横浜へ行く

夕方近くなってから横浜の兄のアパートへ行く。引越しの最終確認である。
前回訪れたのは17日で引越し業者との契約時だったが、それからの10日ちょっとで随分と部屋の中が整理されていた。棄てるべきものはほとんど棄てられていたし、床や窓、壁もそれなりには吹き掃除がされていた。やれば出来るというところか。ほとんどゴミ屋敷然としていた部屋が、それなりに築年数を経たアパートに見えないわけでもないくらいにはなっていた。
そのため特に掃除とかを手伝うこともなく、来週一週間で行うことの確認をして、少しだけ荷物類を車に積んで帰った。持ち帰った荷物の中には古い古い衣装用のトランクがあった。これは私が物心ついた時には家にあった。私が覚えている限りでは、最初そこには父が持っていた推理小説の類がたくさん入っていた。金属製のもので、兄が言うにはおそらく米軍が使用していたものではという。
たぶん私が生まれる前から家にあるのだから、すでに60年近くを経過している代物だ。ひょっとしたら、戦前から所有していたものかもしれない。薄汚れてあちこちに錆びも出ているものだ。
兄は最初、これも棄ててしまおうと言ったが、私はなんとなく残しておきたいと思って、引越し先の収納スペースはけっこうあるからとりあえず持っていこうと提案した。そしてこのトランクが引越しの見積もり時に入れてなかったので、車に積んでいくことにした。
横浜時代、それも山下町に住んでいた頃の品物はほとんどが無くなってしまった。ある意味、このトランクは当時を思い出させる唯一のモノかもしれない。いずれは自分の家に持ってこようとも思う。別にカラッポのトランクには当時の懐かしい思い出が詰まっているみたいな、そんな安っぽい感傷があるわけでもないのだが。