八王子市夢美術館~近代西洋絵画名作展

f:id:tomzt:20201228014501j:plain
f:id:tomzt:20201228014506j:plain

 ネーミングが今一つだが、八王子市が市民が気軽に楽しめる美術館として設立したもの。駅に近い街中の28階建ての複合ビルにある美術館。ビルの上層部はURの賃貸住宅が入っているのだとか。

八王子市夢美術館 - Wikipedia

 日動美術館のコレクションということで食指が動き行ってみようということになった。館内はこじんまりとしているが、そこに日動美術館の名画がほどよい間隔で展示してある。そして客がほとんどいないのでゆっくりと観て回ることができる。

 アクセスしやすい街中の美術館で、モネ、ルノワール、ルドン、ピカソマティスらの名画を鑑賞できるというのに、しかも日曜日だというのにと思うと、八王子市民のみなさんもったいないと思わないでもない。もっともコロナの影響であまり沢山の客が来てもということもあるのだろうけど、この閑散とした状態はちょっと残念な気がしないでもない。

 笠間の日動美術館には多分2~3回は足を運んでいるので、ほとんどの絵を観ているが改めて良い絵をもっているなと再認識する。まあほどよく趣味の良いコレクションという雰囲気だ。

f:id:tomzt:20201229014517j:plain

『ヴェトゥイユ、水びたしの草原』(クロード・モネ

 ポスターやチラシにも使われている多分目玉的な作品。まあいつものモネである。全体的に青みを帯びた灰色の色調であるのが興味をひく。

f:id:tomzt:20201228213046j:plain

『横顔の女(左向きの)』(オディロン・ルドン

 深海のような深い青を背景に瞑想する女性を神秘的に描いた作品。日動美術館の長谷川徳七氏はこの作品を一目みて気に入り購入したという。

f:id:tomzt:20201228213041j:plain

『室内の裸婦』(ピエール・ボナール

 美術史的にはナビ派とされるボナールだが、意外と装飾的でも平面的でもない。カラフルな色遣いは印象派フォーヴィズムの中間にあるような印象をいつももっている。この絵でも裸婦の背中の影の部分をピンクと薄紫の濃淡で描いている。モデルは当然マルトだと思われる。端正なプロポーションが浮世絵を意識した縦長のカンヴァスで際立っている。

f:id:tomzt:20201228213037j:plain

『ボートのある風景』(アルベール・マルケ)

 今回の企画展で一番気に入ったのが実はこれ。凡庸な風景画かもしれないが、何気に水面に映った木々たちのゆらめくような表現は、「水の画家」と評されたこの画家の真骨頂かもしれない。

 マルケはフォービズムの一人とされているけれど、自分の中にはなんとなく「どこが」みたいな感じもある。フォービズム特有の原色の激しい色使いとは真逆で、グレーや淡いブルーを基調としたその作品群は、静的で落ち着いた詩情が込められているように思う。いつまでもいつまでも眺めていられる。

 これまで断片的な形で観てきたマティスの『ジャズ』のほとんどが展示されていた。もともと出版人テリアードによって出版された切り紙絵の版画集で限定270部限定のものだったという。国内でも日動美術館やポーラ美術館などいくつかの美術館がこの版画集を所蔵しているようで、時折そのうちの数葉が展示される。自分はというと多分、そのすべてを観たのは実は初めてかもしれない。

f:id:tomzt:20201228213024j:plain

『水槽を泳ぐ女』

f:id:tomzt:20201228213033j:plain

イカロス』

f:id:tomzt:20201228213050p:plain

『サーカス』

 すぐれた色彩感覚とその表現、フォルムの単純化といったマティスの特徴、その行き着く先にあったのは、実はこの切り紙絵の世界だったのかもしれない。そんなことを考えつつ、多分一番時間をかけてこの作品群を観ていた。