華麗なる激情

 久々に観た。子どもの頃にテレビで観て妙に印象深く記憶に残っていた映画だ。その後、もう一度観たいと思ってはいたのだが、レンタルのビデオやDVDもなくそのまま忘れていたのだが、多分10年くらい前にどうしても観たくなりAmazonで検索してDVDを購入した。

 ルネサンス期の天才ミケランジェロの芸術的苦悩を映画化した映画である。彫刻家を自認するミケランジェロ教皇ユリウス二世に強制されて取り組むシスティーナ礼拝堂の天井画の制作過程を描いている。

華麗なる激情 (映画) - Wikipedia

 ミケランジェロを演じるのはチャールトン・ヘストン。「ベンハー」「十戒」「エルシド」などから史劇俳優のイメージ、また「地上最大のショー」「北京の55日」など大作映画、「猿の惑星」「ソイレント・グリーン」のSFなど幅広い役を演じた。60年代のハリウッドを代表する男優スターだ。晩年な全米ライフル協会の会長に就任、マイケル・ムーアにおちょくられてその頑迷さ映像化されてたりした。

 どちらかというとアクション系に強く、演技派ではないチャールトン・ヘストンミケランジェロどうかという部分もなきにしもだが、史劇を得意とする人だけに無難に演じている。

チャールトン・ヘストン - Wikipedia

 ミケランジェロに対峙するユリウス二世役はレックス・ハリソン。もともと舞台俳優で演技派俳優、この映画の前後は、「マイ・フェア・レディ」、「三人の女性への手紙」「ドリトル先生の不思議な旅」などに出演とハリウッドであぶらののった活躍してた時期でもある。

レックス・ハリソン - Wikipedia

 そして監督はあの「第三の男」のキャロル・リードである。正直、リードにしてはやうや凡庸な演出といえなくもないけど、きちんとミケランジェロとユリウス二世の葛藤劇としてまとめるなど職人的な演出だ。

キャロル・リード - Wikipedia

 役者の演技という点でいえば、チャールトン・ヘストンに過剰な演技もレックス・ハリソンの教皇という重厚な役どころを飄々と人間味たっぷりに演じるそれに正直くわれているように思う。こと演技という点ではレックス・ハリソンのほうが数段上だ。この映画はオスカーの受賞はなかったが、もし男優陣がノミネートされるとすれば、チャールトン・ヘストンよりもレックス・ハリソンだったかもしれない。ちょうどシドニー・ポワチエの主演映画だったのにオスカー主演男優賞をロッド・スタイガーが受賞した「夜の大捜査線」みたいな風に。

 二大スターの共演による映画だが、この映画の主役は実はミケランジェロの作品である。冒頭に10分程度、ミケランジェロの作品が紹介され、ナレーションと共にミケランジェロの生涯が説明される。このへんが教養映画というか、これから始まる映画の予備知識ですよみたいな感じである。この時代にはこういう演出わりとあったなと。ついでにいえばこの映画140分程度の映画なのに、途中できちんとインターミッション(休憩)が挿入される。こういうのも60年代映画的だ。

 話を戻すが、二大スターとともにスポットがあたるのはミケランジェロの傑作であるシスティーナ礼拝堂の天井画である。実際の制作期間は4年というが、あの巨大な天井画をいかにして天才ミケランジェロが描いていったかが克明に表される。そう実はこの映画の主役はシスティーナの天井画である。

 システィーナ礼拝堂バチカン宮殿にある礼拝堂でサン・ピエトロ大聖堂北隣に位置する。ミケランジェロの天井画や「最後の審判」を描いた祭壇画などが有名。教皇選出の会議を行うコンクラーヴェが行われるところでもある。決まるとなんか煙がでるところですね。建物全体が、ミケランジェロの絵を含め素晴らしい、荘厳な芸術作品のようなところで、実際に行った友人とかは、「凄いよ、一回いけば」と気軽に言ってくれる。ローマは遠いよ。

 とはいえ、システィーナ礼拝堂が実際どういういものかは、実は日本にいても体感できる。これまでにも何度も書いているけど、鳴門にある大塚国際美術館には複製陶板画による原寸のシスティーナ・ホールがある。複製陶板画というと、「しょせんまがい物でしょ、コピーでしょ、猿真似だよ、オリジナルじゃないと」、そういう反応が割と楓通にあるけど、行ってみればわかる。あれは凄いし、日本国内にいて天才ミケランジェロの作品を目の当りにできる。

大塚国際美術館|徳島県鳴門市にある陶板名画美術館

システィーナ礼拝堂天井画完全再現の意味|大塚国際美術館の特徴|大塚国際美術館 - 四国

 これも何度も書いているけれど、大塚国際美術館には通算すると12~3回は行っている。なのでシスティーナの天井画については同じくらい観ていることになる。なのでオリジナルを1回か2回みた人よりは、実はあの荘厳かつ優美にして劇的な絵について語れる、凄さがわかる。そしてあの絵をほぼ一人で作り上げたミケランジェロの偉大さもわかる。そのうえでのこの映画「華麗なる激情」である。

 この映画の原作はアーヴィング・ストーン。アメリカの伝記作家、小説家である。ミケランジェロを題材にしたこの作品以外でも、割と有名なのはゴッホを扱った「Lust for Life」がある。これも映画化されていてカーク・ダグラスが演じた。邦題は「炎の人ゴッホ」。チャールトン・ヘストンと同じく史劇やアクションが得意なカーク・ダグラスゴッホを演じているところなど、割と共通点多いかもしれない。この映画もけっこう好きでDVDを持っていてときどき観返している。ゴッホのオリジナルをそのまま映像化させるなど、ヴィンセント・ミネリの映像表現が巧み。画家を描いた伝記映画の中では多分最良の作品かもしれない。

炎の人ゴッホ - Wikipedia

 この映画ではゴーギャンを演じたのがアンソニー・クイン。登場場面はさほど多くないがきわめて印象的。クインはこの映画でアカデミー賞助演男優賞を受賞している。

 「華麗なる激情」でミケランジェロを演じたチャールトン・ヘストンとユリウス二世を演じたレックス・ハリソン。「炎の人ゴッホ」でゴッホカーク・ダグラスゴーギャンアンソニー・クイン。助演が主演を食っているという点も二つの映画、共通点があるかもしれない。

 久々に観た「華麗なる激情」はけっこう面白かった。実をいうと今受講している通信大学の西洋美術史で7月から始まるヨーロッパ2の冒頭が、盛期ルネサンスで最初の1章がミケランジェロだったりする。予備知識つけようと思って、棚から引っ張り出してみたというのが本当のところでした。

 まあ西洋絵画好きの人にはお勧めの作品だとは思う。アマプラ、Netflixとか配信系では見当たらないのでDVDを購入する以外にはないのかもしれない。自分が買ったときはもっと安かったけど、今はそこそこするみたいでちょっと躊躇するかもしれないけど。