージがある。

 映画は全体としてニューヨークを舞台に描かれる。エディ・デューチンがバンドの一員としてデビューを果たすのが戦前セントラル・パークにあったカジノである。そのためセントラル・パークを背景にしたシーンが多く、美しい緑に溢れた大都市ニューヨークのオアシスの魅力をふんだんに見せてくれる。ニューヨークを舞台にしたラブ・ロマンスというと例えば『恋人たちの予感』やモノクロではあるがウディ・アレンの『マンハッタン』などが印象的だが、それらの映画と比較しても遜色ないほど美しくニューヨークの情景が描かれている。40年代から50年代のニューヨークは活気があり、美しく情緒あふれる街並みだったことがわかる。そういう意味ではこの映画はきわめて秀逸な都市映画的でもある。

 音楽伝記映画という点では、演奏シーンもふんだんにあり、前述したようにタイロン・パワーのいかにもピアノ弾いてます的な演技は素晴らしい。さらにいうとMGMで『世紀の女王』や『錨を上げて』『三銃士』などを演出し、ジーン・ケリー作品をこなしているジョージ・シドニー監督は、演奏シーンに凝ったカットをふんだんに盛り込んでいる。そのへんが音楽映画としても秀逸で楽しませるものになっている。

 あまり期待しないで観た映画だが思わぬ収穫というか、この音楽映画は思いのほか楽しめた。少なくとも『五つの銅貨』『ベニー・グッドマン物語』よりは映画の質としても上という感じがした。この映画の制作は1956年、64年前の作品だが、今でも十分楽しめる。ニューヨークの情景、タイロン・パワーキム・ノヴァクの好演、そしてジョージ・シドニーの気の利いた演出、そうした部分が三位一体となって良質な音楽映画に仕上がっていると思った。